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哲学の塔〜改〜コミュの第6章〜伝説の名探偵〜

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 そこにその人物は居た。こちらに背を向け、塔の屋上から見える広大なヒースの丘を
眺めていた。そしてその人物は静かに言った。
「待ちわびたよこの日を。取り返しのつかない罪を背負った日々を終わらせるこの日を」
 雲間から一点の光が差し込み、“哲学の塔”を包み込む。まるで天から神が舞い降りて
くるかのような神々しい神秘的な光景だった。
 マシューはゆっくりと屋上に出る。アリスもその後ろをついてくる。そしてドムも静
かに屋上に出てきた。
 何も語らないその人物から視線を外し、マシューはノートの言葉を見る。そこには、
本に住む言葉の妖精クロエ・W・ウィスパーの言葉が添えられていた。
『エデン・シルバーフィールド。本名はエスパー・アンダーソン』
 マシューはその言葉を口にして語りだす。アリスもドムもその様子を見つめている。
「あなたの本当の名前はエスパー・アンダーソンだ。そして…」
 もう一度、ノートに添えられた新しい言葉に視線を移す。
『塔の哲学者エデン・アンダーソンの双子の弟』
「この塔に昔居た、哲学者エデン・アンダーソンの弟、そ、そうでしょ?
 あなたは、神を信じない無神論者の少年で、そして…エリさんが心を許した数少ない
 人間で、そして…」
 マシューはもう言葉の妖精から添えられる言葉を見てはいなかった。
「神学の教授サイロン・ピッツァーノ!」
 その声が静かな屋上にこだまする。風がやみ、音が消え、まるで時間が止まったかのよ
うな錯覚を覚えた。その人物は静かにこちらを振り返る。
 それは紛れもなく、神学の教授サイロン・ピッツァーノだった。
 だが、奇妙なことに、車椅子には乗っておらず、いつも無造作に放置されていた髪はオ
ールバックにされ、後ろで紐に結ばれていた。彼は後ろで手を組み、堂々とそこに立って
いた。
「遠い昔、私はこの“哲学の塔”で5つのものを奪った。欲望の悪魔だった私は、奇術師と
 して成功しただけでは飽き足らず…もっとも奪ってはいけない、神秘を奪ったのだ」
 サイロン・ピッツァーノ、いや、エスパー・アンダーソンは、険しい表情で俯いていた。
「過去に、何があったのか教えてくれませんか?」
 マシューは静かに聞いた。
「私は、生まれながらに障害を持ち、それでも神のような能力を持ち合わせた兄エデンを
 ずっと憎んできていた。だから、彼の愛した人、彼の愛する子供、彼の名前、彼の居場所、
 そして…そして…」
『そして、その哲学者エデン・アンダーソンの命を奪った男だ』
 クロエ・W・ウィスパーは言葉を添えた。
 そして、語られる過去の真実はあまりにも残酷な物語だった。

 1981年9月のある日。
 6才になったロッド・シルバーフィールドは興奮した状態で帰ってきた。
「塔がふたつあったんだ!もうひとつの塔で、もうひとりの僕と、もうひとりの哲学者が
 居た。鏡の中の世界を見たんだ!不思議だろ!」
 彼は、父エデン・シルバーフィールドに聞こえないように、妹ローズに教えた。すると
ローズは、哀しい表情をしながら言った。
「お兄様、全てトリックだったの、ごめんなさい…そのもうひとりのお兄様は私で、もう
 ひとりの哲学者は私たちの父エデンだったの。騙したの、お兄様を。」
 ロッドは、ローズが何を言っているのか分からなかった。
「何言ってるの?でも塔がふたつあったんだよ!」
 すると、突然部屋の扉が開かれ、エデン・シルバーフィールドがやってきた。いつもの
化粧はなく、初めて素顔をさらしていた。しかし、その顔を見た時、ロッドの表情は固ま
った。
「驚いたかロッド?この顔に。お前が毎日会いに行っている“秘密の塔”の屋上に居る、哲
 学者と全く同じだろう?それもそのはず、彼は私の双子の兄なのだから」
 そして、そこに車椅子に乗った哲学者、エデン・アンダーソンが居た。
 ショックを受けたロッドは泣きそうな顔で哲学者に尋ねた。
「どういう事?ねぇ、神様じゃなかったの?」
「ルルーに秘密にしておくと約束していたんだ。ごめんね、ロッド」
「お母様が?お母様が言ってた!神様の事をサイアイの人だって!」
「最愛の人だと?ルルーがそう言っていたのか?許せない暴言だな」
 その言葉にエデン・シルバーフィールドは憤慨した。
 すると、哲学者エデンは、本当の事を告げた。彼にはその重要性を理解する能力が欠け
ていた。生まれつき、障害があり、精神年齢は6才のロッドと一緒だった。
「ルルーは君たちの母親で、私の奥さんだ。でも私は生まれつきの馬鹿だから、一緒には
 暮らせない。だから私はひとりで“秘密の塔”でお留守番をしているんだ。
 だから弟に預けているんだよ、私の子供たち、ロッド、ローズ…」
 その言葉にエデン・シルバーフィールドは激怒し、哲学者エデン・アンダーソンを殴り
飛ばした。彼は地面に倒れ、口から血を流す。
「やめろよ!死んじゃうよ!」
 必死に少年ロッドは止めに入る。しかし簡単に弾き飛ばされてしまう。
「大丈夫だよ。これは弟からの教育なんだ。昔から殴ってもらっていたんだ」
「違うだろ!これは暴力だ!」
 しかし、そんな言葉も虚しく、暴力は止まらなかった。
 その日を境に、ロッドが“秘密の塔”に行く事はなかった。全ての幸せな日々に別れを
告げ、奇術師ロッド・シルバーフィールドとして成長していった。

