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2011年02月09日14:35

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八大龍王伝説 【123 ラムシェルの叡智(三) 〜天空のハリマ〜】


いつもお読みいただいている皆さま、ありがとうございます

それでは早速、八大龍王伝説をはじめます


【123 ラムシェルの叡智(三) 〜天空のハリマ〜】


〔本編〕
龍王暦一〇五一年三月七日、デラクエ山脈の山頂のさらに上、標高五千メートル程の上空に天馬(ペガサス)の上位種である空馬(パラディンペガサス)に乗っている一人の兵がいた

黒い鎧で全身を覆っていたが、兜はつけていない

大きな顔で禿げた頭と無精ひげが特徴の兵であった

「うっ!この高さはさすがに凍てつくように寒い!五十を超えた儂(わし)にはきつい!」

その兵は不満を口にして大きな体を丸めた

この兵はミケルクスド國の知恵袋とも呼ばれているハリマという将軍であった

ハリマから五メートル程度下を十体の天馬飛兵(ペガサスナイト)が旋回している

その内一人がハリマに近づいた

「ただいま、囚人部隊(ゲファンゲネゾルダート)五千が聖王国軍の先鋒と戦闘に入りました」

ハリマから二千メートルほど下のデラクエ山脈で戦闘が始まった模様である

「そ・そうか!少し様子を見よう…ところで儂はここにいつまでいればいいのだ?寒くて叶わないのだが…」

「ハリマ様!戦闘が終わるまでの辛抱です!この高さが戦闘を見守るにも指揮するにも最適なのです…

だから出発するとき言ったじゃありませんか!毛皮をお召しになるようにと…」

「しかし、下(地上)はあんなに温かだったから毛皮は邪魔だと思ったのだ…それよりもう少し下で指揮しても影響ないのではないかの…千メートル下、いや五百メートル下でいいから…」

「いけません!これより下ですと敵に発見される可能性があります 呪式を施された矢であれば、千や千五百メートルの距離は充分射程距離になります」

ハリマの部下はそっけなく言い放った

ハリマは仕方なく丸めた身体でパラディンペガサスの首筋に抱きついた

同日午後二時三十分、マークは味方の兵を指揮しながら、おやっと首をひねった

敵の五千の飛兵の士気高さは、戦いの激しさから非常に高いと感じる

むしろ高すぎる

まるでここで敵を倒さなければ自分たちが危ないといった、そんな危機感すら感じる

しかしその攻撃は個々にバラバラで、集団としてのまとまりがない

さらに不審に感じるのはその鎧と兵の種類である

鎧は胴のみの軽装、これには最初の段階で既に気付いていたことだが、それ以上に不審なのが五千の兵が全てホークナイト(第二段階の飛兵)という事実である

ホークナイトは飛兵の中で一番低い階級である

それらから総合的に鑑みるに、どうやらミケルクスド國の正規軍ではなさそうである

さすがに囚人部隊というところまではマークでも思い至らなかったが、非正規(イレギュラー)的な兵達で間違いなさそうである

《…と言うことは…囮か!》

マークは頭の中でそう結論づけた

《囮と言うことは、何らかの罠があるはず相手の調子に合わせてはいけない》

そう考えたマークは兵にこのように指示を出した

「兵達に告げる!先の指示通り相手に合わせてみだりに前進してはいけない!その場にとどまり、相手の攻めのみ防ぎ、こちらから仕掛けることのないようにせよ」

と…

同日午後三時頃である

標高五千メートルのデラクエ山脈の上空に待機しているハリマに、続けて報告が入る

「敵はこちらの誘いに乗ってきません 防御のみに徹する戦法をとっております」

「そうか!こちらの手に乗ってこないか…敵の指揮官は誰だ?」

「“草”からの報告では、先鋒の五千の兵を指揮しているのはマークという者です」

「ん?マーク?聞いたことがある名前だ」

ハリマは少し考えに耽(ふけ)るため目を閉じた

「人和将軍のハクビ関係ではなかったか?」

「さすがハリマ様!ハクビ将軍の親友で、今はマクスール将軍の副官になっている人物です!ミュストンからの報告です!」

「ミュストン?」

「申し訳ございません!ミュストンとは我が軍の“草”の一人で、今はマクスール将軍の軍に配置されています!元々はマークと一緒にハクビの元にいた人物です」

「なるほど…それでその者はマークをどう評価しているのだ?」

「マークはハクビほど華々しい戦果はありませんが、仲間をよくまとめ、派手ではありませんが、粘り強い戦い方をします ハクビが活躍できたのも、兄貴分としてのマークが縁の下の力持ちとしてハクビを支えていたからだそうです」

「う〜ん!そうか!」

ハリマはそう言うと腕を組んだ

「さ・寒い!いつまでもここに居るわけにもいかない!」

いつしか空から雪が舞いだした

「そのマークとかいう者は冷静にこちらの部隊を囮として看破していそうだな このままではいかん うぅ〜寒い!」

ハリマはぶるぶる震えながら、それでも頭だけは鋭く事柄を分析していた

「弓兵が先鋒の兵には見当たらないな!弓兵一万と聞くが、先鋒にはいないのか?」

「はっ!“草”からの報告では、先鋒がマーク率いる歩兵隊五千、中盤がもう一人の副官のリルムリ率いる弓兵隊一万、そして本隊がマクスール将軍率いる騎兵隊一万五千です…」

