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物語が作りたいんだ!!コミュのナデシコモヨウ 改稿(後半)

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2部

「最近の忠広には力がないのう。どうしたのじゃ。」
主上が首を傾げながら不思議そうに言った。
「ついこの前には艶っぽくなって、朕は好みであったのだがのう。」
主上はさすがにただの音楽好きではなかった。微妙な忠広の心の動きを演奏から感じ取っていた。
忠広はうつむいたまま主上の言葉を聞いている。
「忠広、どうしたのだ。申してみよ。」
そう沖雅に言われた忠広は下を向いたまま、押し黙っている。
その姿に主上は表情を険しくしていく。それを見た沖雅は慌てて、忠広に話せとせかす。
しかし忠広は意固地になった子供の様にだまっている。
その忠広の態度に何かを察したか、主上は黙って忠広を見つめ、しばらくして何も言わず座を外すと奥の部屋へ歩いていった。
それを見た沖雅は何も言わぬ忠広を睨むと、主上のあとを慌てて追いかけていった。
忠広はそれらを見ることはなく、ただそこに座っているのだった。


忠広はその夜、竹林にいた。
笙を奏でようと何度も試みたが、心にある何かのせいで演奏が出来ない。
演奏しようと笙を口にあて、音を出す。そしてそれも途中で止め、空を見上げる。それを何度も繰り返す。忠広は笙を奏でる事もままならなくなっていった。
すると竹林の奥から狐が現れた。そしていつもの場所まで出てくると、そこに座り込んだ。
「やあ。」
力無い声と表情で狐に話しかける。忠広はいつの間にか狐になんでも話すようになっていた。相手が人ではなく、動物だからだろうか。相手が言葉を解さないと思っているからだろうか。それは話すのではなく、独り言の対象が狐であっただけかもしれない。
そして話はあの行方しれずの娘の話になっていった。
「私はあの日、あの娘を見てから心が霞の様だ。何をやっていても霧の中のようにはっきりしない。だがあの娘だけは一度見ただけというのに、隣にいるように思い出せる。」
そう言う忠広の瞳は悲しく光っていた。その視線は話す狐ではなく、忠広の想い人に向けられていた。
その忠広が話す狐は立ち上がると、ゆっくり竹林の中に消えていった。
「あ・・・。そうかお前も行ってしまうか。」
人には聞こえないほどの声で呟き、竹林をあとにしようと歩を進めた瞬間、何かの気配を感じ竹林の奥の方に視線を送った。
しばらく竹林を覗いていると、奥の方から何者かが現れた。
現れたのは女であった。
その姿をみとめた忠広はあっけにとられ、立ちすくんでいる。
そして我を取り戻した忠広は女の元に走り出した。
女の元まで10歩の所まで来ると
「まって。」
と女が制止した。
「それ以上近づかないでください。」
「なぜだ。」
疑問を投げかける忠広には激しく喜びの感情と、拒絶の様な女の言葉に対して怒りに近い感情が走った。
忠広が感情をぶつける相手はあの日以来、幾度も探したシジミ売りの娘であった。この娘に再び会う事を何度、何日願ったか。そして今、その願いが叶い娘は目の前にいる。すぐに娘と言葉を交わしたい。そしてその手に触れたいと思った。
しかし娘は忠広を拒絶するような言葉を放ったのだ。
「なぜだ。なぜ近づいてはならぬ。」
突然現れ、喜ぶ忠広に拒絶の様な言葉。忠広には訳が分からなかった。
「訳は申せませぬ。ですが貴方の力無く悲しそうな姿を見ていたら、いても立ってもいられなく出て参りました。」
「私の姿を見ていたという事は、私がそなたを何度も捜していたのを知っておるのか。」
「はい。知っておりました。」
「ではなぜ今まで私の前に現れてくれなかったのだ。」
「それも申せませぬ。」
娘の答えは全て申せぬの一点張りで、忠広の投げかけた幾つかの疑問は解かれない。
しかし思い描いた娘が目の前にいる事は確かであったし、何度も捜した報いが叶ったのも確かであった。
「名はなんと言う。これだけは答えてくれまいか。」
忠広はただ一つの願いを望んだ。
「・・・絹江と申します。」
娘は化けた絹江狐であった。
狐はあまりにも力無く落ち込む忠広を見ていられなくなり、忠広が想うシジミ売りの娘に化けて出てきたのだ。しかしこれは絹江にとって、とても危険な行為であった。もし忠広に触れられる事があれば、白狐の罰によって死んでしまう。だが絹江はその危険を冒してもよいと思った。娘を殺した罪への贖罪であったのかもしれない。それ以上に忠広の力無い姿は見ていたくなかった。
落ち込んでいる忠広を励ましたい、との気持ち故に娘に化けて出てきた。そして案の定、忠広は想う人に会えた事で力を取り戻したようであった。
「分かった。もう何も聞くことはしない。しかしまたこの場所で会えないだろうか。」
忠広の願いを絹江はうなづく事で了承すると、今度は忠広に笙を吹く事を願った。
忠広も絹江の願いを叶える為、笙を演奏し始めた。
そして笙の音が竹林に戻った。しかし今までの笙とは少し違った。それは自分の為に演奏するのではなく、絹江の為の演奏であった。
絹江は忠広の笙の音に心をゆだねていた。


