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2025年12月06日00:19

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彼女にナニが起こったか2025 その2

●登場人物
       彼女…徳川さん 僕と同い年の女性制限社員
        僕…豊臣   一応、豊臣部の部長
  ポンコツな次長…明智さん 僕より3歳年上の部次長
休職経験ありの社員…島津くん 僕より4つ下の色男でスポーツマン
  唯一の若手社員…柴田   僕より20歳下の現役スポーツマン
     派遣社員…平手   運動は何一つできない40代女性
 自己退職の元部員…丹羽くん 僕より5つ下。豊臣部に20年在籍して退社
  ミステリアス女…武田さん 10歳位年下の中途採用社員

いよいよ本題である。
この春の時点で僕(豊臣)の部のメンバーの出入りは落ち着いた。
在籍年数はポンコツな次長の明智さんが30年、
辞めてしまった元部員の丹羽君が20年を除くと
彼女で12年、島津君で10年、僕が5年目で
唯一の若手社員の柴田がアルバイト3年と在籍3年の6年
派遣社員はもうすぐ2年という所帯である。
僕は隣の部で20年ほど働いているが、名古屋の駐在が3年、
同じセクションの九州事業所でも3年働いているので、
社歴的には2番目、役職的には部長で一番上、という立場である。
雇用形態が複雑で派遣社員は派遣会社とはマックス3年の握りで
有期雇用であるばかりか
丹羽君と彼女は無期雇用だが配属制限のある「限定社員」という
嘱託雇用で賃金は低く、僕と明智さんと島津君の3人が正規雇用である。
とはいえ、明智さんは父親のコネで入社したばかりか
明らかに職務能力が低く、僕が赴任した時点で下級管理職に就いており
僕は毎年人事考査で「不合格」を報告しているが
降格も配転も無いまま、あと数年で役職定年を迎えようとしている。

僕は別に入社の経緯も在籍年数も関係ないと思っているが
やはりアカン人というのは、それなりにアカン理由があるのであって
それが性格であったり、職務能力であったり、何かと問題があったり
劣ったりするものである。
それでもその違いは正社員と非正規採用による違いではない。
本人の気の持ちようだったりする。
そんな事はどこの会社でも同じ話である。
ただ、有能な社員を良くない待遇で長く放置していると
他社に流出してしまうのであり、
「こりゃ、行けそう」
と思ったら昇格させたり、待遇を引き上げたりしないといけないのである。

でまぁ、彼女=徳川さんはどちらかというと
待遇を引き上げるわけにはいかない人種であり、
義務もろくに果たさないのに、権利を主張、
それもちょっと行き過ぎた権利を求めてくるのである。
その日は彼女がその年度に入って2度目の遅刻をしでかしたので
別室で「どうしたんだ」と詰問した時である。
徳川さんは僕の着任初年度こそ年間で20回程度の不規則出勤だったが
翌年に40回を超えたため、かなり強めに指導したところ、
一時的に改善し、月に一回あるかないかの頻度に落ち着いていた。
「もし、生理が重いとか、言いにくい事情で遅れるのだとしたら
当日の朝、8時半までに電話かラインで申告すれば
ある程度は配慮できるし、生理休暇という制度もあるので
機械で申請すれば自動的に認定されるけど」
「朝は、色々忙しくて。。。すいません」
「いや、そんな話をしているのではなくて、
会社が定める始業時間までに出社さえしてくれれば
出社後に不調であっても、ある程度は配慮できるけどなぁ。」
「どうして8時半なんですか」
「そりゃ、君が定時に出社するためには、自宅の最寄り駅を
8時半過ぎに出る列車に乗らなければならないからだよ」
「何、調べてるんですか。キモイ」
「あのなぁ、先週飲んだ時に皆でその話したけどな。
憶えてるで。8時37分発でギリギリセーフで
次の電車だと5分近く遅れてしまうんだろ」
「そんなの憶えてるんですか」
「他の人のも憶えてるし、先週話してまだ時間も経ってない」
「でも、色々あるんです」
「皆、色々あって、君だけの事情があるのなら配慮すると言っているのであり、
それを言わないで配慮だけして欲しいという要求には応じられないと
言っているのだけれども。意味分かるかな」
「その言い方、ムカつきます」
「別にムカついてくれても良いが、これ以上いきなり遅刻を続けると
それなりの処分をすることになるけど。」
「分かりましたよ。もうしませんから」
「あのさあ、遅れたりしているのは君の方で。
僕はそれを窘めているのであって、お願いをしているのではない。
どうしてそういう態度になるのか、理解に苦しむ。」
「上司として会社に怒られるとかあるんじゃないんですか」
「もう、指導して改善しなかったら僕の責任じゃないでしょ。
改善しない方が問題だし。とっくに会社にはバレてるんだけど。
君の遅刻頻度やその態度。」
「別に私は構いませんよ、何を怒られても」

