劇場公開も終ったので、そろそろ、この映画の話題を取り上げたいと思う。アカデミー賞作品賞部門にノミネートされた『カールじいさんの空飛ぶ家(原題:『UP』)』のことである。昨年12月に
『妻が死にました』というタイトルのお騒がせ日記を書いたので覚えておられる方も少なくないと思うが、実は、この映画は「冒頭8分52秒の秀逸なプロローグ」だけで作品としては完成されていると言って良い。その後に始まる本編は、もはや蛇足である。直言居士の宮崎駿がこの映画の試写を観て、「・・・最初の思い出の部分だけで僕はもう満足しちゃった・・・」と語ったのは単なる賛辞ではなかった。作品の本質を衝いた「思いっきり直球」な感想だったのだ。
冒頭の8分52秒をもう一度ご覧いただきたい。この短い映像の中で、いかにエリーが魅力的な少女として描かれているか理解できるだろう。カールは彼女の前では完全に脇役でしかない。しかし、本編にはエリーは全く登場しないのである。私が観たかったのは、冒頭の映像で語られなかったカールとエリーの思い出の数々であり、カールの冒険をバックアップするエリーの過去のエピソードであったのだが、残念ながら、『伝説の滝の上に家を建てる』という彼女の夢が冒険の目的になっている以外、その後の物語にエリーは関与しない。
冒頭映像が子供より大人の観客を意識した「人生の終焉を迎える老人の切なさ」を描いているのに対し、本編はいささかドタバタ感が強く、完全にお子様向けとなってしまっている。にも関わらず、幻の滝に向かう途中で遭遇する、冒険家チャールズ・F・マンツとの対決に関しては、脚本の暴走であろう。彼自身被害者でもあるマンツとの戦いの結末が「あれ」では、私はこの映画が子供向けアニメだと認めるわけにはいかない。この映画がアカデミー作品賞を獲得したとすれば、冒頭8分52秒の映像に対して贈られたものに違いない。
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