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哲学の塔〜改〜コミュの第6章〜幻影騎士団〜

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 ―― パン!
 4度目の恋も実らなかった。同じ人間に4度目の失恋。そして、4度目の平手打ち。
「パンツの色を褒める作戦失敗。胸を触って大きさを褒める作戦失敗。ハグをしてその細
 さを褒める作戦失敗。髪の毛を触ってその美しさを褒める作戦失敗…何がいけないの
 だろうか?」
 18歳になったばかりのクリス・グリーンウィッチは、短いくせ毛の金髪を掻きながら
頭を抱えて悩んでいた。そしてずれた眼鏡をかけ直した。
「あんた、告白の仕方間違ってるよ!それじゃ、只の変態でしょ?あははは」
 明るく笑いながら彼を励ましてくれる、同級生のスー・ブラックウェル。短い赤毛とソ
バカスがトレードマークの彼女は、色気と無邪気さを兼ね備えていた。
「もはや、この僕に望みなど、あるかどうか…どれ、確かめてみよう!」
 クリスはそう言うと、突然スーのスカートをめくり上げた。そして、か弱き乙女の悲鳴
…ではなく、拳が右頬を炸裂した。
「このボケカスがぁ!」
 クリスの身体と眼鏡は吹っ飛んだ。そして、うつ伏せに倒れると、動かなくなった。そ
こに肩まである長い金髪を揺らせながら、ひとりの少年が近づいてきて、彼の傍にしゃ
がんだ。煙草の煙を吐き出しながら、赤い油性ペンで、彼の身体を囲むように、廊下に人
の形を描いた。それから慣れた手つきで彼の脈を計り、溜め息をついた。
「被害者はクリス・グリーンウィッチ、18歳。ヴィヴィアントスクール廊下にて9月11日
 午前10時15分死亡を確認。以上だ」
 それは、クリスの親友、ウィザード・ドイルだった。
「短い付き合いだったが、実に退屈しのぎにはなったぞ、クリス。アーメン」
「僕は…死んでないぞ!ドイル!」
 突然クリスは立ち上がり、ドイルを床に倒し、ズボンを脱がせようとし始めた。
「どれ、君のパンツの色も確かめてみよう!」
「よせ!この変態野郎!私は知的で繊細な紳士だぞ!おい!エド、助けろ!」
 すると、エドと呼ばれた茶色い巻き毛の少年が眠そうな顔でこちらに寄ってきた。ひ
とりまだ17歳のエド・ハワースは、どちらの味方になろうか、迷っていた。
「う〜ん…どうしよっかなぁ」
「どうしようかじゃなく、助けるんだよ!エド!」
 そんな光景を愉快に笑っているスー。そしてエド、ドイル、クリス。若き日の4人は、こ
れからの自分たちの未来に希望を持って生きていた。

