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2011年06月09日21:56

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八大龍王伝説 【147 第一龍王難陀(三) 〜神の炎(ゴッドフラメ)〜】


 いつもお読みいただいている皆さま、ありがとうございます。
 朱雀騎士団の一撃離脱戦法……ゴッドフラメの洗礼を聖王国が受けます。それでは八大龍王伝説をはじめます。


【147 第一龍王難陀(三) 〜神の炎(ゴッドフラメ)〜】


〔本編〕
「前面の槍兵(そうへい)! ナンダに攻撃を仕掛けても勝ち目はない! 楯で防御しながら、朱雀騎士団の進軍ルートをあけろ! 後方の歩兵も前面の槍兵に合わせて、左右に分かれろ!」シェーレがこう叫ぶ。
「弓兵(きゅうへい)! 矢は射るな! 味方にあたるぞ! 陣形を崩さず、敵が離脱したところで狙いをつけろ!」ドンクも声を嗄(か)らしてこう叫んだ。
 この朱雀騎士団の独特な一撃離脱の戦法は、バルナート帝國の兵の間では、『神の炎(ゴッドフラメ)』と呼ばれている。
 ソルトルムンク聖王国が実際にこのゴッドフラメを目の当たりにしたのは二度目。一度目は昨年である龍王暦一〇五〇年の三月、バクラの戦いの一日目、その時は四万の兵を率いた前人和将軍ムーズが、このゴッドフラメの洗礼を受けた。
 百戦錬磨、生きる軍神とまで言われたムーズをして、四度目のゴッドフラメで軍は崩壊した。むしろ、ムーズであったからこそ三度目までは軍として耐えることができたのであろう。
 そして二度目が今この時である。兵は一万。バクラの時の四分の一である。副官のシェーレ、ドンク、共に優秀な人物であることは言うまでもない。しかし、どちらも一万に及ぶ兵を運用したことは今まで一度もない。それになんと言っても若いが故、戦(いくさ)の経験の浅さは如何(いかん)ともし難い。
 ハクビ、シェーレ、ドンクの三人の戦歴を積み上げても、故ムーズ将軍の戦歴の半分にも及ばないのだから……。
 やはり、一万の聖王国の軍はナンダのゴッドフラメが駆け抜けたところから崩れはじめた。シェーレ、ドンク、そして龍人(ドラゴノイド)のソヤも加わり、必死に軍の立て直しをはかった。
 しかし、一度崩れだした軍の勢いは戻すことはかなり難しかった。やがてナンダは予定通り敵軍の中程で転身をした。角度にして百三十五度の鈍角。故ムーズ将軍が率いていた時と角度が異なっていた。
 ハクビがムーズ将軍から聞いていた話では、転身角度は四十五度から五十度の鋭角であったという。後になって知ることだが、鋭角で転身する時は敵軍がまだ崩壊していない時、鈍角で転身する時は敵軍がかなり崩壊に向かっている時ということらしい。
 百二十度で転身すれば、次の一撃は敵軍の後方近くになる。まさに次の一撃で聖王国軍は全軍崩壊、或いはそれ以上の全軍壊滅をしていたかもしれない。
 ハクビもナンダの正面に回り込むことはほとんど不可能になっていた。ハクビはナンダとの最初の接触後、南西の方向に移動した。しかし、ナンダは西から北西へと転身したのである。
 完全に予測と逆の方向である。これはたまたま予測が外れたのか、ナンダがハクビの動きを読み、外したのかは今となっては分からない。とにかく、このまま戦いが推移すれば、聖王国軍は大敗北を喫していただろう。
 しかし、その時帝國の本陣から一つの赤い狼煙があがった。帝國の者なら誰もが知っている狼煙の色であった。『一大事が発生! 早急に本陣に戻ることを請い願う』という意味の狼煙であった。

「何が起こったのだ!」ナンダが大声を出しながら、本陣に戻ってきた。
 ナンダの率いていた百人のゴッドフラメ隊は北西方面に敵軍を突き抜けた後、本来の行動である西方向からの二回目の突撃を中止し、逆に北東方面へ大きく迂回をして東方軍本陣に戻ってきたのであった。
「はっ! 実は先行していた南方軍からの火急の報告です」東方軍の本陣にいた副官代理が慌てて言った。
「どうした! 副官代理!! ドプトルの軍がどうしたのだ!」
「はっ! あっ……あの……」
 ナンダは怒っていた。いや激怒していた。只でさえ、バルナート帝國宰相のマクダクルスとの条件に縛られ、不本意な戦いを強いられている。マクダクルスとの取り決めとはいわゆる『一騎打ち禁止』のことである。
 神の炎――ゴッドフラメと呼ばれる戦法は、敵に阻まれない限り直進をする。特に先頭のナンダは、どのような障壁があろうとも踏みとどまらず前進しなければいけない戦法である。
 ナンダは性格が実直である。少しでも小狡(こずる)い性格であれば、ゴッドフラメで先頭のハクビとぶつかった時点で、一騎打ちの形に移行させればいいものである。しかし、それがナンダにはそれが出来ない。
 約束事であるというのも理由の一つだが、ナンダ自身の信条がそれを許さないのであろう。
 とにかく、それらが複雑に絡み合って苛々(いらいら)していたところに、作戦を中断しての帰陣の要請である。それも緊急性の最も高い赤の狼煙。ナンダはついにここまでの怒りの蓄積を、帰陣の合図を出した副官代理の兵にぶつけたのである。
 副官代理の兵は、ナンダの怒りに飲まれ、しどろもどろになった。
「だから! 南方軍からの報告は何だ?」「はっ!」
「ドプトルからの報告なのか?」「あっ! いえ!」
「では誰からなのだ!」「そ・その!」
「はっきり言え!」「はっ!」
「申し上げます!」副官代理の家臣が矢も楯もたまらず口をはさんだ。
「ドプトル様の率いる四千の南方軍は、去る七月二一日の昼、ソルトルムンク聖王国の王城から南東に三百キロの地点で、聖王国軍一万の襲撃を受けました」
「何? 聖王国軍一万の襲撃だと……」ナンダは副官代理の家臣に目を向けた。
「それで結果は?」「はっ! 申し上げます……」副官代理も少し落ち着いたようで家臣からの報告を引き継いだ。
「四千の兵は全滅! ドプトル殿は戦死されました!」
「そうか……」ナンダの声が静かになった。
「怒鳴って悪かったな! 副官代理! 大隊長を至急集めてくれ!」「はっ!」副官代理とその家臣が本陣を下がった。
 ナンダは大隊長が集まる間、無言で一人、目を瞑(つむ)ったのであった。