 マシューとアリス、ドムは、その昔話を、怪訝な表情で聞いていた。
「あなたは、最低です」
 マシューは、目の前に居る現在のエスパー・アンダーソンにそう告げた。エスパーは当
然だというように頷いた。
「兄エデンが障害者で、結婚の意味も、自分の子供の意味も、6才の子供程の脳でしか判
 断できないことをいいことに、私は、彼を“秘密の塔”に幽閉し、彼の最愛の妻ルルーを
 金で有無を言わせず自分のものにし、彼の双子の子供たちも自分のものにして商売の
 道具にした。そして、彼を永遠の亡きものにした」
 マシューはそれに呼応するように彼に言い放った。
「あなたは“哲学の塔”の屋上で彼を殺害した。そうなんですか?」
 彼は静かに答えた。
「違う。当時は“哲学の塔”は無かった。私は“秘密の塔”の屋上で兄を殺害し、死体をそこ
 に隠したのだ。永遠に誰にもみつからないように」
 辺りに風が吹き始めた。
 唐突にドムがエスパーに聞いた。
「その“秘密の塔”なんて、どこにあるんだ?ここには“哲学の塔”しかない」
 その答えを示すかのように、エスパーは、ここから5メートル先に出現したミステリ
ーサークルを指差した。
「あそこに、あの地下に沈んでいるのだよ“秘密の塔”は」
 マシューもアリスも、そしてドムも驚いていた。それはあまりにも非現実的な答えだ
った。
「じゃぁ、あれはミステリーサークルなんかじゃなかったのか…」
 ドムのその言葉をフォローするように、エスパーは答えた。
「ミステリーサークルは偶然できたものだ。あの円形の痕跡の本当の意味は、誰かが沈ん
 でいた“秘密の塔”を地上に呼び起こしたという事実だ」
 マシューは無意識に聞いていた。
「奇術建築家ルルーは、ここに全く同じ塔を創っていたって事ですか?」
「彼女の処女作が“秘密の塔”。そして最後の作品がこの“哲学の塔”だ。」
 エスパーは言い放った。そして寂しそうな表情で続けた。
「もっとも彼女は、20年前に私の前から消え、行方をくらましていた10年間に世界各国
 で作品を創り続けていた。そしてこの“哲学の塔”を創り終えた10年前に突然、世界か
 ら姿を消した…」
 黙って聞いていたアリスが怒るようにエスパーに怒鳴った。
「どうしてエリさんを、エリさんの自殺を止めなかったのよ!」
 その言葉に、エスパーだけでなく、マシューも驚いていた。
「彼女は、魔女ユーリ・マーリンの娘だったから、せめてもの罪滅ぼしにと…」
 マシューは理解できず、顔をしかめていた。アリスも同じだ。それを察したエスパーは
説明した。
「魔女ユーリ・マーリンは、奇術建築家ルルーの血を分けた妹だ。その妹の娘が私のとこ
 ろに教え子としてやってきた。この運命の悪戯に、私は奇妙な縁を感じた。だから、こ
 の世界で生きる事に絶望を抱き、死を望んでいたエリに、せめてもの良い最後を迎え
 させてやろうと、自殺を示唆したのだ。この“哲学の塔”の魔法の中で、安らかなる死を
 与えてやることが、私の罪滅ぼし…」
「あなたは間違っている!最後に彼女は、生きたいと言っていた!」
 マシューは怒りに満ちていた。
「君に出会ったからだよ。最後の最後で、君に出会ってしまったから…」
 そのエスパーの言葉に、マシューは戸惑いを隠せなかった。
「君がエリに優しさを、温もりを教えたせいで、彼女は…生きる希望を抱いてしまった」
「それの何がいけない?」
 マシューの怒りはもう止まらなかった。静かにそう言うと、搾り出すように叫ぶ。
「生きると願う事の何がいけない!やっぱりあなたは最低だ!」