と言った具合で、全く悪びれないのである。
実は人事考査書類にはここ4年間決まって
「部の次長の管理能力の悪さで
組織の連帯が著しく低下しており、大きな問題である。」
と「いの一番」に明智次長をこき下ろしており、
その次に徳川さんの不規則行動が「部に不安定さを与えている」
と指摘する部分で書き出している。
婉曲な表現に思えるかも知れないが、普通の人ならできそうな業務も
「はい、わかりました」
と本人は引き受けるのだけれども、
頼んでいないアクセントを必ず加えてきて、
それが他の部員の業務の阻害要因になるのである。
「余計な事はしないで、言われた事だけやって欲しい」
と要求しても
「分かりました」
と答える癖にそれが改善しないのである。

去年の秋に部で保有している切手が無くなりかけている事に気付いた僕は
「徳川さん、足りるかな」
「毎年、冬場に沢山使いますね。ストック補充しましょうか」
「いや、ギリギリの数で良いけど」
「要る時に無かったら、困るのは私なんですが」
部の郵送物の発送は確かに彼女の業務である。
「あの、近々郵便代値上げするの知ってるよね」
「そう言えば、そうですね。分かりました。
値上げ前に出せそうなものを片っ端に出しておきましょう」
そう言って、意気揚々と郵便局に向かい、大量の切手を購入して
10月初旬の発送予定の郵便物を片っ端から処理したのである。
ここまでは良い。
値上げ当日の10月1日。切手のストック場所を除くと
84円切手と94円切手が50枚を超える数残っていた。
「徳川さん、ちょっと」
「何ですか」
「切手、アホほど余ってるけど」
「ああ、値上げには間に合わない郵便物もあり、切手は使いきれませんでしたね」
「100枚ずつ買うことないんやないか、まぁええわ。
ほしたら、この状況を前にすべきことは何やと思う?」
「値上げ分の26円切手を買えばいいのですね」
「よう分かっとるやん。何を何枚買う?」
「合わせて100枚くらいありますかね。
では26円切手を100枚買います」
「待て」
84円だった郵便物は110円に、94円だった郵便物も110円に。
つまり値上げ幅は26円と16円である。
94円の枚数ぶん16円切手を、84円の枚数ぶん26円切手を買えばいいのである。
「ということだから、要る分だけの加貼切手を買えばよい」
「分かりましたよ」
ここまでも、まあヨシとしよう。問題はこの後である。
月末月初の請求書処理で何枚か郵送が必要なものがあったので
再び切手のストックを確認すると、
今度は大量の16円切手が入っている。
「徳川さん、ちょっと」
「どうして、84円切手も94円切手も1枚も残っていないのに
16円切手だけが大量に残っているのかな」
「私に訊かれても、知りませんよ」
「郵便物は殆ど徳川さんが処理しているんだよね?」
「そうですけど」
他の部員に確認しても、直近で郵便物を出したという人はいない。
「16円切手が残っているという事は、
94円切手だけ貼って出した郵便物の数だけ、残っているという事かな」
「そうなんですか」
「いや、君の話だけど。他人の事みたいに言っているけど」
「うっかりしてたのかも知れませんが、ちょっともう分からないです」
自分で加貼用切手を値上げ当日に買いに行ったのに
94円切手1枚しか貼らない作業をしたという事である。
「いや、分からないも何も、つい最近の話でしょ」
「そんなの憶えてないですよ。いつも通りにしてしまったかも」

これが象徴するように、言われてやる作業は
何のためにどういう作業をしているのか、連続して理解する事が
長期的に維持できないのである。
なのでイベント報告書に日付や天気を書き込む欄があっても
「憶えていない」
という信じられない答えが返ってくるのである。
確か、大雨でお客用の傘を取りに走ったのは彼女であり、
そのエピソードがあるから、僕も天気を記憶しているのである。
本人が「憶えてない」は考えられない。

またある時は、仕事でゴルフ場でイベントがあった時である。
去年と同じ1番ホールの前にある小屋に備品を運んで欲しい、
と彼女に依頼したのだが
「私、ここ初めて来るので場所が分かりません」
と言うので
「いや、去年と同じこのゴルフ場に、君と一緒に来たのだよ。
そして、去年も1番ホールの前で君は業務をした。
ちょうどイベントが始まるタイミングで戦闘機が上空を飛んだ時に
『わぁ、凄い。この戦闘機は練習機ですね』と君は言った」
「憶えていないです」
「んなわけないやろ」
しかし、改めて誘導して現地に辿り着いても
「やっぱり、私ここは初めて」
と言い続けるのである。
ところが、昼ご飯を食べている最中に彼女は声を上げる。
「私、ここ、去年も来ました」
「何や、思い出したのか。去年も同じものを食べたからか」
「そうなんです。去年も食べましたこのランチ」
「さっき、『初めまして』と言って名刺交換した3人のうち、
2人は去年、顔を合わせているけども、君が名刺を切らしたので
一人しか交換していないけれど、初対面ではない」
「そうなんですか」
「いや、憶えていないのは仕方ないが、相手が憶えているのに
『初めまして』といって名刺交換するのは実に失礼な事であるから
せめて『お会いしてるかもしれませんが、改めまして』と言えば
お互い顔が潰れないのだ」
「そうなんですか」
次の日、
「また1番ホールで作業してくれるか」
「分かりました」
そう答えると昨日案内した道に向かおうとする。
「そっちはかなり遠回りなので、スタート室前からまっすぐ向かって」
「いえ、大丈夫です」
「ほんまに?」
それから5分後、僕のスマホがブルブルとなる。
クラブハウスでは通話は良くないので、外に出る。
「どうした?トラブルか?」
「今、5番の看板の前に居るんですが、迷ったみたいです」
スタート室から行けば真正面に1番がある。
昨日は借りたカートで移動したからクラブハウスの周囲道路を
ぐるりと回って1番に向かい、そこから真っすぐスタート室に戻った。
5番に行くにはカート道路からの分岐で
スタート室と反対方向に進まねばならなかった。
「クラブハウスはそこから見えるのか?建物方向に進めば
どうにかなる」
こういった具合で、彼女の「特性」を配慮して
迷わないように指示してもそれを断り、
きっちり迷うのである。

