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アキグレコミュのXIII;妖精の時刻 06/the Black World

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顔を洗い終え、タオルを手に取った。
いつも通りに顔をすりすりしていたら、ふとタオルから何かいい香りがするということに気付いた。洗濯する時に纎維柔軟剤を入れるとこうなる。

……いや待て、俺はこんなもの買った覚え、ないぞ?

洗濯物箱の近くを見れば、昨日までは無かった洗剤がきちんと整理されていた。

「部屋を掃除したのまでは分かるけど……俺の洗濯までやったのか?」
「尹世玄(ユン·セヒョン)」

直ちに蒟蒻問答を打ってくる。どうやら、彼女の名前らしい。

「ええと、尹世玄。どうも部屋の隅々に見覚えのない物があるんだけど……」
「ああ。買ってきたの。
一人暮らしする男、その上喫煙者なら、部屋中にタバコの臭いがするからね。
吸っている本人が分からないだけよ」
「しょうがねぇだろうよ。だって感じ取れないもん」
「そんなんじゃ、いつまで経っても彼女できないぞ?」

ちぇ。
言い訳と正論が交差した。
そういえば、何か刺激的な香りが台所から流れてきている。

「お、カレーか?」
「にわかにカレーが浮かんだものでして。
もしかして、カレーは嫌い?」

いや、とくに好物とまでは言わないが、だからといって食わない訳でもない。
世間ではこれを好きだと言う。

「そう。味付けはどっちの流派かしら」
「辛党」
「……よかった。辛くない味にしたらミスチョイスになるところだったね」

ととと。
リズム感あふれる包丁音を立てながら、肉、ニンジン、ジャガイモを適当な大きさで切り込んでゆく。
料理の素人の俺でも、爽やかな包丁さばきと同線だと判る。家で趣味として料理しているレベルではなさそうだ。プロなのだろうか?

「そうそう。時計のこと、あまり知らないといいましたよね」
「ああ。俺はただ、引っ越してきたらこの部屋に捨てられている時計を拾っただけで」

それから何ども実験して、それなりに使用法を整理しておいたが、そんな事までこの正体不明の女に話す必要はなかろう。今までの行動だと俺に友好的に見えるが、人は外見だけで判断してはいけない。

「この海中時計について知るためには、まずブレゲ(Breguet)という人物について知る必要があるわ。
韓国のウェブにもポピュラーな内容は載ってあると思うから、一度調べてみて。
どうせ、カレーはもう少し時間かかりそうよ」

ぶれげ? 変な名前だな。

あ、外人か。

とにかく、彼女は俺が知らない情報をたくさん知っているようだ。
食事を待ちながら頭を回しておくのも悪くない。
24時間つけっぱなしのマシンの前に座って、トコトコと検索語を入れてみる。

「『ブレゲカタログ』? ブレゲという名の、ブランド時計メーカーがあるのか」
「調べてほしいのは、そのブレゲ社の創始者。初代のブレゲさん」

よろしい。ならばグーグル神だ。トコトコ。

「お、Wikiにあるよ」
「偉人ですから」

どれどれ……


[ アブラアム・ルイ・ブレゲ
[ 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
[ 移動: ナビゲーション, 検索

[ アブラアン・ルイ・ブレゲの銅像アブラアム・ルイ・ブルゲ(ブレゲ)(Abraham Louis Breguet , 1747年1月10日 – 1823年9月17日)はスイス、ヌーシャテル生まれの時計職人。時計の歴史を200年早めたとも云われる。


ふむふむ……こういう人がいたのか。
うっすらと浮かぶイメージでは、几帳面で真剣でツンツンしてて、冗談言っても笑ってくれなさそうな、頑固おやじの匠という感じだな。

「なぁ、尹世玄」
「年も近いし、呼び捨てで呼んでくれない?
別に警察の取り調べじゃないから」

むむぅ、それはそうだ。


[ フランスで時計の開発を行い、永久カレンダー、暗闇でも音で時を知らせるミニッツリピーター、重力の影響によりゼンマイ時計が狂うのを防ぐトゥールビヨン機構など、様々な革新的技術を生み出した。
[ そのほかにも、耐衝撃装置、ブレゲヒゲと呼ばれる独特のカーブを持ったヒゲゼンマイなどにより、時計の信頼性向上を図る地味な発明や、ブレゲ数字(独特のインデックスの書体)、ブレゲ針(穴空き針)、ギョーシェ(文字盤の細やかなピラミッド状の装飾)といった高級時計に現在も用いられる意匠の考案にまで、彼の業績は及んでいる。

[ 彼の創設した時計メーカー・ブレゲは世界5大時計と呼ばれることもある。
[ 他4社はパテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲ、ランゲ・アンド・ゾーネ。


「あのぅ……セ、セヒョンさん」

よっぽどおれの声が恥ずかしさに染まっていたのか、
セヒョンはしばし口元を防いでちいさくクスクスと笑った。
あーーーー急に顔が熱くなる。

「はいはい。何でしょうか~? ジンヨンさん」

こ、こいつ、俺を馬鹿にしたいのか!?
バカ扱いされた気がしてムッと来たが、今はそんなことは忍んでいろいろと聞き出さなければならない。

「ええと、この、ブレゲ?って人が俺たちの時計を作ったのか?」
「初代目ブレゲ直々……ではないけど、彼の後期公房de制作されたのは間違いないね。
ささ……出来上がりました」

大きな皿にキレイに盛られたカレーライスを,パソコンの机に運んで来たので、俺は条件反射的にキーボードを横立てにした。
そういう俺の行動をみて、ふっと笑みを浮かべては、俺のベットに腰をかけて自分の時計を取り出す。

「いただきます」
「はいはい。どうぞ召し上がれ~」

彼女の、ヨーロッパっぽい口調のせいで、一瞬スプーンを落とすところだった。
何故か、マリオ髭のフランス人シェフが脳裏に登場した為である。

「どうせ長い話になる上,一方的でもあるはずだからーーーー食べながら聴いて」


正直、昨日の夜から何も食っていない。
スプーンいっぱいのカレーとご飯をくわえた。

「う…………うぅ」

彼女、こんなに若くて胸大きいのに。
何故だろう、カレーからお袋の味がする。
俺……今、泣いてる?
今すぐにでも、6年分の涙が溢れそうになった。やべぇ。このカレーは危険すぎる。俺のリアクションが余りにもわかり易かったのか、彼女はすぐにニコニコする笑顔になった。

「どう? イけてます?」
「……このカレー、最高……」

食べ物が美味しすぎて泣くのは別に漫の中でのはなしではなかったようだ。
くそ。美味い。甘すぎる。

「よかった。
さて、何から話しましょうか……」

彼女の顔から笑みが去った。
真剣で、まっすぐで、
カリスマ溢れる強い目刺しを用いて、彼女は遠い昔の物語を綴り始めた。

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