 時は1980年9月。
 20年前のこの日、大きな宿命を背負うことになろうとは、誰も想像していなかった。
「この子たちの保護者になってくれないか」
 それは突然の申し出だった。教室に居たクリス、ドイル、スー、エドは、先生の冗談だと
思い、目の前に居る5人の小さな子供を眺めていた。探偵を目指す若きティーンエイジャ
ーの彼らにとって、今は、子育てなど、論外であった。
「シャーロット先生、冗談は夢の中で言ってよね!あははは」
 伝説の名探偵で冒険家のシャーロット・ロンドンは決心していた。
 彼の唯一の教え子であり、唯一信頼できる4人の若き仲間に、これから起こるであろう
混沌の時代を生きる希望のチャイルドたちを託そうと。
 今は弱く、誰かに守ってもらわないと、危険を回避できない小さな子供たち。いつかは
大人になり、彼らは大切な人たちを守っていくに違いない。その想いは、教室に居た教え
子たち全員にも伝わっていた。それが、冗談ではなく、彼の強い意思なのだと。そして彼
らはその、大きな宿命を背負う覚悟をした。不安定なティーンエイジャーの背中に宿る
大きな決意。この日、彼らは保護者となった。
 クリス・グリーンウィッチには、4才の長女クリスティーヌを。
 エド・ハワースには、3才の長男マシューを。
 スー・ブラックウェルには、2才の次女アリスを。
 ウィザード・ドイルには、1才の次男ドムを。
 そして、生まれたばかりの末っ子シドは、妻のエヴァンに委ねた。
「先生、僕は卒業したら結婚をする約束をした女性が居ます。日本人の留学生の女性です
 が、僕は日本に住むことになりそうです。でも、どうしようかな、ロンドンに居るべき
 かな…」
 エド・ハワースは迷っていた。
「日本に行きなさい。そして時が来れば、ロンドンに戻ってきて、助けとなってほしい」
「私は、アイルランドに戻ります。でも、必ずロンドンに戻ってきます」
 スー・ブラックウェルもロンドンを離れた。
「その間、僕とドイルがロンドンに残り、この街を守っていきます」
 クリス・グリーンウィッチは決意を述べた。ウィザード・ドイルも頷き、言った。
「俺は親って柄じゃない。ドムは弟にする。出来の良い紳士に育てます」
 それぞれの決意は、表明され、歴史に刻まれた。
 シャーロット・ロンドンは深く頭を下げ、礼を告げ、そして語った。
「これから君たちは、影のように、幽霊のように、時には幻影であるかのように、ロンドン
 を守っていく“幻影騎士団”となれ。
 想像せよ、これから起こる未来を。そして創造せよ。自らの未来を。
 我が後継者、チャイルドたちを頼む…」
 シャーロット・ロンドンは初めて彼らの前で涙を流した。恐ろしい犯罪組織と戦う事
を決めた彼は、辛い選択を迫られた。自分の大切な子供たちを危険に晒せないために手
放す選択を。そして決断したのだ。

