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2022年09月13日19:15

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小さな奇跡のヒント

数年前まで私は、小学生の子供たちを放課後預かる学童保育の仕事をしていた。基本的に運動会のある日は学童は休みである。でも毎年子供たちが活躍する運動会を見るのは楽しみで、保護者と一緒になって子供たちの応援に駆けつけていた。
 翌年で定年退職する年の最後の運動会でのことだった。1年生の子たちが運動会で一生懸命走ってる姿を見て急に涙が溢れた。
幼い子たちはただそこに存在するだけで、老いていく人間に何かを与えてくれるが、一生懸命な姿というのは生のエネルギーみたいなものが電磁波のように放出されて、それが伝わってくるのだろうか。
年寄りにとっては子供たちのエネルギーはカンフル剤だ。
熱いモノが込み上げてくるのはその成果なのかもしれない。
定年後、数年経ってさらに老いた今の私は炎天下の甲子園で、高校球児が活躍する姿を見ても心を揺さぶられようになった。10代の子達の一生懸命な姿にも私は涙ぐむほど感動している。自分の青春時代ははるかに遠い昔のことだとはいえ、お粗末な思い出だけははっきりと覚えている。それだけに彼らが流す「正しい青春」の汗が眩しく、感動するのだろう。
冬の寒い時だった。いつも行くスーパーの出入り口で、買い物用のカートの整理していたパートの女性に「いらっしゃいませ!」と元気よく明るい声で言われた。見ると彼女は半袖だった。この寒い中で!
 私は思わず声をかけた。
「寒くはないんですか?」
 彼女は笑顔で答えた。
「はい」
 決して無理に作った笑顔ではなかった。寒くないわけはない。でもそれを感じないまでに体を動かしているという事だろう。彼女から仕事に対する一生懸命さや責任感や真摯な姿勢を感じた私は思い切って言った。
「あなたのその笑顔と元気のいい声、とても素敵ですね。おかげで元気をもらえました。ありがとう」
すると一段と嬉しそうな笑顔を向けて彼女も「ありがとうございます」と言ってくれた。
 何に対しても一生懸命な姿は幾つだろうとやはり人を感動させられるのだ。
 感動は愛だ。勇気を出して彼女に声をかけて良かった。言葉にして良かった。それが彼女以上に私は嬉しかった。
 それから半年くらい経った頃だろうか。
通っているプールの駐車場にいつものように「こんにちは」と言いながら自転車を止めようとした時だった。車の誘導や、駐輪している自転車をきちんと整理する仕事を定年後の仕事にされていると思しき男性に言われた。
「いつも元気だね!」と。
 そして彼は続けた。
「それにいつもニコニコしてて、気持ちいいよ!」
 
 もう20年以上前になるが「ペイ・フォワード」と言う映画があった。
「世界を変えようと思ったら何をすればいいと思うか?」
 そんな社会科の先生の問いかけに、中学1年の主人公の男の子は考え込む。そしてあることを思いつく。
 それは他人から受けた厚意や親切をその人にだけ返すのではなく、別の3人にも返していく…ということだった。善意の3倍返しだ。
 ところがそれはほんのちょっと勇気を出せば誰もがすぐできる簡単なことなのに、母親をはじめ大人たちはなかなかそれができない。(私もパートの女性に声をかけるのに勇気が必要だった)
 けれどやがて少年の思いと行動は心に傷を負った大人たちの心を癒していき、本当に世界を変えることができるかもしれないと思えるようになるが…

 そういうハートフルでヒューマンタッチの物語だという事はあらすじを読んで知っていたが、私は映画は見ていなかった。当時の私は少年のその思いつきは印象に残ったものの、そんな御伽噺のような奇跡なんて子供向けの映画だと思ったし、映画を見る時間もなかったからだ。けれど駐車場の男性に言われたことは私がスーパーのパートの女性に言ったことから始まった3倍返しの厚意や、親切の「ペイフォワード」だったのでは?そしてそれが、私のとこにまで届いたのでは?
 そう思えなくはない出来事だったために、私はそれが小さな奇跡に思えたし、そう思いたかった。
そう思った方が幸せの余韻に長く浸れた。
 老いていいことがあるとしたら、誰もが願う幸せがとてもささやかなことだと気づけるようになることだ。
幸せの本質に気づく事。
長生きの価値はきっとそこにある。
そう思った。
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