mixiユーザー(id:15312249)

2011年06月04日23:04

20 view

八大龍王伝説 【146 第一龍王難陀(二) 〜思惑〜】


 いつもお読みいただいている皆さま、ありがとうございます。朱雀のナンダとハクビのファーストコンタクトがあり、ことは意外な方向へ向かっていきます。
 それでは、八大龍王伝説をはじめます。


【146 第一龍王難陀(二) 〜思惑〜】


〔本編〕
 ナンダとハクビの距離が十メートルに縮まった。
 ナンダは聖王国兵が射た矢をかわすために、振り回していた三メートルにも及ぶ得物――『紅き火の槍(ロートフォイアーランツ)』をハクビに向かって突き入れた。
 その突きの瞬間は、やはりハクビの目にはとまらなかった。
 しかし、ハクビにはナンダの槍の突きがどこを狙っているか分かっていた。正確に言うとハクビのどこを狙っているのか選択肢が絞り込まれていたということであった。
 さて、遡ること二日前の七月二三日、褐色に擬態したヴァイスドラゴネットのカリウスと打ち合わせをした時のことである。
「……ところでハクビ! ナンダが突進してくる正面から攻めるというのは分かった。それしか選択肢がないと私も思う。しかし、どのようにしてナンダの槍の突きの軌道を見極める? 見極めると言っても、ナンダの突きは目には止まらないぞ! その方法が分からぬ限り、ナンダに向かっていくという無茶な戦法に付き合うわけにはいかない! お前の生命の保障ができないからな……」
「僕を心配してくれるのか? カリウス!」
「馬鹿! そんなわけあるか! ただ……私は、自分の背中で誰かが死ぬという汚点を戦歴に付け加えたくないだけだ!!」
「そうか! カリウスらしいな! でも大丈夫だ! 彼(ナンダ)の突きの軌道は目には見ることができないが、突かれる箇所は予測することが可能だ!」
「突かれる箇所だと? そんなのお前の体中に無数にあるではないか?」
「そうでもない! 僕の予測するところ二か所に絞られる。眉間(みけん)と左胸の二か所だ!」
「……」カリウスの無言に、ハクビが続けた。
「ナンダの性格から言って、一撃で敵を葬ろうとするはず。つまり急所を狙ってくるであろう。ナンダの攻撃の正確さから言って、頭部であれば眉間の部分。胸部であれば心臓のある左胸の中心点。……この二か所で先ず間違いない」
「なるほど! しかし眉間と左胸の二か所に絞られたからといって、その二か所のどちらかは、どのようにして見極めるのだ? それからナンダの突きが繰り出されるタイミングは?」
「そこはナンダの槍を繰り出す腕の動き……特に手首の動きに全神経を集中させる」
「そして、最後は勘に任せるしかないということか……」
「そう言う結論になるな!」カリウスの皮肉にハクビは正直に答えた。
「ふっ!」カリウスは意地悪そうに笑い、言った。
「まあ若干、ギャンブル的要素があるほうが面白いかもな……その確率を高めるのに私も全力を尽くそう!」と……
 さて話は二日後に戻る。
“心臓が狙いだ!”ハクビはナンダの右手首の角度を見てそう決断した。
 決断したと同時にハクビはナンダに正対していた体の右側を前に……つまりは左側を後ろに体を捻るようにナンダの突きをかわした。ハクビはかわしたと思った突きだったが、左胸を覆っていた鎧には右から左へ一文字の亀裂が生じた。
 しかし、ハクビはそれには気にも留めず両手で握っていた長斧をナンダの脇腹目がけて打ち込んだ。脇腹を含む腹部はそれ自体が急所ではないが、体の中心部分であるため、一番狙う面積が広く、また一番よけるのが難しい部位である。
「キィィィ〜ン!!」鋭い金属音が辺りに響き渡った。
 しかし、それはハクビの長斧がナンダの鎧に当たった音ではなかった。ナンダの武器である紅き火の槍-――ロートフォイアーランツの柄に当たった音であった。
 ハクビの心臓を狙ったナンダの槍は、その標的をかわされた次の瞬間、ナンダの脇腹を防御したのであった。ナンダの槍による突きは、人の目に止まらない程速いが、その引きもやはり突きと同等以上の速さであった。
 しかし、ハクビは長斧の攻撃が受け止められたと感じた瞬間、左手を背にまわし、腰のあたりに装備していた短斧をつかみ、つかんだと同時にナンダ目がけて投げていた。
 どこを狙うという見極めた上での投擲(とうてき)でなく、ただ、次のナンダの攻撃に対するけん制目的の投擲であった。
 ヴァイスドラゴネットのカリウスも、ハクビの意図を察し、九十度、体(たい)を左に転回し、ナンダの左側面に対し正対する形をとった。ナンダに正対している形になったとハクビもカリウスも確信した。
 しかし、ハクビとカリウスの目の前には、いるはずのナンダがいなかったのである。カリウスが正対するのとほぼ同時に放った短斧も、ナンダから何らリアクションも受けず宙を、弧を描いて飛んでいってしまった。
「しまった!」ハクビの放った声であった。
 ハクビもカリウスもナンダは一騎打ちを所望していると、当然の如く信じていた。まさか、突きの一撃後に、そのまま方向を変えず前進するとは考えもしなかった。ハクビがそれを悟って、後ろを振り返った時には、ナンダはハクビから見て既に百メートル後方を駆けていた。
 そのナンダの後ろに二列に並んだ朱雀騎士団の兵士が続いた。ハクビに着いてきた後方の聖王国軍の兵士達はと見ると、ハクビがナンダとの接触地点で止まったせいで、当然その後ろで止まっていた。
 ハクビはナンダを追いかけようと一瞬思ったが、それは踏みとどまった。
 ナンダを今から追いかけても追いつくはずがない。ハクビとカリウスにこれから出来るのは、ナンダが聖王国軍の軍を突き崩した後、転回して離脱してくる時を待ち受けるか、それが間に合わなければ、離脱後再び転回し、再度聖王国の軍に攻め入る時に正面に立ちふさがるような位置を確保するしかない。
 ナンダが必ずしもハクビとの一騎打ちにのみこだわっていない以上、こちらからナンダの動きを読み、ナンダが動く延長線上にハクビ自らを位置づけなくてはいけない。それも相応の距離――最低でも五十メートルから八十メートル程度の距離をとらないと、カリウスがトップスピードを発揮出来ない。
 それとは別に、それ以前に大きな問題がある。聖王国軍がナンダの一回目の一撃離脱の突撃から、軍全体の崩壊を防がなければならない。これは本隊から離れたハクビにはどうしようもないことであった。
“たのむ! シェーレ! ドンク!”ハクビには祈るしかできなかった。
 そして、ハクビも後方についてきた百人程度の兵と共に二列の陣形のまま、東から南に向けて動き出した。
 ナンダの突撃の離脱する方向と二度目の突撃の方向を同時に予測しながら……