春が来た。欠員補充のために社員が赴任した。
隣の部で問題社員がハラスメント事項を連発したため、
異動希望を申請して、何年も前から僕の部への異動を唱えていた社員である。
「どうだ、彼女はお前の部に向いていると思うが」
上司からの僕より10歳ほど年下の女性社員の配属の打診である。
「本人が希望しているようですが、大きな懸念があります」
「何が」
「彼女が来ると徳川さんは確実に潰れます。そういう性格です」
「どうして分かる」
「逆に、分かりませんか。
誰よりも承認欲求が高く、プライドも高いのでミスをしても悪びれません。
同性の、自分より仕事が出来る、年下の女性が来て
今まで苦労した業務が若い彼女の手に渡って
難なくこなした上に、その評判が良ければ
恐らく、憎悪の念すら抱いて、自らの不能に自ら傷つくでしょう」
「考えすぎではないか」
「では、1年、いや合流して半年以内に『人間関係でメンタルダウン』した場合は
徳川さんを本部長直属として引き取って頂けませんか。
半年持てば、こちらでどうにかします」
「そんな約束はできない」
「安全配慮義務という言葉、ご存じですか?
トラブルが予想される配転をした場合、咎めを受けるのは会社ですよ。
この人事案はその懸念が大きいと指摘しておきましょう」
毎年、この問答を繰り返していて、
とうとう今年の春の異動時の打診で僕は根負けしたのである。

退社後も、僕の部の仕事をアルバイトとして手伝ってくれていた丹羽君に
「君の欠員補充で、武田さんを遂に受ける事にした」
と打ち明けた。
「そりゃ、良かったじゃないですか」
丹羽は快活に答えるのだが
「しかし、徳川がおかしくなる懸念がある」
「ああ、平手さんの時も言うてましたよね。
でも、それは杞憂に終わったじゃないですか」
「いや、そこは分からない。無論、今回も杞憂に終わる可能性も
ないわけではないが」
「考えすぎでしょう。まぁ、懸念が無いわけでは無いけどね」
「僕は、僕の船に乗る以上、全員の安全を願わないわけにはいかない。
しかし、乗組員同士の人間関係だけは思い通りにはいかないと思う」
「そうでしょうけれども」
「返す返すもお前の退職が残念でならないのだが、
それも今更言っても詮の無い事。ただ徳川は心配でしかない」
その心配は現実のものとなる。

島津は小太りだが、色男ぶっていて、愛妻家で子だくさんだが
社内での浮名に留まらず社外でも見境なく色んな女性に粉をかけている様子だ。
その島津が近年、粘着質にアプローチを掛けているのが
僕の部に移ってくる武田である。
武田とは彼女が前の会社に在籍していた時から、僕は顔見知りだが
いわゆる女子力が高く八方美人が過ぎる「イイ女」ぶった女で
彼女もまた、様々な浮名を流してきたことを知っている。
「僕の目の黒い内は、僕の部には君は不要である」
本人にそう告げた事もある。
「どうしてそんなこと言うんですかぁ」
甘ったるい声で、僕の拒絶すら上手に躱す。
「そういう上手なところが、トラブルの元になるからだ。
それだけじゃない。君の得意分野は僕の得意分野と重複していて
僕がいる間は不要、というのはそういう意味だ。」
「なんでそんな事、言えるんですか」
「それはな。僕もまた『ジジ殺し』の異名を持つ営業マンだったからだ」
「私がジジ殺しとでも言うんですか」
「違うとでも言うんですか(笑)」
和気藹々とこの会話が出来てしまうのだから恐ろしい。
これが、僕の部の無類の女好きである島津の目の前で
肉付きの良い尻をプリンプリンと振りながら
挑発し続けて、島津が狂わない筈がない。

この春、武田さんが配属された事で担当交代を進めた。
前年に丹羽が退社した事で、島津が丹羽の業務を引き継ぎ
その助手をしていた柴田は島津と協業していた業務を単独で担当。
島津のパートナーは件の徳川さんが務める事になった。
武田さんは部に欠如していた部全体の企画立案を主業に、
今年は各業務の見習い期間とした。
そして、事件が静かに進行していくのである。

次項に続く
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