説得力を感じるものと感じないものを分かつ違いは何だったのだろうか
全日本プロレスには、大きく分けて
馬場の時代、鶴田の時代、三沢の時代の3つの前時代と
三沢が団体を割ってノアを起こして離脱したノア後の4つに分類できる。
ノア後にはご存知、新日から移籍してきた武藤敬司が社長だった
(2002年〜2011年)時代もある。
前時代は1972年から1999年の馬場死去までの28年間。
鶴田は72年にオリンピック出場後、全日本に入団し、
92年に肝機能障害で一線から退き、2000年に死亡するが、馬場が死んだのを機に現役から引退したのだが、前時代の大半はジャンボ鶴田がその「証明書」だったのである。
言い方を変えれば、「鶴田に通用していれば説得力がある」と
見る側の僕としては感じていたという事だ。
今なら過去の映像を振り返ることも簡単だろう。
タッグマッチで鶴田のガチ度を測るのは難しいが、シングルマッチならはっきり分かる。
ごまかしの技は鶴田には何も通用しないのである。
この鶴田をなぎ倒したり、苦しめていると感じられる技は「説得力」を感じる事が出来たのだ。
外国人選手と言えども、通用しているかいないかは一目瞭然だった。
「パトリオット」という外国人選手のフルネルソンバスターは全く説得力はなかった。小橋建太が初期にフィニッシュに使っていた、ローリングクレイドル(回転揺り籠固め)とかムーンサルトプレスは、相手が許さないと絶対にかからない技であるし、そこまで持っていくムーブに含まれるジャンピングショルダーアタックも、説得力としては今一つであった。
仮に鶴田を「説得力の門番」とすれば、こんな技にみすみす掛けられるシーンというは想像できない。仮にかけられたとしても、そこでピンフォールは奪われるとは誰も思わないのである。これが説得力である。
或いは、のちに進化していくジョニー・エースのエースクラッシャー(ショルダー式チンクラッシャー)も、スティーブ・ウィリアムスのオクラホマスタンピート(コーナーポストへのムーブ含むパワースラム)もどちらかと言えば苦笑ものである。
最近でいうと、オカダカズチカのレインメーカーや棚橋弘至のハイフライフローも同様である。
「そんな技に鶴田がかかる訳がない」
そう感じさせる技は説得力を持たないのである。
話はさかのぼるが、
当時の豪華外国人選手と対峙して見劣りしない全日本の象徴的存在が、
ジャンボ鶴田だったのだ。
いかなる大型外国人でも互角に組み合えるスケールであり、パワーの上でも体力的にもスピードでもどんな相手とも組み合える上に、切り替えして勝ちきるだけの説得力を持っていたのである。
鶴田の必殺技は後期は「岩石落とし(バックドロップ)」→パワーボムで、前期のフィニッシュムーブは、ジャンピングニーアタックからダブルアームスープレックスやジャーマンスープレックスなどが多かったのだが、いずれも独自性もあれば力強さが感じられる技であり、高い説得力を発揮していたのである。そういう意味では鶴田は完全無欠のレスラーのお手本であったと思う。肝機能障害を患い、若くして引退早世した鶴田は、今や“伝説”のレスラーの一人だが、当時は現役で脂の乗った時期であった。
だが、鶴田は“強い”とされる一方で“何か”が欠けているイメージがあった。“豪快さ”には後述する「説得力」が伴ったが、そもそもプロレスに必要な前提条件のようなものが欠けているような気がしていた。それが理由で「イマイチ好きになれない」という意見が僕の周囲からも聞こえたことがあった。
寧ろ人気を集めていたのは、そのライバルとして、いや鶴田を目の敵にして立ち向かっていた天龍源一郎であった。角界からの転身で注目される存在であったが、鶴田に挑んでは跳ね返されていく中で天龍ほかレスラーは、鶴田に通用するくらいの説得力ある“必殺技”を編み出していく事になるのだ。
天龍はDDTやパワーボム、延髄斬り、そして当時の鶴田が極め技にしていたジャーマンスープレックスを得意技にして道を切り開き、それまで鶴田の対抗馬を務めていた外来の長州力に代わり、ナンバー2のポジションにのし上がって行く。
上記得意技のいずれもが他人のフィニッシュムーブからの転用である。それまでは張り手の突き押しや水平チョップなどで試合をコントロールし、最後はテキサスクローバーホールドや4の字固めなどで足を極めるスタイルが多かったが、アメリカで一世を風靡したジェイク・ロバーツの「DDT」や、テリー・ゴディの「パワーボム」、アントニオ猪木の「延髄斬り」などを積極的に取り入れて、説得力のある技シリーズで試合を進めていくスタイルになってからの天龍は、明らかにトップレスラーの佇まいを携えるようになっていた。
こういった説得力偏重への歴史は、少し前に切っ掛けがあったと言われている。それが長州の上陸である。新日本プロレスから長州ら離反組が「ジャパンプロレス」を立ち上げ、全日本マットに参戦していた、それである。長州はアマレス仕込みであり、ご存じハイスパート型のプロレスが主体で新日本でも人気レスラーであった。全日に登場すると一躍、エースの鶴田の対抗馬に収まった。どちらかと云えば“外来種”であるから既存のファンから見れば“悪役”であったが、彼には観客を引き寄せるものがあった。