「馬鹿!それを先に言え!」

「はっ?」

「弓兵にぶつけてこそ囮の意味があるものよ!それでその敵の副官のリル…リル…何とか言ったの?そいつはどのような奴だ?」

「はっ!マクスールの昔からの副官でマクスールから信任が厚いと聞いております 勇敢ではありますが、いわゆる匹夫(ひっぷ)の勇と言われる猪突猛進タイプです」

「それは好都合だ!よし…お前、名前は何と言ったかな…まあよい!全軍(ホークナイト五千の囚人部隊)に撤退を命じよ!そして代わりに敵の中盤の弓兵の隊に攻めかかれと命じよ!」

「はっ!了解しました!」

そう言うと名前を覚えてもらっていない家臣は苦笑いをして、下で戦っている五千の囚人部隊の指揮官たちにその命令を伝えた

「あと一時間以内に戦果が出ないと…もう限界だぞ!」

「そうですな!兵の士気にも影響いたしますし…」

ハリマの横にいた別のペガサスナイトの兵が納得したように頷いた

「馬鹿か!兵の士気ではない…わしがそれ以上いたら凍えてしまうっちゅことじゃ!」

「はぁ〜!?だから毛皮を…」

「それはもう言うな」

ハリマはそばにいた部下に大声でそう怒鳴っていた

回りにいた部下もやれやれといった感じであった

しかし誰もハリマに自分の毛皮を渡す者はいなかった

「俺もいい部下をもったものだ!」

ハリマは深くため息をつき、パラディンペガサスの首筋に再び抱きついた



〔参考一 用語集〕
(人名)
ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年 ソルトルムンク聖王国の人和将軍)

ハリマ(ラムシェル王の家臣 ラムシェルの右脳と呼ばれる人物)

マーク(ハクビの親友 マクスール将軍の副官)

マクスール(ソルトルムンク聖王国の天時将軍)

ミュストン(元ハクビ小隊の騎兵 現在はマクスール将軍の中隊長)

リルムリ(マクスール将軍の副官)

(国名)
ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国 第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)

ミケルクスド國(西の小国 第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國 飛竜の産地)

(地名)
デラクエ山脈(ソルトルムンク聖王国の西方の山脈)

(兵種名)
ホークナイト(第二段階のジャイアントホークに騎乗する飛兵)

ペガサスナイト(第三段階の天馬(ペガサス)に騎乗する飛兵 天馬飛兵とも言う)

(その他)
草(ミケルクスド國の他国に土着しているスパイ)

ゲファンゲネゾルダート(囚人部隊のこと ハリマが指揮している)

パラディンペガサス(ペガサスがさらにレベルアップした動物 対魔力に優れているため、魔法で傷つけることは難しい 空馬(くうば)とも言う)

ペガサス(馬の体に白鳥の羽を持つ動物 天馬(てんま)とも言う)


〔参考二 大陸全図〕
フォト



〔参考三 あらすじ〕
龍王暦〇〇〇一年 八大龍王によって八つの國(くに)が建国される

龍王暦一〇四九年八月 ソルトルムンク聖王国にあるクルス山でハクビが発見される ハクビは記憶喪失

龍王暦一〇五〇年二月一五日 ソルトルムンク聖王国のコリムーニ老聖王とバルナート帝國のロードハルト帝王がバクラにて会談 その席上コリムーニ老聖王が急死する

同年三月一〜三日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國が国境の町バクラで交戦、ソルトルムンク聖王国側大敗(バクラの戦い)

同年同月一〇日 ソルトルムンク聖王国の王城陥落 聖王国滅亡 ジュルリフォン聖王子は大陸最南端のツイン城に逃げ込む

同年五月三日 コムクリ村にバルナート帝國軍が襲撃、ハクビが白虎騎士団のバルゴー隊長を倒す 以後、グラフ将軍に助けられ、残党軍の拠点であるアユルヌ渓谷に到着する 

同年八月初頭 バルナート帝國とミケルクスド國連合軍がジュリス王国を滅ぼす

同年九月四〜五日 聖王国軍と帝國軍がツイン盆地で激突(ツイン城の戦い) 帝國軍ツイン盆地より撤退

同年一〇月一〇日 マルシャース・グール奪回の戦いにおいて、聖王国軍が勝利する

同年同月一五日 バルナート帝國とカルガス國連合軍がクルックス共和国を滅ぼす

同年同月二六日 バルナート帝國がゴンク帝國を滅ぼす

同年同月三〇日 ジュルリフォン第四十九代聖王誕生 ソルトルムンク聖王国の復活

同年一一月一一日 ハクビとバルナート帝國朱雀騎士団の軍団長ナンダが戦い、ハクビが敗北する

同年一二月一〇日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の間で半年間の休戦条約が締結される

龍王暦一〇五一年一月一日 聖王国と帝國が休戦期間に入る(同年六月三〇日まで)

同年二月一日 ハクビがゴンク帝國の竜の山脈(ドラッヘゲビルゲ)に到着する

同年同月十五日 ハクビと白い仮面の騎士が“第八の山”で対峙する

同年三月一日 ソルトルムンク聖王国のマクスール軍が、ミケルクスド國の討伐に出兵する

同年同月七日 ソルトルムンク聖王国とミケルクスド國が激突
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