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2011年03月29日12:58

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八大龍王伝説 【133 傀儡(くぐつ)】 


いつもお読みいただいている皆様、ありがとうございます

早速、八大龍王伝説をはじめます


【133 傀儡(くぐつ)】


〔本編〕
龍王暦一〇五一年四月八日、ソルトルムンク聖王国の天時将軍マクスールは、十人に満たない兵に守られながら、聖王国の王城であるマルシャース・グールに命からがら逃げ戻ってきた

それを家臣から聞いた聖王国の王−ジュルリフォン聖王は大いに怒り、マクスールの謁見を禁じ、刑罰が決まるまでの間自宅に謹慎するよう申し渡した

その翌日の九日、ジュルリフォン聖王の玉座の間に、宰相のザッドが訪れた

「ザッド!奴、マクスールは無能だ!今まではそちの顔を立てて許してはきたが…朕(ちん)の我慢にも限度がある!今回の大惨敗は許さぬ!奴…マクスールは死罪だ!」

ジュルリフォン聖王の怒りは、側にいる侍従が怯える程すごいものであった

「御鎮まり下さい!王よ!短慮はなりませぬ!」

ザッドはその王の怒りに対し、淡々と対応をしていた

それがますます癇(かん)に障った聖王はさらに怒りを爆発させた

「短慮だと!控えよザッド!その言葉もう聞き飽きたぞ!マクスールはマルドス城からの単独逃亡において我が軍を危機に陥れた時にさっさと始末すれば良かったのだ!

その後のカムイ城救援戦で、勝利したのはマクスールの手柄のようにそちは言っているが、本当の手柄がハクビとその小隊の力であることを朕が知らないとでも思っていたのか!

さらに去年の一〇月の王城奪回戦で、奴の手並みを見たが、あれは凡将以下の愚将だぞ!マクスールの生存は百害あって一利も見いだせない!朕が直々に手を下したい程だぞ!」

「聖王!重ねていいます!短慮はなりません…マクスールの件は、小生に任せておいていただきたい理由がございます 今この場でお話ししますので、お人払いを…」

ザッドのこの言葉にさらに怒りを増していた聖王であったが、ザッドの目に宿る不気味な輝きに、しばし怒りを治めていった

「他の者はこの場を去るように!」

聖王の言葉に侍従以下全員が去った

玉座の間はジュルリフォン聖王とザッドの二人だけになっていた

「今、この場は朕とそちだけだ…マクスールを殺さない必要性を語ってもらおう」

「我が王よ!小生が四年前におそばに召し抱えられた時、小生が誓った言葉をお忘れですか?」

「忘れられようか…そちの力で朕を、ヴェルト大陸全土を統(す)べる王にすると誓ったことだな!」

「はい!それが我ら共通の主(リーダー)の悲願でもあります しかし、それを行うのに王と小生だけでは手が足りません 我らが使役できる手駒が…」

「それでそちはその手駒をあの無能で臆病なマクスールに求めるのか!奴ではこちらが足を引っ張られ、危地陥る羽目になりかねないのではないか!」

「マクスールの能力や性格はこの際、関係ありません 奴という存在だけでいいのです こちらの“傀儡(くぐつ)”とすればよろしいのです」

「それは可能なのか!ザッドよ!」

「はい!小生の手にかかれば、造作もないこと そして今がその時でもあります!聖王!小生に全てお任せいただけましょうか?」

ジュルリフォン聖王はしばし考えた後、言葉を発した

「よかろう!そちに全て任せる!朕らの悲願のために…」

「ははっ!さすがは聡明な聖王!我らは別の個でありながら、共通の個であります その曇りのない信頼こそ我ら共通の主(リーダー)の願いを成就できると思われます」

ザッドはそう言うと、一礼して玉座の間を後にした

翌一〇日である

ザッドはマルシャース・グール王城の郊外にあるマクスールの自宅を訪ねた

マクスールは自宅に謹慎しており、敗戦の疲れでかなりやつれていた

マクスールの妻に案内されてザッドが、マクスールの私室に通された

「おお〜宰相殿!いかがですかな聖王のご様子は?お怒りでございましょうか?」

「お怒りでございましょうか?ですと…」

ザッドはマクスールのこの発言に事の重大さを気付いていないマクスールの愚かさを感じた

「今回の我は非常に運が悪かったのです!なにとぞ宰相殿からお取り無しを…」

「運が悪かった?将軍は何も分かってはいらっしゃらない」

ザッドはやれやれといった感じで続けた

「ちなみに将軍はどんな処罰をご想像されているのかな?」

「処罰?やはり罰を受けるのですか?何とかそれを無いことにしていただけないでしょうか?宰相殿の力で…」

「小生の力など微々たるもの それで将軍は自分への処罰はどのくらいだと思われているのですか?」

ザッドは呆れながら、再びマクスールに問うた

「ううん〜そうだなぁ〜我としても今回の失敗には少しは責任を感じている 天時将軍から一般の将軍位への降格ぐらいは覚悟しているが…」

「その程度で済むと考えておるのですか?将軍は…」

ザッドの口調がややとがった

「済みませんかな!それでは副官か大隊長クラスへの降格ぐらいは考えなきゃだめですかね」

「本当にその程度だとお思いでしょうか?」

マクスールの顔が青くなった

「まさか!小隊長クラス…最悪一般兵への降格も考えなければということなのか?」

ザッドは急にマクスールの私室に反響するくらいの声で言いはなった

「聖王は大変激怒されておられる!将軍!お前は死を持ってしかこの罪は償えないのだ!王自らがお前の命を取ろうと考えている程のお怒りなのだから」

「・・・」

マクスールの顔から血の気が一気に失せ、震えが全身に起こっていた

それはザッドが見て気がつく程、動揺していた

「さ・宰相殿!」

やっとかすれた声が出たマクスール将軍はザッドの袖にすがった

「ざ・ザッド!い・いやザッド様!…このマクスールは死にたくありません!なにとぞ聖王へのお取り無しを…」

ザッドは縋(すが)ってくるマクスールを一瞥(いちべつ)し言い放った

「聖王のお怒りから察するに、将軍!あなたの死は確定している これだけの大敗北をして、その指揮官が死を賜らないという事態になれば、それこそ聖王国民に対して王の示しがつきません」

