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2022年11月06日10:05

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あなたは、誰かの大切な人[読書日記907]

題名:あなたは、誰かの大切な人
著者:原田 マハ(はらだ・まは)
出版:講談社文庫
価格:580円+税(2020年1月 第18刷)
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原田マハさんの短編集を読みました。

裏表紙の言葉を引用します。
“勤務先の美術館に宅配便が届く。差出人は
 ひと月前、孤独のうちに他界した父。
 つまらない人間と妻には疎まれても、娘の
 進路を密かに理解していた父の最後のメッ
 セージとは……(「無用の人」)。
 歳を重ねて寂しさと不安を感じる独身女性
 が、かけがえのない人に気が付いたときの
 温かい気持ちを描く珠玉の六編”

目次は次の通りです。
 最後の伝言 Save the Last Dance for Me
 月夜のアボカド A Gift from Ester´s Kitchen
 無用の人 Birthday Surprise
 緑陰のマナ Manna in the Green Shadow
 波打ち際のふたり A Day on the Spring Beach
 皿の上の孤独 Barragan´s Solitude

六編のうち、海外が舞台になっているものが三編と、キュレーターとして外国でも活躍された著者の経験が活かされています。

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印象に残った文章を3つ引用しましょう。

【月夜のアボカド A Gift from Ester´s Kitchen】から。
“初めてエスターと会ったのは、十年まえのことだ。
 その頃、私は、新聞社系列の展覧会の制作会社に勤務していた。美術系の大学を卒業したわけではなかったが、帰国子女だったので、語学を活かせる仕事をしたかった。海外の美術館やコレクターと交渉し、巡回展を引っ張ってくるというのが業務だった。
 アマンダは、非常にやりやすい交渉相手だった。向こうは展覧会を日本に巡回させたがっているし、こちらは海外から巡回展を引っ張りたい。利害が一致していた。LACMAとの共同プロジェクトがあったために、私は、しょっちゅうロサンゼルスを訪問することになった。”(49p)
 ⇒短い文章で主人公の経歴や、物語の登場人物が手際よく紹介されていますね。

【緑陰のマナ Manna in the Green Shadow】から。
“そんなわけで、トルコ初訪問は、息をつく暇もないほど濃密な、かつ有意義なものとなった。初めて触れるイスラム文化、建築、芸術、すべてがすばらしかった。何よりすばらしかったのは、イスラム教徒の寛容さ、親切さだった。
 ムスリムといえば、一部の過激な人たちの行動が、どうしたってマスコミにとりあげられてしまう。どちらかといえば非寛容で、自分たちの宗教以外には目もくれない人々なのではないか、と歪んだイメージを持っていた。それが、9・11以降ムスリムによるテロを警戒する欧米メディアによるイメージ操作であったのだと、気づいた。”(113p)
 ⇒私も“ムスリムによるテロを警戒する欧米メディアによるイメージ操作”を受けていることに気づきました。

【皿の上の孤独 Barragan´s Solitude】から。
“そんなわけで、私は、これ以上ないと思われる案内役とともに、憧れの建築家、ルイス・バラカンが、その生涯の半分である四十年間を過ごし、その一室で息を引き取ったという彼の自邸を訪れることができた。
 メキシコが誇る二十世紀建築界の巨匠、バラカンの自邸は、世界遺産にも登録されている。メキシコシティの中心部、なんの変哲もない住宅街の中に、あっさりとした四角いコンクリートの箱が建っている。(略)
 外観は、これといって驚きがない。きわめてシンプルな箱。けれど、中に入ると印象は一変した。
 黄色、ピンク、白、日本人の建築家だったら絶対に使わないような配色で、壁の色を際立たせ、空間にリズムをもたらしている。派手な色なのに、どこまでも上品だ。”(188p)
 ⇒ルイス・バラカン邸の写真はWEBでも見られるので、ぜひ、検索してみてください。

主人公が、みな女性なので感情移入しにくい所もありましたが、彼女たちの年齢が40代〜50代なので、年代的な心情に共感することができました。
構成が一番上手いと思ったのは、6話の「皿の上の孤独 Barragan´s Solitude」でした。
メキシコを代表する建築家ルイス・バラガン邸を訪れた主人公が、かつてのビジネスパートナーに想いを馳せる内容で、邸宅の描写と回想シーンが無理なくつながっていました。

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原田マハ(はらだ・まは)
1962年、東京都生まれ。
関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史科卒業。
伊藤忠商事、森美術館設立準備室ニューヨーク近代美術館に勤務後、2002年にフリーのキュレーターとして独立。'03年にカルチャーライターとして執筆活躍を開始し、'05年に『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞。'12年『楽園のカンヴァス』(新潮社)で山本周五郎賞受賞。芸術に関する描写力と情熱、ミステリーとしての魅力が高く評価された。
著書に『夏を喪くす』『風のマジム』『太陽の棘』『本日は、お日柄もよく』『暗幕のゲルニカ』『サロメ』などがある。

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