絹江に何度か聴かせるようになってから幾日か後、
「今日は先日と違って力強いのう。忠広。」
主上はからかう様な表情で忠広に声をかけた。
確かに忠広の演奏が、先日と違う事が聴くもの全てにはっきり分かる。それに忠広の顔には暗さがない。
「どうした、忠広。恋か」
またも主上はからかう様に聞いてくる。忠広は照れて赤くなった顔を縦に振った。
「そうか。忠広にも恋か。これはめでたい事じゃ。殿上でも男女間の話はよく聞くが、そこには欲や権力の下心があって聞くのも嫌になるし喜べぬ、しかし忠広のような者の恋ならば朕は素直に嬉しい。で、相手はどの様な者じゃ。」
主上は相当嬉しいのか、興味があるのか体を仰け反らして聞いてくる。忠広もこれほど喜んでくれる主上が嬉しらしく、絹江を見初めて再会した経緯を全て話した。
それを人々は好意的に聞いていたが、その中でただ一人たまたま居合わせていた是盛だけは苦々しく聞いていた。


「なにっ。それは本当か。」
是盛が怒りに満ちた顔で問いただしている。
「間違いなき事にございます。」
「沖雅ごときが、この是盛を陥れようとは。思い知らしてくれるわ。」
酒の入った杯を床に叩きつけ割ると立ち上がり、配下の者に指示を出し始めた。
沖雅は殿上の帰り、一人で寄る場所は女人の所などではなく、ある公卿の元であった。そこで是盛の失脚を画策していたのだが、その公卿の元にいる下男がその事を兄に話してしまい、その計画の失敗をおそれる兄が是盛の所にこの事を告げてきたのだ。
そして露見したこの計画の報復に是盛は動き出した。
「まずはあの目障りな楽士を始末してしまえ。なに、主上のお気に入りだとて、どうにかなるわ。それにはまず一人になった時を狙うとして。」
しばらく考えた後、側近の者に耳打ちをした。
「ふふ、沖雅め。覚悟しておけ。」
不敵な笑みを浮かべ、是盛はまた酒を飲み始めた。