 ズズン!!!

 その瞬間、大地が揺れるような轟音が鳴り響いたかと思うと、ドドドド!と、鈍く響き
渡る音がどこからか聞こえてきた。アリスは驚きのあまり、短い悲鳴をあげ、マシューの
袖を強く握り締めた。マシューは不安におののく彼女の肩に手をやり、彼女を守るよう
に周りを見渡した。すると、ドムは屋上の腰程しかない手すりを乗り出し、何かを叫んで
いた。その彼の指差す方角に…
「な…!もうひとつの塔!」
 大地からゆっくりと、逆さまの塔が突き出し、空高く上昇していく。ミステリーサーク
ルが出現した場所から、“哲学の塔”と全く同じ造形をした塔が、徐々にその姿を現す。
茶色いレンガはくすみ、壁には幾重もの蔦が這い、永遠とも思われる歳月が隠してきた
“秘密の塔”が、歴史の塵の上に蘇った。
 “ふたつの塔”が、灰色の曇り空と、果てしなく続くヒースの丘の境界線に君臨した。
 隣り合う“ふたつの塔”。それは、奇術建築家ルルーが遺した、双子の子供への愛の形で
あるはずだった。“哲学の塔”と“秘密の塔”はまるで、久方の再会を懐かしむように、神々
しく雲間から差し込む光の中で、静かにそびえ立っていた。しかし、その再会までの歳月
は、あまりにも悲劇の連続だった。血塗られた“哲学の塔”は、まるで哀しむかのように、
風雨にさらされた傷だらけの身体と心を晒していた。
 そして、出現した“秘密の塔”の屋上に、何者かのシルエットが現れた。
 それは、“哲学者”だった。
 その姿は、20年前と変わらず、そこにあった。車椅子に乗った彼は、向こう側の塔の屋
上からこちらを眺めていた。20年前に殺したはずの兄、エデン・アンダーソンは、いつも
と変わらない表情で、まるで6才の子供のような無邪気な瞳で、エスパー・アンダーソン
を見つめていた。しかし身体は歳を重ねたようで、ふたりの外見は全く同じだった。鏡に
映った世界を眺めているような錯覚。
 向かい合う“ふたつの塔”。そして、向かい合う“ふたりの兄弟”。ふたりの間に言葉はな
かった。エスパーの瞳から涙がとめどなく溢れてくる。20年間、背負い続けた罪が、洗い
流されるかのように。言葉が出ない。せめて死ぬ前に一度でいいから、伝えたかった言葉
が、時の流れで錆びついてしまった扉のように、出ることができない。
 向き合う“哲学者”と“奇術師”の姿に、マシューも言葉が出なかった。それはあまりに
も残酷な光景だった。そして涙を流し続けるエスパーの姿に哀れみすら感じた。
「あなたは“無神論者の子供”で、彼は“哲学者”。あの寓話は…もしかして、あなたと、そし
 て、あなたが殺してしまったお兄さんの真実の話だったんじゃないですか?」
 マシューがそう告げると、エスパーは幼い子供のような顔で頷いた。静かな哀しい笑
みを浮かべて。そして静かに語る。
「私は、子供の頃から兄を愛していた。世にも不思議な兄の話を、幼かった私は夢中で聞
 いていた。しかし…年齢を重ねるにつれ、子供のままで居る兄と、成長していく私の間
 にはいつしか溝ができ、それがいつしか…憎しみに変わっていったのだ」
 先天性の障害のため、6才の精神年齢のまま止まってしまった兄エデンと、そして大人
になっていくエスパー。その現実が、ふたりの心を引き離していった。まるで鏡に映った
かのような双子の兄弟。幼かった双子の兄弟が、仲良く不思議な話に夢中になっている
光景が、マシューの脳裏を横切った。ひとりはピーターパンのまま夢の世界の残り、そし
てひとりは…
 すると突然、エスパーは腰程ある手すりの上に立ち上がった。そしてこちらを振り返
り、マシューに尋ねた。
「君は神を信じるか?」
 神々しく降り注ぐ光の雨の中、彼は語る。以前の神学教授サイロン・ピッツァーノであ
った面影を残しながら。
「僕は…信じない。でも、奇跡は、運命は、生きる意志は、その人が決めるものだ。
 迷信は、人の心が創った恐怖だ。そして…それは希望でもある。そう思いました。」
 マシューは、真っ直ぐと彼を見つめながら、力強く答えた。
「君は、見えるかい?彼の姿が。私の兄の生きている姿が?」
 エスパーのその問いに、マシューは悲しい表情をしながら答える。
「僕には見えない。僕には…」
「兄は生きていた。私には見える。兄が、向こう側で待っているんだ、マシュー君」
「僕には…」
 彼は整った顔をくしゃくしゃにし、嗚咽をもらしながらエデンのほうに振り返る。
「兄さん…本当に…本当に…」
 マシューの頬を一筋の涙が伝う。アリスも声を出さずに泣いていた。ドムは眉間にし
わを寄せ、堪えるように俯いていた。その、悲し過ぎる光景に。
 耐えられなくなったマシューは、声に出す。
「僕には…」
 エスパーの目に映る、優しく温かい兄エデンは、穏やかな表情で、弟を見つめていた。
「兄さん…ごめん……」

