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ハルカなる物語のお部屋コミュのおとぎ話「最後の声」

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ある一つの命題があります。
『誰もいない森の奥で大きな木が倒れた時、音はするだろうか?しないだろうか?』
みなさんはどのように考えますか?


ジオはママが大好きです。
優しくて、ニコニコ笑ってて、自分を守ってくれるから。
でも、ママは優しすぎて、他の命を奪う事をすごく嫌がります。
子供たちのためにほんの少しだけその命をもらって、もらった命全部をジオたちに与えてくれます。
「ママはどうして食べないの?お腹すかないの?」
「ジオがお腹すいていないならそれでいいの。」

ママは争うことも嫌いです。
怖いのに追いかけられても逃げて逃げて、絶対にやり返しません。
ジオたちが襲われたときだけ怒ってくれたけど、それでも決して相手を傷つけたりしませんでした。
「ママはどうして怒らないの?痛いのが怖くないの?」
「ジオが怖い思いをしたら怒るわ。ジオが無事ならそれでいいの。」

ママが笑うとジオも笑います。
ママがいいというなら、きっと、それが正しいんだとジオは思っていました。

ジオはお兄ちゃんとお姉ちゃんも大好きです。
お兄ちゃんは威張ってるけど、ジオが苛められてるとすぐに駆けつけてくれます。
お姉ちゃんはママそっくりで、優しいけど怒るとすごく怖いです。
「お兄ちゃんとずっと一緒にいれるかな?」
「もちろん、お兄ちゃんだからな。」
「お姉ちゃんとずっと一緒にいれるかな?」
「もちろん、お姉ちゃんだもん。」

ある日、ジオがママやお兄ちゃん、お姉ちゃんと日向ぼっこをしていると、突然、森じゅうが騒ぎ出した。
色んなところで初めて聞く音が聞こえてきます。
ターン、ターン
その音は遠いところから聞こえるような、近いところから聞こえるような、不思議な音です。

ジオたちは急いでママと逃げました。
森の奥へ
川の向こうへ
不思議な音は絶え間なく聞こえてきます。
たくさん、たくさん聞こえてきます。
そのたびに命が消えていきました。

走ってるジオの目の前でお兄ちゃんが突然倒れました。
ビックリして側へ行きますがもう、お兄ちゃんは息をしていませんでした。

立ち止まってるところへまたあの音が聞こえてきます。
ジオは急に突き飛ばされた。
ジオの目の前で今度はお姉ちゃんが倒れます。
やっぱりもう、息をしていませんでした。

ママは嫌がるジオを連れてそこから走り出します。
ジオはポロポロ涙を流しながらお兄ちゃんとお姉ちゃんの事を呼びました。
ママもポロポロ涙を流しながら、それでもジオを連れて逃げます。

ターン…!
やけに近くで音が聞こえた次の瞬間、ママが急に倒れました。
ママからは命の火が少しづつ消えていきます。

あの音だ!
ジオはあの音がママに怪我をさせたんだとわかりました。
あの音がママの命を奪っていきます。

ジオは大きな声で叫びます。
「だれか、だれかママを助けて!」
喉が裂けるほど叫んでも
涙が枯れるほど泣いても
誰も側へはきません。
遠巻きにいるだけで、誰も助けようとしてくれません。

「ジオ、逃げて。お願い・・・」
少しずつママの呼吸が浅くなっていきます。
眼は光を失い、体中の力が抜けていきます。
ジオは一生懸命、ママの体を抱きしめた。
ママがそっと僕の頬を撫でてくれます。
「ジオ…」
にっこり笑うとママはそっと目を閉じて、二度と開きませんでした。

「ママ!ママ!」
気が狂ったようにジオはママを呼びます。呼び続けます。
そこへ、誰かがやってきました。
初めてみる生き物です。
二匹いて、どちらもひょろっとして、弱そうな、嫌な臭いをさせた生き物です。
周りにいたみんなはその生き物が近づくのに気付いて逃げて行きました。
“この生き物は…テキだ!”
本能が、告げます。

ジオは初めて怒りました。
ママに近づく生き物へ力の限り叫びます。
「近づくな!ママに触るな!」

だけど生き物はお構いなしに近づいてきます。
ジオは初めて生き物へ攻撃しました。
腕を傷つけると生き物は叫んでもう一匹の生き物へ助けを求めます。
もう一匹の生き物の手には黒い何かがありました。
生き物はそれをジオへ向けます。
ターンっ…
あの、命を奪う音が聞こえた。
ジオはビックリして飛びのきました。

少し離れると、黒い何かを持っている生き物のもう片方の手で何かを持ってるのが見えました。
さっきまで一緒にいたお兄ちゃんが、ジオを助けてくれたお姉ちゃんが、いました。

ジオの
目の前が真っ赤になっていきます。
心の中が真っ黒になっていきます。
頭の中が真っ白になっていきます。

生き物は続けざまに何度もあの音をジオに聞かせます。
そのたびにジオは逃げました。
けれど、ママがいるから逃げるだけじゃなく攻撃もします。
腕に、足に噛みつきます。
音を聞かせられても、殴られても攻撃をやめませんでした。
そのうち、生き物はいなくなりました。

「僕は…勝ったんだ…」

ホッとすると急に力が抜けてきました。
ヨロヨロとママのそばへ行くと、ママはもう、冷たくなっています。

「ママ、ママ、僕がんばったよ。ママ褒めて。ママ…」
そっとママに寄り添います。
地面に座ると、お腹のあたりからジオの命が流れていました。
さっきの音のせいです。
ママはまだ待っていてくれるかな?
きっと待っていてくれるよね。おいてったら一生けん命追いかけるから・・・


『誰もいない森の奥で大きな木が倒れた時、音はするだろうか?しないだろうか?』
「もし僕がここで死んだら、誰か気づいてくれるかな?
僕の最後の声は誰かに聞こえるかな?聞こえないかな?」

「アオーンっ…!」

ジオは大きく遠吠えすると、そっと目を閉じました。
その眼はママや兄弟と同じで二度と開かれることはありませんでした。



『誰もいない森の奥で大きな木が倒れた時、音はするだろうか?しないだろうか?』
これは、とある作品に載っていた一節です。
その作品名などは覚えていませんが、それでも、とても考えさせられたことはよく覚えています。

今も私たちの知らないどこかで命が消えています。
聞こえていなくても、消えています。

この「最後の声」は絶滅したニホンオオカミをモチーフにしています。
ニホンオオカミは駆除されたり、病気が流行したりと様々な原因でその存在が確認できなくなり、絶滅とされてしまいました。

ニホンオオカミの最後の声を一人でも聞いていたら、何かが変わったからもしれません。
何かが変わるかもしれません。
聞こえなくても響いてくるその音に、声に、気づいてください。
それは、大切な何かを助けるための第一歩なのですから。

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