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物語が作りたいんだ!!コミュの〜〜「同じ月を見てた」〜〜

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・・・登場人物・・・
須能正喜(スオウマサキ)・・・小学校5年生
紀島那奈(キシマナナ)・・・・2週間前に正喜のクラスへ転校してきた女の子
長地和秋(ナガチカズアキ)・・正喜の同級生
麟太郎(リンタロウ)・・・・・正喜の飼い犬


金曜日の空をオレンジが包み始めようとするある日ある時間、正喜は麟太郎の散歩に出た。
いつもと同じ散歩道を歩ていく。その横で、いつものようにはしゃいでいる麟太郎。散歩道のわきには蛙が騒ぐ田んぼや、夏野菜が実る畑が広がっていた。
季節は十分、暑さを表現している。だが今は夕方で、日差しも日中に比べるとやわらかく、風もあってか心地よい。正喜は学校が終わり家に戻るとカバンを玄関先に置き、家に上がらずそのまま飼い犬で麟太郎の散歩に出る、これが正喜の日課であった。
3年前に麟太郎を飼い始めた日から、ずっと続けている日課で今まで一日も欠かした事がないのが正喜のちょっとした自慢だ。(毎年1、2度は台風や大雪の為、外へ出ることが出来ない時があるのだが)だから近所の人や同級生はこの事を知っているので、散歩中の正喜を見かけると大体の時間を分かるので、散歩道のわきにある畑の農家は、散歩をしている正喜を見ると仕事を止め帰り支度をするそうだ。轍のある農道を正喜が歩いていると、前から少女がやってきた。
「須能君!」
紀島那奈だ。2週間前に正喜のクラスに転校してきた少女で、席は正喜の隣。それほど際だって綺麗とは言えないが、明るい笑顔と少し茶色かかっている髪がとても印象的な少女だ。
「あれ?紀島どうしたの?」
紀島那奈は小学校から見て正喜の家とは正反対に住んでいるらしいのだが、こんな所で会うのが正喜には不思議だった。
「うん、この町を見ておこうと思って。」
「そうか、紀島が転校してきて2週間しかたってないもんな。でもこんな所で会うなんて偶然だな」
「偶然じゃないよ、長地君に聞いたの。須能君、いつもここを歩いているって」
長地和秋、正喜の同級生でクラス一番の仲良し。正喜のこの日課を知っていて、紀島那奈に教えてのだろう(この正喜の日課は長地和秋だけではなく、町中の人が知っているので誰に聞いても教えてもらえただろうが)。今日もこの日課が終わった後、正喜は長地和秋と遊ぶ約束をしている。
「そ、それでね。須能君に話したい事があって・・・」
紀島那奈の頬が少し蒸気でそまっている。言葉を続けようとしたその瞬間、突然麟太郎が吠えだし、綱を引っ張った。それがあまりに突然だったので、正喜は綱を放してしまう、すると麟太郎は走り出し、道脇の畑を横切りその先の森に行ってしまった。
「あ、待て、麟!」
そう言うと麟太郎を追って正喜は走り出す。
「須能君!」
その後を紀島那奈は正喜を追って走っていった。

