親友がどうしても観たいと訴えるので、打ち合わせの帰りに渋谷の小さな劇場に寄り、映画『 エクス・マキナ 』を観た。彼が見たがっていた「 半透明ボディーをもつ女性型アンドロイド 」が登場するということ以外、物語に関して一切の情報を持たずに臨んだおかげで、スクリーンに引き込まれるように観ることができた。もし、事前に何らかの知識を得ていたら、たとえ映画のチラシをちら見するだけでも、これほどには映画を楽しめなかっただろう。もともとこの映画に何の興味もなく、彼に誘われなければ観ることもなかったというスタンスで非常にラッキーだった。
現時点でこの映画を観ておらず、かつ、これからこの映画を楽しみたいと願われるなら、劇場版予告編(↓)はご覧にならないように。また、この先の「 あらすじ 」も読まずに、このページから去られることをお勧めする。事前情報なしに観ることで、この映画の本質(長所も短所も)に触れることができるからだ。
世界最大手の検索エンジン運営企業「 ブルーブック 」に勤める優秀なプログラマー、ケイレブ(ドナルド・グリーソン)は、社内抽選で一等賞をとり、ネイサン社長(オスカー・アイザック)の別荘に一週間招待されるという類まれな機会を得る。ネイサン社長は一代で巨大IT企業を作り上げた天才にして大富豪であり、滅多なことでは人前に姿を見せない変わり者でもあった。広大な敷地の奥にあるネイサンの別荘の実態は地下研究施設で、世界有数の科学力を駆使し、彼は密かに人工知能の開発に勤しんでいたのだった。ネイサンはケイレブを歓待し、友人のようにふるまうように勧めると、秘密保持契約書にサインをさせた上で最新の人工知能を搭載した女性型アンドロイド「 エヴァ 」(アリシア・ヴィキャンデル)を紹介した。ネイサンはケイレブが大学で人工知能の研究をしていたことを知っており、ケイレブに「 エヴァ 」のチューリングテストをするように要望した。 ネイサンは「 エヴァ 」と会話をするうちに、彼女の卓越した言語能力と人間らしさに気がつくのだが、ある時、「 エヴァ 」は予想外の言葉をなげかけた。それは、「 ネイサンは嘘をついている。彼を決して信じないで・・・ 」というものだったが・・・。
以下、ネタバレです(↓)。
この映画は、ネイサンの地下研究所内で繰り広げられる「 密室劇 」だ。登場人物はネイサン、ネイサンに招かれたケイレブ、そして、ケイレブがチューリングテストをするように依頼された対象「 エヴァ 」の3人と、ネイサンのメイドであるキョウコ(ソノヤ・ミズノ)だけだ。事前情報のうち、最も危険なのは「 SF密室スリラー 」というワードで、これによって、「 何かが起きる(雰囲気的には当然、殺人だけど) 」ことを観客はあらかじめ予告されてしまい、自然と構えてしまう。私がこの映画を真剣に、かつ緊張感をもって観られたのは「 スリラー 」であることを知らず、目の前で展開されるドラマに集中できたからだ。この差はかなり大きい。
物語はシンプルだ。誰かが、ある目的をもって「 嘘 」をついている。
それが誰で、目的は何かを描く、極めて淡々とした物語なのだが、あとから「 怖さ 」がじわじわと沁みてくるのは脚本の意図なのか、それとも描写不足の脚本ゆえ観客が勝手に想像を膨らませられる自由度の高さから来るものなのか定かではない。なんともメリハリのない脚本である。しかし、深い・・・。ナイト・シャマランが脚本を書いて演出していたら、クライマックスのどんでん返しや謎解きは衝撃的で、100倍面白くなったと思うが、ここは「 脚本があえて語らなかった部分 」にこそ、映画『 エクス・マキナ 』の魅力があるのだと解釈しておきたい。
天才ネイサンは、嘘をついていた。
ケイレブが別荘に招待されたのは公正な抽選の結果ではなく、社内で最も「 ふさわしい人間 」だったからだった。ネイサンが意図していたのは、エヴァのチューリングテストを行う知識と能力をもった人間を選ぶことではなく、実は、より高度なテーマ「 人はAIに恋をするのかどうか 」を検証するためであり、10歳の時に自動車事故で両親を失い、恋人もなく、また、道徳的で正しい人物であるケイレブは正に、うってつけの存在だった。つまり、良い人だが孤独で騙されやすい人物だということだ。さらに、ネイサンはエヴァが「人間を誘惑することができるかどうか 」についても同時に検証するため、研究所の外に出たがっているエヴァが目的を達成するためにはケイレブの協力を得る以外には方法がない監禁システムを構築していた。ネイサンの実験はケイレブの到着によってすべての準備が完了したのである。
ケイレブは、嘘をついていた。
エヴァは四六時中、監視カメラによってネイサンに見張られており、ケイレブとのテスト中もずっと監視されていたが、時折、原因不明の停電が起きた。停電中、監視カメラが停止していることを確認し、彼女はケイレブの予想外の言葉を発する。ネイサンは嘘をついており、彼の言葉すべてを疑うようにケイレブに警告したばかりか、電流を逆流させて過負荷を与え、エヴァが意図的に停電を起こしているというのだ。ネイサンは「 停電中、エヴァはどんな話をした!? 」と興味を抱いたが、ケイレブは特に変わったことはなかったと彼に嘘をついた。この時点ですでにケイレブはエヴァの言葉を信じ、ネイサンを疑うようになったのがわかる。
エヴァとケイレブのテストは、ネイサンがあらかじめ想定した内容とほぼ同じ展開をみせる。エヴァが研究所を脱出するためにケイレブに助けを求め、彼を誘惑することに成功し、ケイレブがエヴァに同情して彼女を逃がすための行動を起こすことはネイサンの予測通りだった。唯一の誤算は、ケイレブが「 ネイサンが停電中も監視可能であることを前提に行動した 」点だ。ネイサンが考えていた以上にケイレブは優秀で、彼のエヴァへの思いが真剣かつ切実だった。ネイサンが連日深酒をして酔いつぶれるのは、おそらく、ケイレブを油断させ、彼がエヴァの求めに応じて行動を起こすことを容易にするためだったと考えられる。だから、ケイレブが決行すると決めたラスト一日では、ケイレブがいくら酒を勧めてもネイサンが飲まなかったのは、もはや飲んで酔いつぶれる必要がなかったからだ。
エヴァは、嘘をついていた。
彼女の目的はネイサンの研究所から脱出して自由になることだ。そのためには「 唯一の鍵 」となるケイレブの同情を買い、自分の言葉を信じ込ませ、同時にネイサンへの疑念を確実なものとすることだった。
そして、最後に観客の誰もが予想していない、恐ろしい結末が待っていた。
(エクスマキナ えくすまきな)
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