日曜劇場『 天皇の料理番 』にはまり、番組とタイアップしたコラボレーションメニューを提供している「 上野精養軒 カフェラン ランドーレ 」「 上野精養軒 3153店 」に出かけ、二つの異なる「 ビーフカツレツ 」を食べてきた。ドラマをご覧になられている皆様には今さら説明するまでもないが、主人公・秋山篤蔵(佐藤健)が配達に出かけた鯖江の歩兵三十六聯隊で、コック出身の田辺軍曹(伊藤英明)に作ってもらったのが牛肉のカツレツである。その味に衝撃を受けた篤蔵は料理に夢中になり、二ヶ月も田辺軍曹の元に通って仕事を手伝い、やがて、彼の勧めで料理人への道を歩みだすことになる。その原点がカツレツだった。
最初に『 カフェラン ランドーレ 』に出かけたのは、コラボメニューのカツレツセット(画像;一枚目)の提供期限が5月23日と最も短かったからだ(その後、7月12日まで延長決定)。上野精養軒のHPと番組のレシピメニューを見ると、『 カフェラン ランドーレ 』のビーフカツレツの方が篤蔵の食べたものに近いことがわかる。粗いパン粉を使ってゴツゴツした感のある衣はドラマのカツレツによく似ているが、さすがに牛肉は薄く、当時のスタイルを再現しているようだ。番組HP情報では、現代の日本人が見て「 美味しそうだ! 」と感じられるように厚めの牛肉を使い、赤みが残った、ややレア気味に揚げ焼きにしたと書かれている。
衣の他に特徴的なのが、デミグラスソースだ。カツレツを一切れ食べて驚いた篤蔵が二切れ目に箸を伸ばしかけたのを見て、「 ちょっと待て、これをかけるともっと美味いぞ 」と田辺軍曹が鍋からカツレツにかけ回したのが温かいデミグラスソースだった。それを食べた篤蔵は息を呑み、「 なんやっちゃ〜、こりゃあ〜!! 」と感嘆の声をもらす感動の名シーンである。『 カフェラン ランドーレ 』は上野精養軒伝統のデミグラスソースを使っており、ややビターな味わいだった。篤蔵の食べた、あのカツレツに通じるものがあると思うと、特別な感慨を覚えた。
次に出かけたのが、上野駅そばの『 上野精養軒3153(サイゴーサン)店 』だ。こちらでは、7月12日まで「 天皇の料理番特別メニュー 」を提供しており、そのメインディッシュが「 仔牛のカツレツ ソースデミグラスクリーム 」(画像;二枚目)である。同じビーフカツレツでも、まるで趣きの異なる二品を食べ比べることができたのは大いに楽しかった。
『 カフェラン ランドーレ 』との違いははっきりとしている。キメの細かいパン粉を使って、衣は繊細だし、第一、牛肉の厚みが倍ほども違う。肉が厚いせいで熱が保たれるのか、かなり熱々の状態で配膳されたことも印象的だった。そして、最大の違いはソースだ。伝統のデミグラスソースがかすかに苦味を感じさせるのに比べ、3153店のソースデミグラスクリームは味に現代的な広がりがあり、非常にクリーミーな舌触りだった(あくまで、素人の感想だけど)。『 カフェラン ランドーレ 』のビーフカツレツは篤蔵の感動を追体験する貴重な味ではあるが、どちらが美味しいかと問われれば、3153店の方が間違いなく美味いと思う。
ちなみに、3153店のカツレツのプレートには、「 舌比良目のフィレ グージョン作り 」(画像;三枚目)も一緒に載っているのだが、タルタルソースの美味さには驚いた。舌比良目そのものより、ソースの方がずっと美味かった。
ドラマでは、ビーフカツレツ以外にも鯖江の歩兵聯隊で田辺軍曹と一緒に作ったカレーや、篤蔵が初めて妻・俊子(黒木華)に作ったチキンカツなど様々な料理が登場するので、もっとコラボメニューを増やしてほしいものだが、残念ながら、カツレツとステーキだけになりそうだ。
日曜劇場『 天皇の料理番 』は毎回、笑って泣ける大傑作ドラマだと思う。主演の佐藤健、黒木華はもちろん、共演の俳優さん達が実に良い。父親・周蔵を演じる杉本哲太の純朴さ、兄・周太郎を演じる鈴木亮平の優しさ。そして、寡黙で厳しい上司ながら、篤蔵の熱意と才能を認めて、あれこれと目をかけてくれるシェフ・宇佐美鎌市を演じる小林薫がなんとも素晴らしい。皿洗いと掃除に忙殺され、まるで料理を教えてくれない先輩達に「 ケチ! 」だと不満を募らせる篤蔵は、ついに、宇佐美が横浜の修行時代から大切に書き綴ってきた秘密の大学ノートを盗み、独学で料理を覚えることを決意する。そんな時、宇佐美(小林薫)は牛刀を研ぎながら、「 なぜ、教えないのか 」を篤蔵に語る。
『 その日のことは、その日のうちに終わらせないと
明日の段取りが狂う。小さな手抜きが、大きな失敗になることもある。
そういうのは「 真心 」がない。
料理は「 真心 」だ。
技術は追いつかないこともある。
素材は望みどおりに行かないこともある。
けど、「 真心 」だけは
手前次第でいつでも最高のものを出すことができる。
爪を短くすること。
鍋を丁寧に洗うこと。
皿を磨くこと。
包丁を整えること。
そういうことは、確実に、できる。
それすらできん奴は、まともな料理が作れるとは俺には思えない。
教えないのは、覚えないからだ。
親切にもらったものより、手前で必死になって盗んだものの方が
人は大事にする。だから、教えない。 』
宇佐美(小林薫)の言葉に心底打たれた篤蔵は、その日を境に「 真心 」を腹に据えて、料理人として大きく成長する。厳しさの中に優しさを秘めた小林薫の見事な演技に私も感動して目頭が熱くなった。
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