「おーい!麟!」
「麟君ー。」
「・・・いないなぁ」
正喜と紀島那奈は森の中で叫んでいた。
麟太郎を探して二人は森の中に入っていた。森は広葉樹が多く、夏場で青々と葉が茂り、その葉の間をくぐって夕方の光が射し込んでいる。あまり人の入らない森であるから、背の高い草が多くゴツゴツした地面のせいで少し歩きづらい。正喜が先頭で、後に紀島那奈がついて歩いていく。麟太郎は確かにこちらの方に駆けていったはずだ。だから叫びながら探しているのだが、全く見つからない。麟太郎は綱を付けたまま走り出した。もし綱が何かに絡まってしまったら自力では取れないだろう、正喜は心配になってきた。そんな事を考えながら探していると、
「きゃっ!」
紀島那奈が突然叫んだ。
紀島那奈の視線は蛇を見据えている。そして両手は少し震えながら、正喜の左腕につかまっていた。いつの間にか紀島那奈は、正喜の後ろから蛇をのぞき込む様な格好になっている。
「大丈夫だよ。あいつは大人しい蛇だから。さあ行こう。」
正喜は少し緊張した言い方で、そう言った。それを聞いた紀島那奈は安堵したのか、いつの間にか正喜につかまっている自分に気づいた。
「あっ」
と言って手を離すと、少し照れている。
正喜も少し照れながら、恥ずかしさを隠すように辺りを見回した。何分経ったのだろう、森は入った時よりも陰が多くなって空はオレンジを淡い藍色がぬりつぶそうとしている。
「暗くなり始めたみたいだ。もう戻ろう」
と言いながら精一杯の勇気をふりしぼって紀島那奈の手を取った。そして森の入り口の方に歩を進めようとした瞬間、二人は倒れていた。
確かに倒れていた。しかし今までいた場所で倒れたのではない。今いる場所は先ほどいた場所より3、4メートル下にいた。穴蔵に落ちてしまった。幸い、強い衝撃を受けたが怪我はしていなかった。穴底の土が比較的柔らかかったからだろう。
「いたたたた。大丈夫?怪我してない」
正喜は強い衝撃で痛む体の呼吸を整えながら、紀島那奈の声をかけ無事を確認すると、穴蔵を見回した。まだなんとか少し光が射し込む。穴蔵は直径2メートルほどの井戸状の穴だった。古く井戸に使っていたものか、動物を捕まえる為の罠なのか分からない。
「う〜ん、高いな・・・」
そう言って正喜は穴の上を見た。しばし考え込むと大声を出す。「おーい」だったり「助けて」だったり。しかし悲しいかな反応は全くない。今度は壁際に向かって屈んだ。屈みながら紀島那奈に
「僕の上に乗って立つんだ。それで僕が立つから、そしたら外に出れるかもしれない。」
そう言って紀島那奈が自分の体の上に乗った。乗って立った事を確認すると、力いっぱい立つ事だけに集中して立った。正喜は力はそれほど強い方ではないが、標準ほどにはある。しかし小学生だ。小刻みに震えた体で精一杯立ちながら、これも震えた声で言った。
「届きそう?」
「ううん、届かない。」
紀島那奈も小刻みに震える足場で、上手くバランスをとりながら精一杯手を伸ばしている。
伸ばした手は穴の縁までわずかに届かない。
正喜は二人一緒でなく、紀島那奈だけでも外に出られれば良いと思っていた。紀島那奈が外に出られれば、その後助けを呼んできてもらえば良かったし、それで十分だと思っていた。(しかし実際手が届いたところで、紀島那奈の様な華奢な女の子が一人で這い上がる事はできないだろう)
二人は一旦諦めて穴底に座り込んだ。正喜は無言で上を見ている。そのうち、紀島那奈が泣きだしてしまった。
「大丈夫だから、きっと大丈夫だから。絶対助かるって。今日は長地と遊ぶ約束をしているのに現れなかったら探しにくるって。それになかなか帰らなかったら、親が探すだろうし。だからさ、心配ないよ。」
正喜は賢明に紀島那奈を励ましている。実を言うと自分も励ましていた。この場面でもし独りだったら正喜も同じように泣いていただろう。泣かずにすんでいるのは紀島那奈がいるお陰だし、紀島那奈がいるお陰で冷静にもしていられた。
正喜は泣く紀島那奈を覗き込むように言った。
「たぶん、ここからは二人じゃ出られない。だから助けを待つしかないんだ。助けが来たら騒がしくなって絶対に分かる。その時大声で叫ぼう。それまで体力をとっておかないと。」
そう言うとポケットに入っていた飴玉を紀島那奈に差し出した。
紀島那奈は飴玉をじっとみると
「・・・ありがとう。でも須能君の分は?」
「さっき食べた。」
正喜は素っ気ない口調で言った。
さっきから正喜は何も口にしていないのは紀島那奈にも分かる。正喜が紀島那奈に気を使ってそう言ったのだろう。しかし正喜の口調が紀島那奈にとってあまりにもおかしかったのか、クスクスと笑いながら「ありがとう」と言うとたった一つの飴玉を口に放り込んだ。
その時には紀島那奈はもう泣きやんでいた。
それから二人は無言になると寝込んでしまった。
「須能君」
正喜は呼ばれて目を覚ました。
もう完全に夜だ。二人とも時計を持っていなかったので、今いつ頃なのか分からない。
「あのね。」
紀島那奈が口を開けた。
「須能君にお礼が言いたかったの。これ。」
そう言うと紀島那奈はポケットから何かを差し出した。
消しゴムの欠片。
「あっ、これ。」
正喜は消しゴムを見ると驚いて、紀島那奈をみた。
「まだ持っていたんだ。」
この消しゴムの欠片は紀島那奈が転校してきた初日、紀島那奈にあげたものだった。転校してきた日に紀島那奈は筆記用具を忘れてしまった。
鉛筆は他の同級生に借りたが、消しゴムはどこ子も一つしか持っていない。その時、正喜は自分の消しゴムを2つに裂いて片方を
「やるよ」
と言って紀島那奈に渡した。
それはその時の消しゴムだった。
「私ね、とても嬉しかったの。それに休み時間とかにドッジボールとか鬼ごっことか色々誘ってくれたでしょ。それが嬉しかった。」
「わたしね、お父さんの仕事の都合で数えられないくらい転校してきたの。一つの学校に一番長くいたのが半年くらい。友達なんてほとんど出来なかったし、出来てもすぐに転校。だからいつもみんなが遊んでいるのを横で見てた。だって仲良くなったら別れる時凄く辛いじゃない。」
「でも須能君はいつも強引っていうくらいに遊びに誘ってくれたでしょ。それがとても嬉しかった。きっかけはきっとこの消しゴムだと思うんだ。だからこの消しゴムは、私の宝物。」
「ありがとうね。」
いつものような笑顔で言うと、何かに気づいたように言った。
「あっ、月。」
月だった。綺麗な月だった。穴底から月が見えている。木々の葉の間をすり抜けて、月がたくさんの星達と一緒に正喜と紀島那奈を見下ろしている。
紀島那奈は月を見上げていた。正喜はその横で紀島那奈の横顔を見ている。その時正喜には月の光で包まれた紀島那奈がとても美しく、とても輝いてみえた。
その視線に気づいたのか、紀島那奈が正喜の方に向いて少し微笑んだ。
正喜は照れくさくて慌てて月を見上げた。
二人は月をみてた。
同じ月をみてた。
ずっと。

