ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

ハルカなる物語のお部屋コミュの「さくらそうの さくころに」

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
チロの毎日のお散歩コースは、お庭の植木にちっちして、川沿いの道をずーっと歩いて、野原で思いっきり走りまわって、お家へ帰ります。

チロのお気に入りは野原に咲く春のさくら草です。
夏はアサガオ、秋はコスモス、冬は雪、たくさんの景色が野原の表情を変えますが、春が一番でした。
だって、やっちゃんと初めて出会った季節に見せてもらった最初の記憶だから。
やっちゃんは、チロの飼い主で一番のお友達です。
毎日、チロを撫でてくれたりボールで一緒に遊んだりしてくれます。

毎日やっちゃんと一緒にお散歩するのがチロの一番の楽しみで、野原で一緒に遊んでる時が一番幸せでした。
チロが3歳になった年の春、さくら草はあまり咲いていませんでした。
それまでは野原一面に咲いていたのに地面が見えるくらいに少なくなっていました。

次の春、さくら草はもっと少なくなっていました。
その次の春はもっと少なく…
そして、とうとうさくら草は咲かなくなってしまいました。

チロはどんどん春が来るのが嫌いになっていきました。
次の春にもさくら草はないかもしれない…
そう思うとどんどん悲しくなって。
春が大好きだから、どんどん嫌いになっていきました。

いつの間にかお散歩コースに野原がなくなりました。
チロが行くのを嫌がったからやっちゃんがコースを変えたのです。
チロはそれが寂しくて苦しくて、でもほっとしていました。

「これで野原を見なくてすむ」

そんなチロをやっちゃんは悲しそうな目で見ていました。

たくさんの春がきて、夏がきて、秋が来て、冬が来て、チロは10歳を過ぎていました。
やっちゃんのお家へきたときにはまだほんの子犬だったのに、今ではすっかりお年寄りになってしまいました。
子犬の頃みたいに走り回ったりすることも無くなって、一日の多くを寝てすごしています。
やっちゃんも大きくなり、昔のようにチロを散歩してくれる時が少なくなりました。

ある日、やっちゃんがいない代わりにお母さんがお散歩をしてくれました。
お母さんはチロが子犬だった頃のお散歩コースを歩いています。
チロは行きたくないと嫌がりますが、お母さんは気にせずチロを引っ張っていきます。
いつもの川沿いの道を歩いて、何年かぶりに野原を通ると、そこにたくさんの人がいました。
やっちゃんもいます。
やっちゃんとお母さんがお話をして、チロとお母さんはそのままお散歩を続けました。

次の日もまた、お母さんがお散歩をしてくれました。
やっぱり野原を通ります。
今日はやっちゃんはいませんが、またたくさんの人が集まって何かをやっていました。
野原は少しだけ、昔みたいに見えました。

季節は夏になり、毎日、暑い日が続くようになりました。
チロがいつものようにお昼寝をしていると、突然、激しい痛みを感じました。
我慢できないくらい痛くて、チロは吠えたり暴れたりします。
ビックリしたやっちゃんがお医者さんへ連れて行ってくれました。
お医者さんに診てもらうと、チロはお年寄りになったせいで、体を悪くしていることがわかりました。
今までみたいにお散歩したりすることも難しいと言われてしまいます。

それからチロは一日中寝てるようになりました。
やっちゃんが心配して必死に看病をしてくれますが、体はよくなりません。
大事件の起こった夏が終わり、秋が来て、冬がきて、暖かくなったある日、やっちゃんがお昼寝してるチロの所へとやってきました。

やっちゃんはチロをそっと抱っこすると、そのまま外へと出かけます。
空気は少し冷たいけど、日の光は暖かくなって、春になったのがわかりました。

チロはやっちゃんの腕の中で気持ちよさそうに目を閉じています。
そのとき、懐かしい匂いがしてきました。

「チロ、ついたよ。」
やっちゃんの言葉にチロは目を開けます。
目を開けたチロの目の前にはさくら草が咲いていました。
ずっと、何もなかった野原には、昔のようにさくら草がたくさん咲いていました。

やっちゃんはそっとチロを下ろします。
チロはソロソロと野原の中へ入っていきます。
野原の感触を確かめるように、ゆっくり、ゆっくりと歩きます。
野原にはさくら草のかすかな甘い、優しい匂いがしています。

チロはまた眠くなってきて、さくら草の中で横になりました。
さくら草の匂いでチロはやっちゃんと初めて会ったときのことを思い出します。
ある日、いきなりパパとママと兄弟たちがいなくなったこと
寂しくてやっちゃんに中々なつけなかったこと
そんな自分をやっちゃんは抱っこして、この野原へ連れてきてくれたこと
野原にはさくら草がいっぱい咲いていて、野原が大好きになったこと

うとうととまぶたがくっつきそうになっているチロの頭や体をやっちゃんが優しく撫でます。
「チロ、今はまだ、これだけだけど、来年はもっといっぱいのさくら草を見せてあげるからね。だから…」
やっちゃんの言葉の最後を聞く前にチロは眠ってしまいました。
気持ちよさそうに目を閉じたチロの頭をやっちゃんは優しく撫でます。


そうして太陽が沈んで、夕方が夜に変わるまでチロとやっちゃんはずっとさくら草に包まれていました。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

ハルカなる物語のお部屋 更新情報

ハルカなる物語のお部屋のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。