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2023年10月29日13:47

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10月25日 第628回 三越落語会

 寄席と地域寄席、若手の会を覗くばかりだと、年に一度はザッツホール落語!も見たくなる。というわけで久しぶりに三越落語会。同時期に700回を迎える新宿・紀伊国屋寄席同様、これぞ東京のホール落語という間違いのない顔ぶれがならぶ会である。その三越落語会が1953年に始まって70年、三越が創業350周年という切りの良い年が重なり、今回は記念の会として豪華な出演陣が揃った。

 いろいろ仕事を片づけてから夕方5時半に三越前到着。入場すると前座・いっ休が「まぬけ泥」の真っ最中。来月には美馬、左ん坊と共に二つ目昇進が決まっている。

●べ瓶「明石飛脚」
 鶴瓶門下で活動拠点は東京。ユーチューブで達者な喋りを目にするので知った気になっていたが、生でこの人の落語を聞くのは初めて。後に出た萬橘が「べ瓶兄さん」と云ったので、この人の方が入門が早かったことを知る。大阪から明石へ急ぎの手紙を届けてくれと頼まれた男、「大阪から明石は十五里」という言葉だけを念じて走り続けるが、なかなか辿り着けない。やっとのことで手紙を届け、帰りは近道で帰ろうと山道を進んでいくとそのままウワバミの腹の中に飛び込んでしまい・・・という上方らしいはめものの旅噺。途中展開に応じて噺を切るので、客が拍手すると「まだ終わってません〜」。これが二度続いたので、ホントのサゲで演者が頭を深々と下げるまで、疑心暗鬼のパラパラ拍手。その後は盛大な拍手で送られたが、なかなか客あしらいも上手い。

●萬橘「風呂敷」
 べ瓶を「アニさん」と呼ぶが年齢は萬橘の方が3歳上。べ瓶が実年齢より若く見えるのもあるが、この人はかなり老けて見える。マクラで北海道の動物園で目にした母娘の会話と、自分の奥さんのエピソードなどから「女は怖い」と繋げて「風呂敷」へ。最初は兄さんに「(押入れの若い男とは)お茶を飲んでいただけ」と云いながら、どうも自分から男を引き入れたのはこれが初めてじゃない、お茶より先に進もうとしたらだんなが帰って来た・・・と匂わせる女。男の方も風呂敷で覆われて話の次第を聞いている間抜けなだんなの態だが、「後で俺から云って聞かせるヨ」と、実は女房の浮気を承知の上という、とんだ夫婦のプレイ?な展開に、隣の席で見ていたいかにも三越常連っぽい老齢ご夫婦の奥様が「これ私の知ってるお話と違うわ」。それを聞いたご主人「そうなんだよ、この人ね、話をいっつも好きに変えちゃうんだよ」。このお二人に押入れを開けたら亀甲縛りにされた裸の男が出てくる笑二版「風呂敷」を聞かせたくなった。

●三三「元犬」
 軽い噺を持ってきたが、随所に三三らしい仕掛けあり。上総屋からご隠居のところへ連れられてきたタダシロウ、「母さん(犬)もサシの一本もない真っ白な犬だった」という自己紹介が挟まるとは思っていたが、ほいろから吠えろの件になると、ご隠居から呼ばれたおもとさんも一緒に「ウーッ、ワンワン!」。「もと、もとまでどうしたんだ!」と狼狽するご隠居に、シロが「あ、おっかさんだ」。もとも元は犬・・・という改変サゲ。

<中入り>

●遊雀「電話の遊び」
 後に長講が控えているのでマクラもなしに「あたくしのほうは珍しいお噺で」といつもの流れ。旦那贔屓の芸者の名前は「千秋」で、本日の下座さんをそのまま。最初の番頭の電話では「今日は三越劇場に行っていて」留守だった。前の演者の落語を擦るのもいつも通りで、こういう遊びがあると一気に「寄席っぽく」なりますね。トリの志の輔も「ああいう噺は初めて聞きました」と面白がっていた。

●志の輔「徂徠豆腐」
 過去のネタ帳を振り返っても演じられていないので、この演目になったそうだが、志の輔をよく聞く人なら割と出会う噺ではあるまいか。もう10年ぶりに聞く自分でも、これが3回めと記憶している。とはいえ個人的には志の輔の落語で一番思い出深い噺でもある。
 昔の職場に志の輔好きな人がいて、東邦生命ホールで催されていた独演会によく誘われて足を運んだ。志の輔の落語は当時から現代的センスの中にも庶民感覚と人生訓という絶妙なバランスで面白くはあったが、自分から追いかけて見に行くほどには入れ込めず、職場を離れると誘われることもなくなり、また次第にチケットの入手困難に拍車がかかり・・・で、長らく足が遠のいていた。
 そんなとき、病気でふさぎがちだった母親が「落語が聞きたい」というので、姉と自分で付き添って志の輔の会へ。その時の演目が「徂徠豆腐」だった。自分は過去に聞いたしと斜に構え、姉に至っては「ガッテンの人」程度の認識。ところが噺の終盤、豆腐屋・上総屋七兵衛に荻生徂徠が感謝を伝える件、姉がやたらと隣席を気にするのでそちらを見遣ると、眼と鼻からあふれ出る涙と鼻水をハンカチで必死に押さえながら、小刻みに肩を震わせている母親がいた。姉も自分も親が滂沱の涙を流す場面に、人生で初めて遭遇したのだった。
 その後母は入院したまま施設に移り、家に戻ることなく亡くなるのだが、面会に行くと折に触れて「あの落語はすごく良かった」と繰り返していた。凡その記憶は曖昧になっていく中、落語を聞いた思い出だけは残っていた・・・のだろうか。以来志の輔以外の演者で聞いても、講談で聞いても、ましてや志の輔が演じれば尚更、自分にとっては母親のことが思い出される噺となってしまった。ところでウィキペディアで見ていたら、「人生には三つの坂がある。上り坂、下り坂、そしてまさか」という詞は「徂徠豆腐」から取られたものだと書かれていたが、講談の方なのか、まったく記憶にない。水谷千重子?演じる時の友近のギャグだと思っていたわ!
  

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