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2022年02月05日19:01

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苦役列車

西村賢太が芥川賞を受賞したときのことはよく覚えている。いかにもブルーカラー風情の無骨な風貌。いまどき学歴や肩書がない異色の芥川賞作家がよく出てきたなと感じたから。

『苦役列車』
著者の自画像のような作品。屈折した青春を屈折したまま表現する。
まとわりつくような文体。諦めようとしながら諦めることもできぬ何か。健康な身体が、体内に溜まった澱みを放出する。底辺を這いずり回りながら自堕落になりつつも、お金がなければ生きて行くことができないという現実から逃げられぬ貫多。酒の力を借りて、やっと言いたいことが言えるが、暴走して相手を傷つけずにはいられない嫌な性格。
誰にも頼ることなく一人でさみしく生きようとする。友達も恋人もいない孤独な青年。
そんな時に、友達と言える日下部がやってきた。仲良くなるが、沈殿部分と上澄みの世界は違う。沈殿部分で、上澄みの液につっかかるが、所詮沈殿部分で生きて行くしかない。
友人を見る目は、常に自分と比較するものがあり、それが嫉妬となり怒りとなる。
したたかとも言えず、たくましいとも言えぬ。下層階級の意地も見えずに、ひたすら生きる。列車のように走り続ける。とにかく今日を生きるだけ。どんよりとした目で俯き加減に歩いている。寒々とした風景の中で、とぼとぼと・・。

父親は、小さな運送会社を経営していたが、強盗強姦事件で逮捕される。そのことを中学の時に知り、不登校になる。自分には親父の血が流れているとさえ思ってしまう。自堕落を重ねながら、それでも小説にはこだわって本を書き芥川賞をとる。芥川賞受賞会見の際に「そろそろ風俗でも行こうかな」と語って話題になった。芥川賞をとっても風俗から逃れられぬ人生。風俗依存症で消費経済のただなかで漂流をつづける。

作業ズボンの尻ポケットに入った本だけが希望だった青年。
彼を選んだ芥川賞は結局話題作りだったのだろうか。あれから10年か。
西村が傾倒する大正期の小説家、藤澤清造の命日(1/29)から数日のことだった。

『苦役列車』以降の小説は読んでいない。読むとしんどくなるから。

彼に何があったのかわからないが、コロナ第6波の渦中(全国で感染者10万人超える)、ワーキングプアを描き続けた彼の早すぎる死はなんだか象徴的。  合掌。

芥川賞作家の西村賢太さん死去 54歳 11年に「苦役列車」で受賞
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=8&from=diary&id=6839908




悲惨なのに愛くるしい 西村賢太「羅針盤は壊れても」
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/feature/20191123-OYT8T50106/

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