それが、リキラリアットであり、サソリ固めと続くフィニッシュムーブである。
ボディスラムからのヘッドロック、ヘッドロックからロープにスローしてキチンシンク、キチンシンクで動きを止めてからは自らロープに走り、連続のリキラリアット。グロッギーとなる相手をリング中央に引き摺りサソリ固めでギブアップを奪う、という一連の流れは凡そ1分で完結する。後にこの高速の流れを「ハイスパートプロレス」と称して、日本のブロレス界の1つの形として表現するものが出てくる。
今から考えれば、どれだけか仕掛けられる相手が“受ける”意志が無ければ成立しない事は明らかだが、連続してのスピーディなこのフィニッシュムーブには圧倒的な説得力があり、一度発動すると最後まで行くだけのモメンタムが存在した。
物語の完結パターンを長州は確立していたのである。
そして、これを受けて立たねばならない全日本プロレスのレスラーたちにも少なからず影響を与えていた、と考えられているのである。
この時、全日マットは日本勢対外国勢という構図にも行き詰まりが見えていたのも事実である。時代背景もあったが、明らかに新日本と比べるとちゃちな作りの、言い換えれば純粋なプロレスショーに飽きが見えていたのである。
それは馬場が、猪木と比べてもアメリカで名を馳せ通用したレスラーで、プロモーターとしても優秀であった事にも由来しているだろう。ただ、プロデューサーとしては新日本側スタッフの方が半歩前にいたのが、興行的成功と華やかさの違いに現れたに過ぎない。
ともかく“外来種”を受け入れた全日は、レスリングのスタイルも進化させ、より“受けて”跳ね返すスタイルを強めて行く切っ掛けになるのだ。
ジャパンプロレスを引き入れる過程で、同じく離脱した初代タイガーマスクの正体である佐山サトルに代わり、三沢光晴が二代目タイガーマスクになる事が決まる。タイガーマスクの原作者梶原一騎と馬場の邂逅があったのである。
この二代目タイガーは、しかし初代とは乱差があった。ジュニアヘビーとしては大柄であり、ヘビーにしては小柄。スピードはあるがマスクを着けて戦うのが何とも窮屈であることが見る側にも伝わってくる。いや、レスラーとしてはかなり優秀でルチャの流れも汲めば空中殺法も駆使し、華奢な体格の初代と比べれば力強さもある優れたレスラーだったのだが。のちのマスクを取った三沢が生き生き戦っている事と比較すれば、それは明らかである。
如何せん、“受ける”レスリングをジュニアヘビーの三沢がヘビー級相手に展開するわけだから、“かわす”プロレスを主体にヘビー級相手にも反則負け以外に個人としては負け知らずだった初代タイガーマスクと比べると、かなり物足りないタイガーマスクになってしまったのだ。
決め技はタイガースープレックス(或いはジャーマン)とフライングボディプレスなどだったが、タイガースープレックスに到る過程がかなり苦しい。
後にヘビー級に転向し、試合中にマスクを自ら外して三沢光晴に戻った“彼”は、エルボーを主体に、タイガードライバーやフェイスロック、投げっぱなしジャーマン、エメラルドフロウジョンなど画期的なフィニッシュホールドに手を染めて行く。
こうして説得力を追い求めていくスタイルに彼は否応なしに巻き込まれていき、その中心に据えられることになるのである。
このあと、新しいエースとして「超世代軍」を結成した三沢の人気は上昇していくが、タイガーのマスクを着けていた時の閉塞感が拭われたわけではなかった。ビルドアップしてヘビー級に肉体は近付いて行くが、やはりジャンボ鶴田には見劣るのは致し方無い。加えて鶴田の対抗格だった長州の追放、天龍の離脱により、三沢はヘビー級戦線に身を投じる事になる。
更に参戦している外国人選手も、ハンセン、アンドレにテリー・ゴディ、テッド・デビアスにブロディ、さらにスティーブ・ウィリアムスと本格派ヘビー級中心になり、横綱として初めてプロレスラーになった輪島を迎えるなどあったが、全日マットの日本人選手のラインナップは一時的に手薄になるのである。そこで一足跳びにメインイベンターに押し上げられたのが三沢というわけである。
三沢の後輩だった川田利明も同様である。天龍のパートナーとして一足先にヘビー戦線で「やられ役」として活躍していた川田は三沢のパートナーとして、タッグでは堂々のメインイベンターとしての戦いを求められるのである。彼もまた、天龍同様に説得力を求めて色んな技に手を染めていくのだ。
この抜擢は彼らにとっては輝かしい功績と全日本マットに大きなエポックをもたらす。
そして、後に悲劇ももたらすのだが。
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