アキグレコミュのXIII;妖精の時刻 03/the Black World

XIII;妖精の時刻

03/the Black World

…
……
………あっという間に7月になった。

俺は殆どの時間を部屋で過ごすようになった。
外に出る時は、食糧を買い込む時と、タバコが切れる時だけ。
昼には寝て、夜に活動し始めた。バイトも結構前から辞めている。
あの時計のせいで、何もかもが全てめんどくさくなってしまった。バイトを続ける気力もとうの昔になくなっている。

「……」

今、俺はパソコンの前に座った状態で首と背筋をせいいっぱい後ろにのばしている。横から見ると、死体ごっこにしか見えない体制だ。
逆転した目線は、ベットの上に置いた金色の禍々しい懐中時計にささっている。
パソコンの画面にはメモ長が表示されていて、その中にはこういう文章が書かれていた。

[ 懐中時計メモ長
[
[1。懐中時計を持ったまま午前０時になると、魔の13時が訪れる。
[1ー1。時計を家に置いたまま出かけてみたら、普通に時間が過ぎる。
[1ー2。時計を握らなくても、かばんやポケットに入れといたらあっけなく突入。
[1ー2の推論:時計から一定距離離れると効果がないらしい。
[
[2。13時の間、他の人はまるで固まったように止まっている。
[2ー1。彼らは何も認識できない。
[2ー2。13時の間のカメラやCCTV、その他様々な撮影装備は、ノイズしか写さない。
[
[3。13時の間、すべての時計は停止する。
[3ー1。ケータイを含めすべての時間装置は11:59:59のまま1時間を過ごす。
[3ー2。写真を取れば前日の日付になる。
[
[4。13時の間、止まっている人を押したり引っ張ったり動かしたりできない。
[4ー1。1時間中倒れ込む姿のまま止まっていた奴もいた。
[4ー2。女の服を脱がす事ができる。おそらくレープもさぞ難しくない。
[4ー3。例外として、犬や猫、鳥などは普通に動いていた。
[
[5。13時の間、物を動かしたり、投げたり,持ち上げたりできる。
[5ー1。カッターで人の肌を切った場合、まず傷口が広がるが出血はせず、13時が終わってから出血が始まった。
[5ー1ー1。俺自身を切った場合は普段通り。
[5ー2。タクシーに乗ってみたら、ぴくとも動かなかった。
[5ー2ー1。電車も動かない。
[5ー2ー2。直接車を運転する場合と、チャリンコくらいは動く。
[5ー2の推論:他人が動かしている移動手段は使えない。直接運転する物は影響を受けない。
[
[6。13時の間、すべての通信手段はバカになる。
[6ー1。サーバーからのダウンロードを試した結果、13時にネットが切れるのではなく、極端的に遅くなるようだ。
[6ー2。オフライン環境で働くプログラムはすべて正常機動。
[6ー3。すこしでもオンラインリソースを使うアプリは全てダメ。
[6ー4。ケータイもダメ。
[6ー4ー1。メールする場合、翌日の00:00:00に伝送されたことに表示される。
[6ー4ー2。電話の場合、13時が終わってから向こうのベールがなり始める。
[6ー4ー3。電話が継った状態で13時になったら、1時間中変なノイズが聞こえるだけ。
[6ー4ー3ー1。相手は異常を感じない。
[6ー4ー3ー2。13時が終わったら通常状態に戻る。
[
[

2週間ほどかけて判ったのはこれくらい。
かなり非人道的な実験に協力してくれた、大学の連中及び大学路の通行人の皆様、ネットゲーの知人友人にありがとうの礼を云わせてもらう。
色々やってみた結果、時計を持つ限り魔の13時からは逃れられなかった。
本来オカルトやらお化けやら、そっちの手の話は信じない主義だったが、2~3日ほど13時を体験したらもうそんなことも言っていられない立場になった。

今はどうかって?
最近では、むしろ世界がひどく美しく見えるよ。

時計を捨てようと、何度も思ったし実行にも移した。
特にこの時計を使えばあまりにもスンナリと人が殺せるということに気付いた時には、本気で時計を壊そうとした。こんな物が世の中にあって良いはずがない。
だが、俺は毎回時計を拾い、今に至っている。
気がついたら、この追加された1時間をいかに活用するかについてばかり考えている。
もし世界に魔法というものがあるとするならば、俺は間違いなく時計の魔力に魅せられているに他ならない。

さぁ、この時計を使って、いかにして人生を変革できる?

答えはまだ出ていない。
が、先週から窃盗に手を出した。
俺が正義と理想と疲弊と安っぽい誇りの狭間で苦悩しようがしまいが、確実に腹は減る。
バイトは止めているし、金はない。
正義って、案外脆いものだった。少なくとも腹には勝てない奴だ。
今日もまた、13時を待ってから部屋を出て闇に溶け込む。

驚くほど、
惨めなくらい、罪の意識は浅かった。