小説八大龍王　【０３５　モクルラビリンス（七）　〜脱出〜】

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それでは、小説八大龍王をはじめます


【０３５　モクルラビリンス（七）　〜脱出〜】


〔参考一　用語集〕
ハクビ（眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年）

ヴォウガー（バルナート帝國四神兵団の一つ玄武兵団の軍団長）

ツイン城（ソルトルムンク聖王国の最南端の城）

マルドス城（ツイン城を守る城　通称「山の城」　今は帝國軍の城）


〔参考二　大陸全図〕



〔本編〕
「小僧！このヴォウガー様を愚弄する気か！」ヴォウガーの顔はみるみる怒りに歪んだ

その歪んだ顔にハクビの短斧（たんふ）が放たれた

一種の奇襲ともいえるこの攻撃に、ヴォウガーは落ち着いて獅子の楯（レーヴェシルト）を顔にかざす

ヴォウガーがニヤッと笑った

《相手を怒らせて隙を突く…いい手だが、このヴォウガー様には通じないぞ》と思ったその瞬間、楯には短斧の弾ける音と一緒に鈍い衝撃音…それと共にずっしりとした重量感が襲ってきた

ハクビが獅子の楯（レーヴェシルト）の獅子の鼻の部分に足を掛け、大きく跳躍したのだった

跳躍の反動でヴォウガーの楯がやや下がった

左手に短斧（たんふ）を再び握り締めたハクビは、ヴォウガーの頭上から右手の長斧（ちょうふ）をヴォウガーの禿げた頭に振り下ろした

それに対しヴォウガーの右手にある漆黒の槍（シュワルツランツ）は、素早く動き、頭部を防ぐ形をとった

その漆黒の槍（シュワルツランツ）に斧の衝撃が…違う！

その衝撃は斧によるするどい衝撃ではなく、鈍くしかし重い衝撃だった

ヴォウガー以外の帝國兵、聖王国兵はその瞬間を目の当たりにした

ヴォウガーの頭上の漆黒の槍（シュワルツランツ）の上に乗っているハクビを…

ハクビはそのまま漆黒の槍（シュワルツランツ）の上でヴォウガーの後方に大きく跳び、帝國兵の囲みも跳び越え、一目散に森の中に消えていった

ヴォウガー軍団長が振り返った時は、三メートルの漆黒の槍（シュワルツランツ）では届かない距離にハクビの姿があった

龍王暦一〇五〇年八月三〇日正午、玄武兵団は再び動き出した

ツイン城攻略は後回しにして、モクルラビリンスの徹底した破壊である

今回のハクビ小隊との小競り合いで少なからず負傷者を出したヴォウガーは怪我人を後方のマルドス城（通称「山の城」）に送り、補給物資と補充の兵士五十人をマルドス城からヴォウガーの元に送らせるように指示を出した

怪我人を送る役割を担った兵士は、「大丈夫でしょうか　次は我々を襲ってくるのでは…」

ヴォウガー笑って「そんなけちくさいこと…あの男（ハクビ）はしない！」と…

モクルラビリンスの破壊は、意外に時間を要した

ハクビの技量を知った帝國兵達は何人かでお互い守り合いながら、おそるおそる調査していたためである

大陸随一の強兵と各国から恐れられていた帝國兵が、ハクビに怯えていたのであった

これにはヴォウガーもいかんともし難かった

ヴォウガー呟く「このツイン城攻略…意外にてこずるかも」と…



〔参考三　あらすじ〕
龍王暦〇〇〇一年　八大龍王によって八つの國（くに）が建国される

龍王暦一〇四九年八月　ソルトルムンク聖王国にあるクルス山でハクビが発見される　ハクビは記憶喪失

龍王暦一〇五〇年二月一五日　ソルトルムンク聖王国のコリムーニ老聖王とバルナート帝國のロードハルト帝王がバクラにて会談　その席上、コリムーニ老聖王急死　死因は不明

龍王暦一〇五〇年二月一八日　ソルトルムンク聖王国、バルナート帝國に対して宣戦布告

龍王暦一〇五〇年三月一〜三日　ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國が国境の町バクラで交戦、ソルトルムンク聖王国側大敗（この戦いは「バクラの戦い」と呼ばれる）

龍王暦一〇五〇年三月一〇日　ソルトルムンク聖王国の王城マルシャース・グール陥落　聖王国滅亡　コリムーニ老聖王の孫、ジュルリフォン聖王子は大陸の最南端ツイン城に逃げ込む

龍王暦一〇五〇年五月三日　コムクリ村にバルナート帝國軍が襲撃、ハクビ、マーク、レナは力を合わせて帝國兵士二人を倒す　続いて、ハクビがバルゴー隊長を倒す　以後、グラフ将軍に助けられ、残党軍の拠点であるアユルヌ渓谷に到着する　

龍王暦一〇五〇年五月〜八月半ば　ハクビ、マーク、レナ達はアユルヌ渓谷で軍事訓練や、近くの村々での山賊等の退治、帝國軍との戦闘を行う　日々、兵として成長していく

龍王暦一〇五〇年八月初頭　バルナート帝國とミケルクスド國連合軍がジュリス王国を滅ぼす

龍王暦一〇五〇年八月二〇日　ハクビを始めとする十人がジクリー山のガーンの砦に潜入　一方、帝國軍によりマルドス城陥落

龍王暦一〇五〇年八月二三〜二四日　グラフ将軍の軍がガーンの砦を襲撃　ハクビが山賊王ガーンを倒し、後海賊王ゴーンを追う　海賊王ゴーン以下海賊、山賊は全員、白虎騎士団に首をはねられる　ハクビは白虎騎士団軍団長ライアスの初めての会い、コムクリ村襲撃の謝罪を受ける

龍王暦一〇五〇年八月二七日　グラフ将軍の軍、モクル海岸に到着する

龍王暦一〇五〇年八月二八日　ハクビ小隊は、モクルラビリンスを伝ってツイン盆地にたどり着く

龍王暦一〇五〇年八月二九日　ハクビ小隊、ヴォウガー軍に対して夜襲を決行　ヴォウガーの采配により失敗　昼の十二時からヴォウガー軍がツイン城を攻撃するが、モクルラビリンスの罠によりヴォウガー軍撤退

龍王暦一〇五〇年八月二九〜三〇日　ハクビ小隊のドンク、命令違反を犯しヴォウガー軍に捕らわれる　ハクビ一人で救出に向かい、ドンクの救出に成功　ハクビはヴォウガーと対峙する