 彼はずっと、“秘密の塔”の屋上に居る、エデン・アンダーソンの白骨死体に語りかけて
いた。車椅子に横たわる白骨死体は、何も語らず、こちらを見つめていた。

「僕には、エデンさんの姿は見えません。」
 マシューは、静かに告げた。そしてまた、頬を涙が伝う。
 身体が震えていた。遠く懐かしい記憶が蘇ってきた。エスパーは、自分の愚かさを、過
去の過ちを、初めて神に懺悔した。無神論者の少年だった彼は、初めて神に願った。
「神よ…」
 彼は、搾り出すように、
「願うならば…許してほしい。私の…罪を…」

 ―― パン!

 銃声が鳴り響き、エスパーは自分の左胸に、痛みと血の感触を感じた。そしてもう一度
兄の方を見ると、そこには車椅子に横たわる白骨死体があった。その肩あたりから、こち
らを覗く銃口が見え、煙が昇っていた。そして、ゆっくりと青い髪の人物が立ち上がった。
 そこには、ロッド・シルバーフィールドが居た。
「貴様の罪は、許さない。私の本当の父を殺した貴様を、永遠に許すものか!」

 ―― パン!

 2回目の銃声。それはエスパーの肩を貫いた。
「妹ローズの報い!」

 ―― パン!
「これは母、ルルーの報い!」
 そして…

 ―― パン!
 4度目の銃声は、轟かなかった。
 それは、風船の割れる音だった。
 ひとつの赤い風船が“哲学の塔”と“秘密の塔”の間を浮遊し、割れた。
「リンゴ?」
 ロッドは驚いた表情で、その光景をしばらく眺めていた。すると、次々と幾つもの赤い
風船が“ふたつの塔”の間を通り過ぎていく。その幻想的な光景を目の当たりにした彼は
まるで、そう、まるで子供のように興奮していた。
「父さん見てよ!ほら!リンゴが浮上している!リンゴが浮いてるよ!」
 ロッドは、車椅子に乗った白骨死体に必死に話しかけていた。彼もまた、そのエデンの
白骨死体が生きている幻想を見ているのではないか、と疑いたくなる光景だった。
 突然、塔の下から馬の鳴く声が響いた。マシューたちは、塔の下を見下ろした。すると、
そこには1匹の黒い馬が、尾にひとつの赤い風船の紐をくくりつけながら、円を描くよう
に歩いている。
「馬?」
 マシューもアリスも、ドムでさえ、その光景を理解できなかった。するとエスパーは囁
いていた。
「あれは…シャーロット・ロンドンの馬?まさか、生きているのか?」
 そんなエスパーの不可思議な言葉を聞いていると、向こう側の塔、“秘密の塔”からロ
ッドが叫ぶ。
「マシュー・ハワース君、なぜ君を、私のマジックショーの最前列で鑑賞させたか、その理
 由が分かるかい?」
 マシューはその問いに、首を左右に振った。
「君なら救ってくれると思ったんだ。見抜いてくれるとね」
「どういう…意味だ?」
 マシューは怪訝な表情で問う。その意味が理解できなかった。
「君は、“探求者”。必ず解き明かしてくれると信じていた。私と、妹の、長い禁断の、呪われ
 た人生の謎をね。そして“哲学の塔”の秘密をね」
 ロッドは不敵に笑った。マシューは、この事件を解決に導いてくれた言葉の妖精の住
む本を確りと握りしめた。解き明かしたのは僕じゃない。マシューは本を頭上に掲げ、
「謎を解き明かしたのは…」
