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アキグレコミュのXIII;妖精の時刻 04/the Black World (3と5の間のもの)

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「――――いやはや、いつに見ても」


壮観である。
酒に酔い倒れそうな人々が、それぞれのポーズで昆虫の剥製の如く止まっている。
知らない人が見たら、皆して行為芸術でもやっていると勘違いするだろう。
大通りにちょっと美人なお姉さんがいたので、近づいてほっぺをぐいぐいと押してみた。
何のリアクションもなくて、人と言うより良く出来たマネキングみたいだ。

つまらない。他を当たろう。
駅前の大通りに出てから、東大門駅の方向に歩き出した。
俺だって、最寄りのコンビニばっかり狙ったりはしない。たまにはこうやって遠出もする。こそ泥簿の分際でえらく気遣ったモノだと、自分で自分を嘲笑ってみる。
あまり悪い気分ではなかった。


「……」


さて、目的のコンビニに辿り着いた。
アルコールと忘却の海に沈んだ大学路の街の一角を灯すコンビニの白い光が、この人為的な非現実の中でただ一つの現実に思えた。
透明な窓に顔をくっつけて中を除く。主に見るべきは来客の数と店員が停止した位置である。変な所で止まって道を防いでいると、ひどく厄介になるのであまり芳しくない。レジ打ちの方を見ると、店員がひとりつっ立っているだけで、タバコもお金も取り放題になっていた。


――――いける。


ドアをゆっくりと押しながら店に進入して行く。
<ちりんちりん>と、ドアにつけてある鈴が小さく鳴り、奥のスタップ専用ドアから人が出て来た。


「ふにゅ?」
「…………えっ?」


女の人だった。
口いっぱいに、おにぎりをビニルごとくわえている。
ちなみに、そのおにぎりは激辛ブルゴギ味。
黒くて白いゴシックドレスを身にまとい、何処かのビジュアル系コスプレイヤーさんのようにも見えた。
しばし、両者ピクっとも動かずに,重ったい間が流れていく。
先に動いたのは女の人……の口だった。もぐもぐ。


「あ! ふむすぇうむむるえああっは!」
「地球語で話せ!!」


思わず脊髄反射で喝を入れてしまった。
女は俺の言葉が分かったようで、もぐもぐと口の中の物を整理始めた。
ああー良かった良かった。宇宙人ではなかったようだ。拉致られずに済みそうだ――――いや待てよ。俺、今何か重要なものから逃げてないか?

あ、そうだ。思い出した。
この女も13時に動いているのだ。
心を落ち着かせて考えてみると、彼女は手首から銀のチェインのようなものを下ろしている。その先に付いてあるのは懐中時計だ。俺のと色は違うけど、金属カバーに彫られたデザインは全く同じだ。つまるところ、それって……


「とうぅ!」
「あ、こら!」


全力ダッシュで逃げ出す。
やっとおにぎりを食べ切ったのか、彼女も口元から涎ダラダラのビニルを取って俺を追い始める。
彼女は韓国語が話せるらしいが、俺はそんな事などすでに気にしていない。
もはや車道と人道の区別もなく、静まり返った都会の大通りを、駆ける。
後ろにふり向けば、彼女はヒラヒラする黒いベルベットスカートを両手で端折り、ジョギングするほどの動きで追撃している。
嗚呼。
韓国のホラー映画がこの怖さに追いつくには、この先10年では足りないだろう。
自慢ではないが、20年間走りで負けたことはない。高校でもいつもトップクラスだったし、逃げ足にだけは自身がある。
男と女の身長の差があるというのに、あの女はそんな事も無視している。
こっちは走っていて、あっちは歩いているのに、二人の距離は縮まっているのだ。


「こら、ちょっと、止まりなさいってば!」
「そういうお前はなんでついて来んだよ!!」
「貴方がいきなり走るから! 逃げるなって!」
「逃げるなと謂われて、止まる奴が何処におる!! 」


突如、彼女が手持の時計を投げた。
銀色の螺旋が美しく展開する。優雅なその動きに一目を捕われていたら、俺の腕に時計が巻き付かれた。
彼女は釣りをするかのように、そのまま精一杯引っ張られる。体の均衡を崩された俺は、あっけなく後ろにコケた。


「うわあああああああああああぁ!!」


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