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2021年09月12日14:33

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主権者のいない国[読書日記847]

題名:主権者のいない国
著者:白井 聡(しらい・さとし)
出版:講談社
価格:1,700円+税(2021年4月 第2刷)
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マイミクさんお薦めの白井聡さんの評論です。
白井聡さんの著作は『永続敗戦論』『国体論 菊と星条旗』『日本戦後史論』(内田樹さんとの共著)などを読んだことがありますが、いずれも筆鋒鋭い内容でした。

表紙裏の惹句を引用しましょう。
“「統治の崩壊」にまで陥った日本の政治、
 そしてそれを必然化した日本社会のありかた――
 悲惨な政治を支えてきた基盤は、結局のところ現代日本社会
 それ自体の悲惨さであり、日本人自身の悲惨さである”

目次は次の通りです。

 序 章 未来のために想起せよ
 第一章 「戦後の国体」は新型コロナに出会った
 第二章 現代の構造――新自由主義と反知性主義
 第三章 新・国体論
 第四章 沖縄からの問い 朝鮮半島への想像力
 第五章 歴史のなかの人間
 終 章 なぜ私たちは主権者であろうとしないのか

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印象に残った文章を引用します。

【序 章 未来のために想起せよ】《3・11の反復としての新型コロナ危機》から。
“そして、まさにそのような「場合」にいま私たちは立ち会っている。言うまでもなく、新型コロナウィルスによる危機のことである。
 この一年間展開してきた光景は、一〇年前の光景の再上演のようなものだ。
 すべてが後手後手であり遅い。根拠なき楽観主義による事態の過小評価。政治に忖度する専門家という御用学者。懸命に踏ん張る現場と無能な司令官。「新型コロナウィルス感染症を克服した証しとしての東京五輪開催」(菅義偉首相)とやらは、福島第一原発の事後後に原子力ムラがぶち上げた「世界一安全な日本の原発」を世界中に輸出するという空理空論の反復である”(10p)

【第一章 「戦後の国体」は新型コロナに出会った】《日本の統治システムは崩壊した》から。
“(イギリスで発生した新型コロナの変異ウィルスから日本を守る水際対策が間違った理由が)どちらが真実であるにせよ、日本の統治システムは崩壊していると判定せざるを得ない。ここに至るまでの間、新型コロナ専門病院をつくらなければならない、PCR検査を増やすための抜本的な方策をとらなければならない、と繰り返し指摘されてきた課題はほとんど果たされず、陽性率算出の全国的な統一基準もいまだ存在しないので、まともな統計すら出せない”(45p)

【第二章 現代の構造――新自由主義と反知性主義】《三 社会の消滅について》
“(「社会は存在しなくなった」と考える理由を)身近なところから挙げるならば、私が大学で教育活動に従事する中で膨らんできた違和感だ。
 私は基本的に社会科学を教えており、したがって、学生には何らかの社会問題の発見から社会科学的発想や知識の必要性・有効性を認識することへと進み、そこから主体的な学びへと進んで行けるように誘導することが基本的な仕事である、と考えてきた。
 だが、数年前から、こうした「基本路線」がまるで通用しない若者たちが現れ、それが増加し続けている、と感じられる。
 どこで躓(つまづ)くのかというと、最初の「社会問題の発見」のところでどうにもならなくなるのである。例えば、「学びのきっかけとして、自分が気になる社会問題を挙げて簡単にプレゼンテーションしなさい」というような課題を出すと、本当に何も考えられない(思いつかない)という若者が続出する”(94p)

【第三章 新・国体論】から、平成末期は「末法の世」ではないかという著者の嘆き。
“実に、安倍政権が君臨してきた平成末期は、戦後レジームの全般的な危機が表面化した時代となった。低次元のスキャンダルにまみれ、議会政治の最低限のルールをも守ろうとしない政権と、それに立ち向かうこともできないメディア。そしてこの状況を終わらようという意志を持たない、無知、無気力、無関心、奴隷根性の泥沼に落ち込んだ群衆。「末法の世」とはこういうものかと実感する。
 平成を、後代の日本人(存在し続けると仮定するならば)は、途方もなく馬鹿げた時代だったと見なすであろう”(155p)

【第四章 沖縄からの問い 朝鮮半島への想像力】《二 追悼・翁長雄志沖縄県知事》から、翁長知事の言葉。
“このように状況が過酷であるからこそ、翁長知事の言葉は、本質をうがった、闇を切り裂く光となった。
「米軍に関する事件事故が相次いでいても、日本政府も米軍も無関心なままでいる。日本政府はアメリカに必要以上に寄り添う中で、ひとつひとつの事柄に異を唱えるということができていない」、「日本政府には(米軍基地が引き起こす問題を解決する)当事者能力がない」(2017年12月)。
「安倍総理が『日本を取り戻す』というふうに、二期目の安倍政権からおっしゃってましたけど、私からすると、日本を取り戻す『日本』の中に、沖縄は入ってるんだろうかなというのが、率直な疑問です」、「『戦後レジームからの脱却』ということもよくおっしゃいますけど、沖縄では戦後レジームの死守をしている」(2015年4月)”(220p)

【第五章 歴史のなかの人間】《二 中曾根康弘の逡巡》から、中曾根康弘元首相の岸信介に対する思い。
“岸信介が東条内閣の一員として対英米開戦を命じたとき、中曽根は一介の中尉として軍艦に乗り込んでいたのであった。
 中曽根の回顧録を読むと、先行世代の親米保守派の戦争責任問題について、中曽根が割り切れない感情を持っていたことがわかる。とりわけ、岸信介が巣鴨プリズンから釈放された後、早々に復権してきたことに対しては相当の反感を懐いていたことが窺われる。
そして、この感情は、とどのつまりは昭和天皇の戦争責任の追及につながる。その発露が、1952年の国会における事実上の退位勧奨発言だった”(279p)

結びとして、【終章 なぜ私たちは主権者であろうとしないのか】からも紹介します。
“内政外政ともに数々の困難が立ちはだかるいま、私たちに欠けているのは、それらを乗り越える知恵なのではなく、それらを自らに引き受けようとする精神態度である”(317p)
耳の痛い指摘ですが、まったくそのとおりだと思いました。
私は印象に残った文章に付箋紙を付けて読んでいきますが、付箋紙でいっぱいになった力作でした。

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白井 聡(しらい・さとし)
思想史家。政治学者。京都精華大学教員。
1977年、東京都に生まれる。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。
『永続敗戦論―戦後日本の核心』(太田出版)により、第三五回石橋湛山賞、第一二回角川財団学芸賞などを受賞。
その他の著書に『未完のレーニン−<力>の思想を読む』(講談社選書メチエ)、『国体論――菊と星条旗』(集英社新書)、『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)などがある。

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