その夜もまた、あの竹林で絹江に笙を聴かせている。
笙を吹く忠広、その十歩ほどの先には忠広を見つめる絹江がいる。この空間は忠広が奏でる笙が支配し、そしてこの時間は二人だけのものであった。
それは真実でもあり、しかしそこには大きな壁が隔たっている事も事実であった。人と狐、種族を越えた感情が存在していたが、その事を知るのは絹江だけであり、また絹江にはそれに対しての新たな罪悪感が生まれていた。それどころか忠広の想い人を殺している、自分がここにいてよいのかと絹江は思うが、他に忠広に対する贖罪が思いつく訳でもなく、そしてそれ以上に、忠広に対する想いが絹江をここに立たせていた。
忠広の演奏が終わると、忠広は絹江を見つめる。それには好意の眼差しが。絹江も忠広を見つめる。しかし絹江のそれには悲しみに似た複雑な色があった。
離れた場所でその二人を見つめる男がいた。男は草むらに隠れ、二人の様子を探っている。
男は是盛が忠広を殺す為に放った刺客であった。是盛はあの殿上での忠広の話で忠広がいつもこの竹林にいる事を知り、沖雅への報復として、まずこの忠広に刺客を放ったのだった。
刺客は茂みに隠れしばらく二人を見ていると、辺りを照らす月が雲に隠れ始めた。
夜はさらに闇を深くする。闇は忠広達の視界を狭くし、自由を奪う。
しかし刺客にとってそれは絶好の好機であった。刺客はあらかじめつぶっていた片目を開けると、闇に馴らされていた、その片目は忠広ほど自由を奪われてはいなかった。わずかに宏忠の姿が確認できる。そして刺客は手に持っていた刀を鞘から抜くと、忠広に気づかれぬよう近寄った。
忠広に10歩ほどの場所までいくと、そこから駆け寄り抜き身の刀を一閃した。
十分な手応えがあった。
しかし斬られているのは忠広でなく、絹江であった。
絹江は月が雲に隠れ暗くなり、忠広に近づく刺客を見つけていた。刺客が駆け出すと同時に絹江も忠広に駆け寄ると、忠広の身代わりに刺客の斬撃を浴びていた。
刺客は斬ったのが忠広でなく、違う人間だと分かると二の撃を忠広に与えようと身構えた。その時、遠くの方から騒がしく忠広を呼ぶ声が聞こえてきた。刺客はその声を聞くと悔やんだ顔をしながら闇に消えていった。
忠広はそれの姿を目で追う事なく、絹江を抱きしめていた。
忠広の代わりに斬られた絹江を抱いていた。その目には涙さえ流れ、意識が遠のく絹江に何度も声をかけている。
そして絹江は弱き声で喋り始めた。
「私は、本当はいつも笙を聴かせてもらっていた狐でございます。貴方様の笙を聴くうちにお慕いするようになって、この様に貴方の好いた女人の姿で出て参りました。しかし私は貴方様をお慕いするあまり、貴方様の好いた女人を殺してしまいました。これはその罰に違いありません。もうしわけありません・・・」
自分の事を狐というものは何度も死の淵で忠広に謝っていた。
忠広はその告白にただ絶句し、なにも考えられずただ黙っている。
絹江は死に向かって歩いていく。その歩みは罪に対する罰であった。刺客に浴びた斬撃は重傷であったが、それは決して致命傷ではなく、白狐にかけられた呪いによって忠広に抱かれている絹江を死に向かわせている。遠のく意識の中、その事を察したのか、罪を許された罪人のような笑みをしたように見えた。
人の姿だった絹江はだんだんと狐の姿に変わっていき、それを見た忠広は全てが本当の事だと理解した。忠広は泣く事も怒る事も出来なかった。ただそこで狐の骸を抱きしめたまま、座り込んでいた。
そこへ是盛が刺客を放った事を知った沖雅が配下の者を連れてやってきた。狐の骸を抱いたまま、座り込む忠広を見つけると近寄り、忠広の無事を確認すると配下の者に刺客を捜させるなどしていたが、しばらくして忠広が狐の骸を葬ってくれる様にと言ってきた。
沖雅は不思議がりながらも承諾すると、配下の者に命令し、狐の為に穴を掘り、そこへ狐を埋めた。
それを忠広はじっと無言で見つめていた。
そして無言のまま笙を演奏し始めた。
それは今までになくとても悲しい曲であった。それを聴くもの全てがなぜか涙を流していた。
演奏し終わると忠広は振り返ることなく、竹林を立ち去った。
そしてこれの演奏が、この竹林で演奏する最後の曲であった。


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後日談
是盛との権力争いに敗れた沖雅は都を離れ、自分の領地に帰ります。忠広も沖雅に従って、都を離れる事になり、2度と都の土を踏む事はなく絹江狐の事を誰にも話す事なく、沖雅の領地で一生を終えます。
そんなお話。

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