 シャーロット・ロンドンの教え子だった彼ら“幻影騎士団”の4人は、使命を果たし、時
を越え、そこに居た。“秘密の塔”の屋上に。
「この奇怪な“リンゴ事件”を解くために、我々は“落ちたリンゴ同盟”と名乗り、秘密裏に
 事件を調査してきました。」
 4人のひとり、クリス・グリーンウィッチが静かに語る。そこにはいつもの穏やかなク
リス叔父さんの姿はなく、近寄りがたい雰囲気を醸し出している“幻影騎士団”の姿があ
った。そして隣に、空を見上げ、煙草の煙を吐き出すウィザード・ドイルが居た。彼もまた
いつものふざけた態度はなく、本来の神出鬼没の“ロンドンの切り札”としての厳かな姿
でそこに居た。彼は静かに語る。
「ユーリ・マーリンの予言どおり、“ふたつの塔”が崩壊する。舞い降りた魔物と共にな」
 そして、目の前に立ち尽くすロッド・シルバーフィールドを睨みつける。ロッドは無表
情のまま、視線を合わせようとはしなかった。
 最大の占い師にして魔女の異名を持つ、ユーリ・マーリン。“哲学の塔”で死んだエリ・
マーリンの母にして、奇術建築家ルルーの実の妹。絡みつく運命の糸に、マシューは、自
分自身の存在も無関係ではないことを悟った。なぜなら、そこに、その“秘密の塔”の屋上
に、居るべきではない人物が存在するからだ。
「どうして…父さんが、ここに居るの?」
 マシュー・ハワースの視線の先には、“幻影騎士団”の1人として佇む父、エド・ハワース
が居た。エドは、何かを考えるように真っ直ぐとマシューを見つめると、シャーロット・
ロンドンに視線を移した。
 すると、マシューの隣に居たアリスも驚いたように、腰程しかない手すりに身を乗り
出して叫んでいた。
「お母さん!どうしてそこに居るの!」
 その声の先に、赤毛のスー・ブラックウェルの姿があった。そしてスーは言った。
「アリス、これが私の本当の正体なの。私のもうひとつの姿、それが“幻影騎士団”紅一点
“仮面姫”のスー・ブラックウェルよ!まいったかこのヤロウ!あははは!」
 何事もないかのように朗らかに笑うスー。それを見てアリスは震えていた。マシュー
は心配になり、彼女の肩に手をおくと、彼女は飛び跳ねて喜び出した。
「か…カッコイイ!私は名探偵の娘で、お母さんは“幻影騎士団”!ひゃっほい!」
「俺は薄々感じていた。ドイルの兄貴は本当の兄貴じゃないとな。19も歳が離れている
 のは不自然だ。名字も違うしそれに俺と兄貴は、似てない」
 ドム・ウィンブルドンは確信したように、強く言い切った。
「私の意図に反して、紳士ではなく、クソガキに育ってしまったがな」
 そのドムの言葉に、ドイルは溜め息混じりに答えた。
 マシューは戸惑っていた。ちょっと待てよ、と。心の中で困惑していた。
「君の母親は、スーではない。君の、いや、君たちの母親は、エヴァン・ウェンブリーだ」
 シャーロット・ロンドンはそう告げた。マシュー、アリス、そしてドムも彼の方に振り
返って、言葉の続きを待っていた。
「私と、そして愛する妻、エヴァンのチャイルドたちなのだよ。君たちを育ててくれた保
 護者たちは、私の教え子たちで、君たちとは何の血の繋がりもない。彼らはこの20年間
 任務を果たしてくれた」
「ちょっと待ってよ」
 マシューのその発言に、シャーロットは続きを止めた。周りも注目する。
「僕が養子だというのは、子供の頃から聞いていた。父さん、いや、エドさん、そして日本
 人の母さん、あなたたちは養子の僕をずっと育ててくれた。僕はすごく感謝している」
「マシュー…」
 エドは搾り出すように彼の、息子として育ててきた彼の名前を口に出した。
「だから僕は、許せる。どんな事実が、隠されていようと。そしてもうひとつ、クリス叔父
 さん、エヴァンさん、つまり僕の実の母は、あなたの奥さんじゃなかったんですね?」
 そのマシューの問いに、しばしば暗い表情をしながら俯いていたクリスは答えた。
「うん、違うんだ…僕がずっと片思いしていた女性だった。君の母、そして君の父であり、
 僕の先生でもあるシャーロット・ロンドンの妻エヴァン・ウェンブリー。僕は、その事
 実をずっと隠して娘として育ててきたクリスティーヌに教えてきた。だから、彼女に
 伝えようと思ったんだ。“彼”について…そう、シャーロット・ロンドンについて」
 クリスのその告白を聞いて納得したマシューは、一息つき、本題に入ろうとした。
「私たち、実の兄弟だってことだよね!」
 その時、アリスがマシューを見つめながら言い放った。哀しそうな表情だった。
「アリス…?」
「私はマシューが…大好きなのに…」
 アリスは泣いていた。自分の育ての母親が実の母親ではなかった事実よりも、マシュ
ーが兄弟だという事実に、ショックを受けていた。マシューはアリスの肩を抱き締めた。
そしてふと、以前マーク・サイモンが何気なく言った一言が、脳裏を横切った。
 ――君たちは何か、特別な絆で結ばれている、そう見えたんだ―
「アリス、君は大切な存在だ。僕たちは特別な絆で結ばれている。そう、ドム、君も。そして
 クリスティーヌも。僕たち4人は…」
「4人ではない」
 その言葉の続きを、シャーロットは遮った。
「君たちには5人目の兄弟が存在する。シド、彼はハイドパークの…」

 ドォン!!!

 その瞬間、爆発音が鳴り、塔が激しく揺れる。そして“ふたつの塔”は崩壊を始めた。

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