〔参考一 用語集〕
(人名)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 シェーレ(ハクビ将軍の副官)
 ドンク(ハクビの副官)
 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長)
 ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍)


〔参考二 大陸全図〕
フォト

 

〔参考三 あらすじ〕
 龍王暦〇〇〇一年 八大龍王によって八つの國(くに)が建国される。

 龍王暦一〇四九年八月 ソルトルムンク聖王国にあるクルス山でハクビが発見される。ハクビは記憶喪失。

 龍王暦一〇五〇年二月一五日 ソルトルムンク聖王国のコリムーニ老聖王とバルナート帝國のロードハルト帝王がバクラにて会談。その席上コリムーニ老聖王が急死する。
 同年三月一〜三日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國が国境の町バクラで交戦、ソルトルムンク聖王国側大敗(バクラの戦い)。
 同年同月一〇日 ソルトルムンク聖王国の王城陥落。聖王国滅亡。ジュルリフォン聖王子は大陸最南端のツイン城に逃げ込む。
 同年五月三日 コムクリ村にバルナート帝國軍が襲撃、ハクビが白虎騎士団のバルゴー隊長を倒す。以後、グラフ将軍に助けられ、残党軍の拠点であるアユルヌ渓谷に到着する。
 同年八月初頭 バルナート帝國とミケルクスド國連合軍がジュリス王国を滅ぼす。
 同年九月四〜五日 聖王国軍と帝國軍がツイン盆地で激突(ツイン城の戦い)。帝國軍ツイン盆地より撤退。
 同年一〇月一〇日 マルシャース・グール奪回の戦いにおいて、聖王国軍が勝利する。
 同年同月一五日 バルナート帝國とカルガス國連合軍がクルックス共和国を滅ぼす。
 同年同月二六日 バルナート帝國がゴンク帝國を滅ぼす。
 同年同月三〇日 ジュルリフォン第四十九代聖王誕生。ソルトルムンク聖王国の復活。
 同年一一月一一日 ハクビとバルナート帝國朱雀騎士団の軍団長ナンダが戦い、ハクビが敗北する。
 同年一二月一〇日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の間で半年間の休戦条約が締結される。

 龍王暦一〇五一年一月一日 聖王国と帝國が休戦期間に入る(同年六月三〇日まで)。
 同年二月十五日 ハクビが『第八の山』でカリウスと会う。
 同年三月 ソルトルムンク聖王国のマクスール軍とミケルクスド國が戦う。ミケルクスド國が勝利する。
 同年同月二〇日 ソルトルムンク聖王国が敗戦処分を行う。マークは反逆罪になる。
 同年同月二四日 マークがミケルクスド國の首都イーゲル・ファンタムに到着。ラムシェル王に謁見する。ホルム、スリサの両親と再会する。
 同年五月二五日 ハクビがスキンムル城に到着。
 同年七月一日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の休戦協定の期限が切れる。
 同年同月一日〜 バルナート帝國朱雀騎士団がマルシャース・グールに向けて進軍を始める。
2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する