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2024年03月31日07:26

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イタリア暮らし[読書日記980]

題名:イタリア暮らし
著者:内田 洋子(うちだ・ようこ)
出版:文春文庫
価格:790円+税(2020年12月 第1刷)
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イタリア在住のジャーナリスト・作家:内田洋子さんのエッセイを読みました。

帯の惹句を引用します。
“どこに住んでも、人の息づかいは温かかった。
 ミラノを走り、ヴェネツィアに漂う。
 リグリアの風に吹かれ、島々を巡る。”
著者はミラノではミラノ郊外に住み、ヴェネツィアではサン・マルコ広場を対岸に見るジュデッカ島に住んでいたそうです。

目次は次のとおりです。
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 第1章 海の向こうで見つけたもの
 第2章 独りにつき添うラジオ
 第3章 思いもかけないヴェネツィアが
 あとがきに代えて

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印象に残った文章を引用します。

【第1章 海の向こうで見つけたもの】《海》から、明治時代のジェノバの銅版画家の話。
“初めてジェノバに行ったのは、葛飾北斎の展覧会を市内の美術館で観るためだった。何もイタリアでわざわざ北斎を観にいくこともないだろう、と少し斜に構えていた。観て、仰天した。
 美術館は「キオッソーネ東洋美術館」の呼称を持つ。キオッソーネ家はジェノバで代々、製版と印刷を生業としてきた。その家に生まれたエアドルドは銅版画を勉強したあと紙幣造りを望んで、イタリア国立銀行に入行する。たちまち天才銅版画家として名を馳せた。日本の紙幣を造っていたドイツやイギリスの印刷所で働いていたところ、日本の大蔵省紙幣寮に来ないか、と大隈重信から招聘される。(略)
 ジェノバの銅版画家により、日本の初期の紙幣と切手は生み出されたのである。”(12p)
 ⇒美術に詳しいつもりでしたが、このことは全く知りませんでした。

【第2章 独りにつき添うラジオ】《映画》から、イタリアの貴族制度の話。
“1948年にイタリアの貴族制度は廃止され、表向きには荘園は国有化され貴族の称号も消え、特権もなくなったことにはなっているが、実質的には何ら変わることなく現在に至っている。古くから土地に深く染み込む領主への畏れと忠誠心は守られて、次の世代へと引き継がれていく。大地は、自分たちが生きてきた過去から未来への記録だ。土地を見放せば、自分を見失うことになる。”(69p)
 ⇒1948年(昭和23年)に貴族制度廃止、ということは、つい一世代のことですね。

【第3章 思いもかけないヴェネツィアが】《間違いのない味》から、遺伝子組み換え農作物について。
“遺伝子組み換え農作物や農薬多用化について、イタリアはどの欧州他国よりも先んじて、
「絶対に認めない」
と、宣言してきた。有機農業組合の事情通にその理由を尋ねたら、
「遺伝子組み換えで大量生産して飢餓や貧困を救おうだなんて、欲を偽善で覆った傲慢な話だ。人類と地球に無害かどうか、たかだか数十年の実験結果でわかる? 発明したのは、人間でしょう? 人間は間違える生き物です」
きっぱり言った。”(136p)
 ⇒私も遺伝子組み換え農作物を作り出す(すでに作っているそうですが)ことに反対です。

【第3章 思いもかけないヴェネツィアが】《結婚の季節》から、イタリア南部での〈家族〉の重さについて。
“(イタリア北部の個人主義に対し)一方、南部のキーワードは〈家族〉だ。物事すべての尺度になっている。人生の土台である。家族を持つための結婚なのだ。慎重に交際を続け、いよいよ見極めれば、「正式な相手となりました」と、あらたまって婚約から披露するところもある。
 家と家が向き合う。
 両家の反りが合うかどうかは重大事である。人柄はもちろんのこと、社会的階級や経済力、宗教、ときには政治傾向など、お互いに念入りに検証する。”(172p)
 ⇒個人同士の付き合いから始まった結婚が「両家の付き合い」にならざるを得ないのは日本も同じだと思いますが、イタリア南部では日本より面倒くさいようですね。

著者は、自身が勤める通信社から発信するネタを得るため、街のバール(軽食喫茶店、酒場)で行き交う人たちの会話に耳を澄ませて食事を取っていたこともあるようです。
イタリアに何十年も暮らしていたからこそ書けるエッセイでした。

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内田 洋子(うちだ・ようこ)
1959年、兵庫県神戸市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒業。通信社ウーノアソシエイツ代表。欧州と日本間でマスメディア向けて情報を配信。2011年、『ジーノの家 イタリア10景』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
他の著書に、『カテリーナの旅支度 イタリア二十の追想』『どうしようもないのに、好き イタリア15の恋愛物語』『対岸のヴェネツィア』(集英社文庫)、『ミラノの太陽、シチリアの月』『ボローニャの吐息』『海をゆくイタリア』(‎小学館文庫)、『皿の中に、イタリア』(講談社文庫)、『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(文春文庫)、『デカメロン2020』(方丈社)など多数。
訳書に『パパの電話を待ちながら』『緑の髪のパオリーノ』『キーウの月』(ジャンニ・ロダーリ著 講談社)など。2019年、ウンベルト・アニェッリ記念 最優秀ジャーナリスト賞を、2020年、イタリアの書店員が選ぶ文学賞、第68回露天商賞授賞式にて、外国人として初めて〈金の籠賞(GERLA D'ORO)〉を受賞。
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