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2021年07月02日07:26

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『 クワイエット・プレイス 破られた沈黙 』

事が思いのほか捗ったので、映画のハシゴをして来た。一本目が『 Mr.ノーボディ 』、二本目が『 クワイエット・プレイス 破られた沈黙 』である。一作目を劇場で観た時は続編が製作されるとは思ってもいなかったし(それだけ、痛快で綺麗なラストカットだった)、続編ができたと知った後でも前作のラストカットから、まさか、そのまま繋がる物語であったとは想像もしなかった。子どもの成長は早い。物語に重要な役割を果たす子役が登場する場合、ハリー・ポッターシリーズのように「 前作から数年後 」という設定を選択するのが普通だからだ。あまりに見事に前作のラストカットから繋がっているため、実は前作と本作を同時に撮影しており、便宜上、前後編に分割したかのように感じてしまった。もちろん、子役は成長しており、実際には身体は大きくなって、表情も変化しているだが、全く違和感を覚えない。

 また、ヒットした映画の続編は制作費が倍増された結果、スケールは大きく、アクションがド派手になった分、中身が大味になるという傾向があるのだが、『 クワイエット・プレイス 破られた沈黙 』はその轍を踏んでいない。アボット一家の逃避行に絞り込み、徹底的に登場人物を減らして閉塞感、緊張感を高めた前作から、舞台をはるかに広くしつつも、巧みに世界観を維持している。一作目から続投しているジョン・クラシンスキーの脚本の冴え、演出の妙ゆえだろう。前作に勝るとも劣らない、素晴らしいサスペンスホラー映画に仕上がっている。

 この先、ネタバレを含むので、未見の方はご注意。なお、ご興味のある方は一作目『 クワイエット・プレイス 』鑑賞日記をご笑覧願いたい。
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 前作を観ていない観客のために「Day 1」から物語が始まったのは実に親切な構成だと思う。前作を観ている観客には、死んだはずのリーがいきなり登場することが、良い意味でショックだったろう。私など「 リーは生きていたのか!」と一瞬、錯覚を覚えたくらいだ。前作が「Day 89」から始まっているのはおそらく、スケールの大きな遭難初日を撮ることを予算的に回避したからに違いないが、見事な省略だった。本作が「Day 1」を描いたのは前作を知る観客にとっても事件の発端を目撃する重要な構成であり、素晴らしいアイデアだ。

 「Day 1」の描写で興味深かったのは、怪物が音に反応するという情報を与えつつ(もちろん、前作未見の観客に対して)、怪物がいかにして銃弾を防御しているか明らかになっている点だ。なぜ、軍や警察が怪物駆逐に失敗し、壊滅してしまったのかを想像できる重要なシーンだった。逃げ惑うリーと娘リーガンの前で、停車したパトカーの警官が怪物に向かって発砲するのだが、怪物は高速回転しながらダンゴムシやアルマジロのように身体を丸めて銃弾を跳ね返している。前作では、周囲のかすかな音を聴くために怪物は頭部外殻を開いて、軟らかい集音器官を剥き出しにしているが、その瞬間こそ怪物の弱点であり、銃弾が有効だと描かれていた。鎧のように堅い外殻には銃弾が効かないという描写は実際には前作になかっただけに、貴重なシーンだ。

 私が前作のラストカットを観た時に、「 あぁ、この映画には続編はないな 」と感じたのは、綺麗な終わり方だったと同時に、母親イヴリンと娘リーガンたちが怪物の致命的な弱点を見事につかんでいたからだ。これでわずかに生き残っていた人間は反撃に転じ、音で怪物たちをおびきよせ、罠にかけて一網打尽にすることも可能に違いない。となれば、「 前作から数年後 」という舞台設定は困難だろう。しかし、前作のラストカットから直接、物語を続けるなら事情は別だ。正に、「 作るならこれしかない 」という続編が本作である。

 モンスターパニック映画の場合、人間が怪物の弱点をつかんでからの展開はやや単調になる傾向がある。要するに、怪物の脅威描写が後半は簡単粗雑になり、あたかも「 怪物が急に弱くなった 」感がしてしまうのだ。残念ながら、本作もいくらかその印象が否めない。端的には、不用意に音をたててしまった時の怪物の反応速度や人間達の怯える描写が前作と本作では明らかに異なっている。そのせいか、本作では怪物そのものより、「 生き残った他の人間集団 」の存在の方がよほど恐ろしく感じてしまうのだ。本当に怖いのは、いつの世でもどんな時でも「 常軌を逸した人間達 」なのだと言うことなのかも知れない(もちろん、善良な人々の方が圧倒的に多い)。
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