「死にたくない!我は何も悪くない!副官をはじめ部下が無能だったから負けたのだ!畜生!リルムリめ!マークめ!」

「しかし、その二人の副官はどちらも生死が分からぬまま行方不明の状態!やはり指揮官に責任が帰すると思われるが…ただ…」

ザッドは無表情のまま続けた

「一つだけ、死を免(まぬが)れる方策があるが…」

「何!」

マクスールは泣きながら、ザッドを見上げた

ザッドは小柄であるが、この場合、マクスールは跪いて縋っているので、目線はザッドを見上げる形になっていた

「但し、それには条件があるのですが…将軍!」

「どんな条件だ!何でも聞くぞ!」

「条件はこれです!」

そう言うとザッドは懐から銀色の小さな丸薬を取り出した

「これは、私が調合した傀儡(くぐつ)の薬です!これを飲んでいただきたい!これを飲むということは、将軍は小生の木偶(でく)となることを意味しています!言っている意味はお分かりですか?」

「??」

マクスールは一瞬、何を言われたのか理解できなかった

「木偶(でく)!傀儡(くぐつ)!何を言っているのだ…宰相殿は」

「言葉の通りです 小生のモノになれと言っているのです!それを承諾した上でこの薬を飲むと、小生の指示で動く操り人形となる もちろん拒否していただいてもよいが…それならば、死は免れないでしょうがな」

「木偶…そのような物になれとだと…」

マクスールは眦(まなじり)をあげて、ザッドを睨みつけた

しかし、ザッドはどこ吹く風という感じで顔色一つ変えなかった

「無理にとは申しません…ただ木偶とは悪いことばかりではないですぞ!木偶になれば、よけいなことは考えず、心配や恐怖とも無縁になる 無能な能力も、臆病な性格からも脱することができる!」

この時、マクスールはザッドの目に、人間ではない邪悪な獣のようなものを感じた

「少し考える時間を…」

「ありませんな 明日には将軍の処分も決まるでしょう!死罪という」

マクスールの懇願も、ザッドは全く聞き入れなかった

「…分かった」

マクスールは落ち窪んだ目をして、観念して言葉を発した

「死ぬよりはましだ!その薬を飲む この薬さえ飲めば命は救われるのだな」

ザッドは無言のまま頷いた

愚かにもマクスール将軍は、死よりもつらい木偶という生き方を選んだのである

追いつめられていたとはいえ、あまりにも安直な選択であったと言える



〔参考一 用語集〕
(人名)
ザッド(ソルトルムンク聖王国の宰相)

ジュルリフォン聖王(ソルトルムンク聖王国の聖王)

ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年 ソルトルムンク聖王国の人和将軍)

マーク(ハクビの親友)

マクスール(ソルトルムンク聖王国の天時将軍)

リルムリ(マクスール将軍の副官)

(国名)
ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国 第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)

(地名)
カムイ城(ツイン城を守る城 通称“谷の城”)

マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)

マルドス城(ツイン城を守る城 通称“山の城”)


〔参考二 大陸全図〕
フォト



〔参考三 あらすじ〕
龍王暦〇〇〇一年 八大龍王によって八つの國(くに)が建国される

龍王暦一〇四九年八月 ソルトルムンク聖王国にあるクルス山でハクビが発見される ハクビは記憶喪失

龍王暦一〇五〇年二月一五日 ソルトルムンク聖王国のコリムーニ老聖王とバルナート帝國のロードハルト帝王がバクラにて会談 その席上コリムーニ老聖王が急死する

同年三月一〜三日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國が国境の町バクラで交戦、ソルトルムンク聖王国側大敗(バクラの戦い)

同年同月一〇日 ソルトルムンク聖王国の王城陥落 聖王国滅亡 ジュルリフォン聖王子は大陸最南端のツイン城に逃げ込む

同年五月三日 コムクリ村にバルナート帝國軍が襲撃、ハクビが白虎騎士団のバルゴー隊長を倒す 以後、グラフ将軍に助けられ、残党軍の拠点であるアユルヌ渓谷に到着する 

同年八月初頭 バルナート帝國とミケルクスド國連合軍がジュリス王国を滅ぼす

同年九月四〜五日 聖王国軍と帝國軍がツイン盆地で激突(ツイン城の戦い) 帝國軍ツイン盆地より撤退

同年一〇月一〇日 マルシャース・グール奪回の戦いにおいて、聖王国軍が勝利する

同年同月一五日 バルナート帝國とカルガス國連合軍がクルックス共和国を滅ぼす

同年同月二六日 バルナート帝國がゴンク帝國を滅ぼす

同年同月三〇日 ジュルリフォン第四十九代聖王誕生 ソルトルムンク聖王国の復活

同年一一月一一日 ハクビとバルナート帝國朱雀騎士団の軍団長ナンダが戦い、ハクビが敗北する

同年一二月一〇日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の間で半年間の休戦条約が締結される

龍王暦一〇五一年一月一日 聖王国と帝國が休戦期間に入る(同年六月三〇日まで)

同年二月十五日 ハクビが“第八の山”でカリウスと会う

同年三月 ソルトルムンク聖王国のマクスール軍とミケルクスド國が戦う ミケルクスド國が勝利する
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