〔参考一 用語集〕
(人名)
 シェーレ(ハクビ将軍の副官)
 ソヤ(沙伽羅龍王に仕えていた龍人)
 ドプトル(朱雀騎士団の大隊長の一人。『小ナンダ』の異名を持つ)
 ドンク(ハクビの副官)
 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長)
 ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍)
 マクダクルス(バルナート帝國の宰相)
 ムーズ(ソルトルムンク聖王国の前人和将軍。故人)

(国名)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)
 バクラ(ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境にある町 町の中心に国境があり、北側がバルナート帝國領、南側がソルトルムンク聖王国領である)

(竜名)
 ドラゴノイド(十六竜の一種。竜と人との混血で、竜の血が多く混じっている種類。『竜人』とも言う)

(その他)
 朱雀騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ナンダが軍団長)
 バクラの戦い(龍王暦一〇五〇年三月のバルナート帝國連合とソルトルムンク聖王国連合の戦い。帝國側が勝利)


〔参考二 大陸全図〕
フォト



〔参考三 あらすじ〕
 龍王暦〇〇〇一年 八大龍王によって八つの國(くに)が建国される。

 龍王暦一〇四九年八月 ソルトルムンク聖王国にあるクルス山でハクビが発見される。ハクビは記憶喪失。

 龍王暦一〇五〇年二月一五日 ソルトルムンク聖王国のコリムーニ老聖王とバルナート帝國のロードハルト帝王がバクラにて会談。その席上コリムーニ老聖王が急死する。
 同年三月一〜三日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國が国境の町バクラで交戦、ソルトルムンク聖王国側大敗(バクラの戦い)。
 同年同月一〇日 ソルトルムンク聖王国の王城陥落。聖王国滅亡。ジュルリフォン聖王子は大陸最南端のツイン城に逃げ込む。
 同年五月三日 コムクリ村にバルナート帝國軍が襲撃、ハクビが白虎騎士団のバルゴー隊長を倒す。以後、グラフ将軍に助けられ、残党軍の拠点であるアユルヌ渓谷に到着する。
 同年八月初頭 バルナート帝國とミケルクスド國連合軍がジュリス王国を滅ぼす。
 同年九月四〜五日 聖王国軍と帝國軍がツイン盆地で激突(ツイン城の戦い)。帝國軍ツイン盆地より撤退。
 同年一〇月一〇日 マルシャース・グール奪回の戦いにおいて、聖王国軍が勝利する。
 同年同月一五日 バルナート帝國とカルガス國連合軍がクルックス共和国を滅ぼす。
 同年同月二六日 バルナート帝國がゴンク帝國を滅ぼす。
 同年同月三〇日 ジュルリフォン第四十九代聖王誕生。ソルトルムンク聖王国の復活。
 同年一一月一一日 ハクビとバルナート帝國朱雀騎士団の軍団長ナンダが戦い、ハクビが敗北する。
 同年一二月一〇日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の間で半年間の休戦条約が締結される。

 龍王暦一〇五一年一月一日 聖王国と帝國が休戦期間に入る(同年六月三〇日まで)。
 同年二月十五日 ハクビが『第八の山』でカリウスと会う。
 同年三月 ソルトルムンク聖王国のマクスール軍とミケルクスド國が戦う。ミケルクスド國が勝利する。
 同年同月二〇日 ソルトルムンク聖王国が敗戦処分を行う。マークは反逆罪になる。
 同年同月二四日 マークがミケルクスド國の首都イーゲル・ファンタムに到着。ラムシェル王に謁見する。ホルム、スリサの両親と再会する。
 同年五月二五日 ハクビがスキンムル城に到着。
 同年七月一日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の休戦協定の期限が切れる。
 同年同月一日〜 バルナート帝國朱雀騎士団がマルシャース・グールに向けて進軍を始める。 
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