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ハルカなる物語のお部屋コミュの「フローライト・ドリーム」

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蛍には会いたい人がいました。
それはまだ、蛍が幼生だった頃のことです。
幼生の頃は可愛らしくない姿で、魚やカエルにいつも狙われていました。
その日もエサの貝を捕まえようとしていたらカエルに見つかってしまい、追いかけられていました。

「やめて、食べないで!」
逃げても、逃げても追いかけられて、とうとう岸辺まで追い詰められて、もうダメだと思った時、カサリと葉音がして、急に人間の男の子が現れたのです。
突然現れた男の子にカエルは驚き、蛍を追いかけるのをやめてさっさと逃げてしまいます。
残された蛍も酷い事をされると思い、おびえています。
なぜなら、会った事はありませんが、川にいる生き物はみんな口をそろえて『人間は怖い』と言っていたからです。
蛍も水の方へ逃げようと手足を必死にバタつかせますが、水辺の草に絡まってしまい動けなくなってしまいます。
すると、男の子がそっと手を伸ばしてきました。
蛍は何をされるのかと、怖くて、怖くて、ビクビクふるえます。
けれど…
「うわぁ、絡まっちゃったのか。ほら、もう大丈夫だろ?」
そう言って、男の子はそっと蛍を水辺へと助けてくれたのです。
なるべく蛍には触れないように、葉を軽く揺らして。
ポチャンと蛍が水の中へ戻ると男の子はにこっと笑って戻って行っていきました。
蛍が伝えたい事を伝える前に…

それから毎日、蛍は水辺で男の子を待ちました。
朝も昼も夜も、晴れの日も曇りの日も雨の日も、ずっと待ちつづけました。

“人間なんか待ったってしょうがないだろ。どうせ僕らの言葉なんてわからないんだから”
“私たちの命は蛍になってひと月もないのよ。もっとほかに大切な事があるでしょ?”
仲間たちはそう言って蛍の事をバカにしていました。
蛍も不思議でした。
どうして待つのか?
ただ、もう一度会いたくて、何かを伝えたくて、待ち続けました。
その理由も分らないままに。

蛍はいくつもの朝と昼と夜を待ちましたが、男の子はそれ以来、姿を現しませんでした。
そして、とうとう梅雨が終わり、大人になる時がやってきました。
周りの仲間たちがどんどん大人になっていく中、蛍は一生懸命に祈ります。
「どうしても、どうしてももう一度会って伝えたいことがあるんです。」
仲間たちが耳を傾けないその言葉を受け止めたのは空に輝く月でした。
「そんなに何を伝えたいのですか?」
「…わかりません。だけど、何か!…何かを、伝えたいんです。」
「それならば大人になりなさい。私がその人間を導きましょう。そして一瞬ですが、あなたに力を貸しますから、声を届けなさい。」
蛍は月との約束を胸に大人になることにしました。
月が明るく輝く中、次々と大人になる仲間たちと一緒に蛍も大人へとなります。
仲間たちは大人になると体を光らせ、理想の結婚相手を見つけだします。
けれど蛍は大人になるとすぐに川辺に集まる人間たちの何に、あの男の子がいないか飛び回りますが見つかりません。

蛍は毎夜、月へと話しかけます。
「今日はあの人は来ますか?来ませんか?」
けれど月は答えてくれません。
「明日には来てくれますか?来てくれませんか?」
やっぱり月は答えてくれません。

次の日も、また次の日も、たくさん集まる人間の中に男の子を探しますが、見つかりませんでした。
はじめはたくさんいた仲間たちもどんどん少なくなり、集まる人間も少なくなり、とうとう、蛍にとって最後の夜がやってきてしまいました。

「月があの人を連れてきてくれると言うから大人になったのに、あの人は来てくれなった。もう、今夜が最後の夜なのに…」
月がいつもより明るく輝く夜、蛍は葉かげでしくしく泣いていました。
そこへ、月が初めて話しかけてきたのです。
「待たせてしまってごめんなさい。だけど、約束は守りましたよ。」
「・・・・・・っ!」
蛍は急いで葉かげから飛び出し、男の子を探します。
ふらふらになった体で探し回ると、仲間たちを見つめている男の子を見つけました。
蛍の男の子の目の前へ飛んでいきます。
「止まるかい?」
そう言って男の子はそっと蛍の前に人差し指を差し出してきました。
指先に止まると蛍は最後の力を使って体を光らせます。
男の子は指先に止まる蛍を興味深く見つめています。
そこで蛍は何を伝えたかったのか考えます。

“助けてくれてありがとう”
“怖がってごめんなさい”
“もう一度会いたかった”
“会えてうれしかった。さようなら”

たくさんの気持ちと言葉が心に浮かんできます。
蛍はその中で一番伝えたい事を考えます。
「ありがとう?…ごめんなさい?・・・さよなら?…違う。違う!私は、私は…!」
月の力を借りて、蛍の光がひときわ大きく光ります。
「えっ!?」
その光はとても眩しくて、男の子は思わず目をつぶってしまいます。
男の子が驚いている中、蛍はたった一言、言葉を伝えます。
その言葉は男の子の耳へと届き、そして、風の中へと溶けていきました。
「光が…」
それから蛍の光はどんどん小さくなり、ついには光らなくなっていきました。
男の子がそっと目を開けるとそこには蛍ではなく、小さな石がありました。
男の子は不思議そうにその石を見つめてそっと月明かりに照らしてみます。
石は深い緑の色をしていて、形は涙のような形をしています。
男のはそっと石を撫でてみます。
まるで、初めて蛍を助けてくれた時と同じように優しく。
男の子は軽く眼を閉じ、少しだけ何かを考えると、帰り途を歩き始めます。
男の子が家に着くまで、月が道を明るく照らしていました。
それから男の子は次の年も、また次の年も、そのまた次の年も必ず川辺へやってきては何かを探すように辺りを見回して帰っていくようになりました。
その手には必ずあの、石を持って。

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