「そう君は、シャーロット・ロンドンの後継者のひとり、“探求者”だから!」
 マシューの言葉を遮り、ロッドは力強く告げ、マシューの居る方角を指差す。しかし、
その示す人物は、マシューではなく、彼の後ろに佇む男へのものだった。
 音もなく、その男は“哲学の塔”の屋上に現れた。
 全員の視線の先に、黒いハットをかぶったシャーロット・ロンドンが居た。
「よくやった、私のチャイルドたちよ」
 ハットから覗く蒼い瞳で、マシュー、アリス、ドムたちの、同じように知性に輝く蒼い
 瞳を順番に見つめると、彼はエスパーを険しく睨みつける。
「あぁ!ハイドパークに居た変なおじいちゃん!」
 アリスが突拍子もなくそう叫び、それに対してドムが補足するように言う。
「只のジジィじゃない!こいつは、伝説の名探偵シャーロット・ロンドンだ!8年前にど
 こかの路上でくたばったと、噂されていたはずじゃないのか!」
 そのふたりの言葉を聞き、シャーロット・ロンドンは溜め息をついた。
「実の父親に向かい、何たる失言…。まぁよい。君たち、想像したまえ、真実を」
 誰もがその言葉に驚いていた。最初にドムが呟く。
「実の…父親だと?俺に両親など居ない。家族は、ドイルの兄貴だけだ」
 その言葉に、シャーロット・ロンドンは頷く。
「わ…私の父は、私が小さい時に亡くなって…ずっとお母さんと暮らしてきたんだよ!」
 瞳を大きく開き、驚きと困惑を隠せないアリスが叫ぶ。その言葉にも、シャーロット・
ロンドンは無言で頷く。そして、マシューの方に視線を移す。ドムも、アリスも、マシュー
の反論の言葉を待っていた。しかし、マシューの反応は違った。
「僕は…子供の頃から、違和感を感じて生きてきた。本当に、ここが、自分の居場所なのか
 と、ずっとさ。何か他の子と違うし、見ている世界も、考えている世界も違うように感
 じていた」
「マシュー?」
 アリスが心配そうに彼の瞳の中を覗き込む。
「でも、日本人の母と、イギリス人の父が居る。それは事実だ!」
 …そして、恋人も居た。マシューの脳裏に微かによぎる追憶の記憶。
 一通り彼らの思いを聞いて満足したのか、シャーロット・ロンドンは語りだした。
「本来なら、このような形で自分のチャイルドたちを散り散りに別れさせるべきではな
 いのは分かっている。子供の幸せを考えればな」
 シャーロットは、エスパーの方に視線をやる。エスパーはその言葉の意味を深く理解
し、目を伏せた。自らの罪に後悔するように。
「しかし、子供の安全を考えれば、そうせざるをえなかった。許して欲しい、私の親愛なる
 チャイルドたちよ」
「許してはいけない!大人の身勝手な事情で子供を騙す行為を許してはならない!」
 ロッド・シルバーフィールドが“秘密の塔”から叫んでいた。その言葉は自分自身に向
けたものだったのかもしれない。
 その瞬間、シャーロット・ロンドンが右手を上げ、指を鳴らした。すると、“秘密の塔”の
屋上に、4つのシルエットが現れた。表現を変えれば、いつの間にかそこに居たのだ。
 それは、シャーロット・ロンドンの教え子たち、“幻影騎士団”の4人だった。

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