「おーい。ここにいるぞー。だれか梯子持ってこーい。」
周りが騒がしくなり二人は目を覚ました。
二人は梯子を昇って穴の外に出た。
周りにはたくさんの人がいた。二人が帰らず心配した両親達が近所の人達に頼んで捜索隊を組織したのだ。たくさんの人達を見ると中に正喜の両親がいる。正喜は両親の元に行くとゲンコツが飛んできた。正喜の父は正喜を一発殴ると正喜の頭をクシャクシャとしながら「心配かけさせやがって」と言った。
父は怒ったようなそぶりを見せるが、安堵の笑みを隠しきれない。母は無言で正喜の服についた汚れを払っている。母のその瞳には涙の痕があった。
正喜は紀島那奈を見ると両親に抱かれ泣いていた。そこに正喜の父が紀島那奈の両親に話しかけている。話が終わった後、紀島那奈の父親が正喜に話かけてきた。
「だいたい娘から聞いたよ。娘を守ってくれたようだね。ありがとう。」
そう言われて正喜は照れてうつむいてしまった。本当に守ったのか、本当は紀島那奈に守られたのではないだろうか。実際には分からない。しかし同時に自分が少し認められた様な複雑な気がした。
「紀島、来週学校で。」
正喜は叫んだ。
すると紀島那奈はまだ涙の残る瞳と頬でニッコリ笑った。
そして紀島那那は両親に連れられて帰っていった。

週が開けた。学校が始まった。
もうすぐ夏休みだ。
正喜は自分の席に座り、夏の空を見ながら夏休みの計画を色々考えてた。その後、隣の紀島那奈の席に視線を移したが、今日紀島那奈はいない。
今日は休みかなと考えていると、先生が教室に入ってきた。
「今日は一つ、お知らせがあります。紀島那奈さんがお父さんの都合で急遽転校する事になりました。あまりに突然の話だったらしく、日曜日に引っ越しされました。それで紀島さんは最後に皆さんに会えないのがとても残念だ、と言っておられました。それと短い間だったけど、とても楽しい学校生活だったとも言ってました。」
「さあ、授業を始めましょう」

次の日から、いつもの様に学校が始まった。
いつもの様に受ける授業、いつもの様に交わされる友達との会話、いつもの様に流れる日々。
しかしたった一つ変わったものがある、新しくおろされた消しゴム。
紀島那奈にあげた欠片の半分は正喜の机にしまわれて、新しい消しゴムがおろされた。
消しゴムのカタチをした想い出とともに、また暑い夏がやってくる。

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