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2022年06月01日08:26

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エニグマの月

 今日から6月。早いもので、今月が終わると、1年のほぼ半分が終わったことになりますが、なんでこんなに月日が経つのが早いのか謎です。だからというわけでもないのでしょうが、今月は謎、すなわちエニグマと縁のある月です。

 
 まず、164年前の6月2日に生まれたイギリス人作曲家のエドワード・エルガー(「威風堂々」や「愛のあいさつ」で有名)の作品の一つにエニグマ変奏曲というのがあります。
https://www.youtube.com/watch?v=vLNLvcBmoqo

 この曲は、123年前の6月19日、ロンドンで初演されました。エルガーの出世作と云われています。
 なぜ、この曲がエニグマ(謎)と呼ばれているかというと、14変奏まである各変奏の楽譜に付けられたイニシャルや略称などが当初は不明だったからです。が、これは今日では該当人物がほぼ特定されていて、謎解きはほぼ完了していると云われています。

第1変奏:C.A.E.=Caroline Alice Elgar(作曲者の妻)
第2変奏:H.D.S-P.=Hew David Stuart-Powell(ピアニスト)
第3変奏:R.B.T.=Richard Baxter Townsend(アマチュアの俳優・パントマイマー)
第4変奏:W.M.B.=William Meath Baker(地主。ストークオントレントの開基に寄与)
第5変奏:R.P.A.=Richard P. Arnold(大詩人マシュー・アーノルドの息子)
第6変奏:Ysobel=ヴィオラの愛弟子イザベル・フィットンに付けた愛称
第7変奏:Troyte=Arthur Troyte Griffiths(建築家。ピアノを弾こうと頑張った)
第8変装:W.N.=Winifred Norbury(作曲者からのんびり屋とみなされていた人物)
第9変奏:Nimrod=August Jaeger(楽譜出版社に勤務したドイツ人)の愛称※1
第10変奏:Dorabella=Dora Pennyの愛称(William M.Baker(第4変奏)の義理の姪で、Richard B. Townsend(第3変奏)の義理の姉妹)
第11変奏:G.R.S.=George Robertson Sinclair(ヘレフォード大聖堂のオルガニスト)
※この変奏で描かれているのは、シンクレアの飼い犬ダン
第12変奏:B.G.N.=Basil G. Nevinson(当時の著名なチェリスト)
第13変奏:* * *=人物を特定することは困難で、今なお真相は解明されていない。※2
第14変奏:E.D.U.=作曲者本人(妻からは「エデュー」の愛称で呼ばれていた)

※1 ドイツ語の “イェーガー” (Jäger)は「狩人」や「狙撃手」に通じ、このことは旧約聖書に登場する狩の名手「ニムロデ」を連想させるのでその愛称「ニムロッド」が付された。
※2 メンデルスゾーンの演奏会用序曲『静かな海と楽しい航海』からの引用楽句が含まれることから、当時オーストラリア大陸に向けて旅立ったレディ・メアリー・ライゴン(Lady Mary Lygon)か、作曲者のかつての婚約者で、1884年にニュージーランドに移民したヘレン・ウィーヴァー(Helen Weaver)のいずれかではないかと推測されている。

 このように、各変奏は親しい友人たちへの真心のこもった肖像画となっており、この変奏曲は「作品中に描かれた友人たち」に献呈されています。


 もっとも、エニグマといえば、第二次世界大戦でナチス・ドイツが用いたローター式暗号機を指すことの方が多いです。
 こちらのエニグマについては、発明者(アルトゥール・シェルビウス)よりも、解読不可能とまで云われたその暗号を解読した天才数学者アラン・チューリングの方がはるかに有名ですが、彼は110年前の6月23日に生まれ、68年前の6月7日に絶命しています。
 エニグマ及びチューリングについては、私の下手な説明より、こちらの動画を見ていただいた方が早いし分かりやすいことでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=YVc-pezq2AY

https://www.youtube.com/watch?v=xZgqsCH7Cs0

 動画には「暗号解読成功の事実はナチスに悟られないよう、英軍内部ですら上層部のみが知る極秘事項だった。」との一文がさりげなく出てきますが、その意味するところを具体的に探っていくと、イギリスが非常に厳しい命の選別に迫られていたことが分かってきます。  
 イギリスは、エニグマの解読結果を必ずしも全部は利用しませんでした。これは敵に対する情けとか、チューリングを信じなかったからというわけではありません。暗号解読の結果に基づいて、ドイツ軍の攻撃を悉く失敗に終わらせるようなことをすれば、ドイツ軍もバカじゃないので暗号が解読されたことを察知し、暗号機の設定を変えるか、暗号機を根本的に変えるかしてしまうことが容易に予想されたからです。そうなれば、またゼロから暗号解読に挑まなければならず、再び多くの犠牲者が出ると考えたイギリスは、いまだ暗号が解読できていないフリをするために、解読結果の一部は利用しなかった=自国民がドイツ軍に攻撃されることが分かっていながら敢えて見殺しにせざるを得なかったということです。
 イギリスは、暗号解読の結果はここ一番という必要最小限の大切な局面での利用(統計学的に許さる範囲)にとどめ、その一つが78年前の6月6日に決行されたノルマンディー上陸作戦でした。
 こうした事情は、動画にも出てきた映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 The Imitation Game」(2014)にも出てきます(史実ですので映画のネタバレにはぎりぎり当たらないでしょう)。
https://www.youtube.com/watch?v=Lzd7MAd0J5A

 なお、この映画が製作・公開されたのが2014年だったのは、2013年12月24日にエリザベス2世女王の名をもって正式にチューリングに対する恩赦が発効したことが大きかったと思われます。一面では国家の英雄ではありながら、他面では性犯罪の犯人である自殺?者をそのまま描くという問題の障壁は高かったと見えます。
 同性愛を犯罪とする法律はなんと2000年になるまで撤廃されず、撤廃されても、さらに国家元首の正式の言葉がなければ映画化に踏み切れなかったことを、この2014年という製作・公開年は物語っているといえるでしょう。

 最近の暗号事情がどうなっているのかは分かりませんが、今、戦争状態にあるウクライナでも、こうした非常に厳しい命の選別をしなければならない立場に置かれている人たちがいるのではないかと思われます。一刻も早く戦争状態を終結させなければなりません。
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