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2021年08月01日15:22

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国家の怠慢[読書日記841]

題名:国家の怠慢
著者:高橋 洋一(たかはし・よういち)、原 英史(はら・えいじ)
出版:新潮新書
価格:740円+税(2020年10月 5刷)
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元官僚のお二人による政治批評を主とした対談です。
高橋氏は小泉内閣・第1次安倍内閣で多くの改革を手掛けた方。
かたや原氏は経済産業省などを経て2009年に独立し、今も政府や自治体の行政改革に関わっている方だそうです。

表紙裏の惹句を紹介します。
“すべては怠慢のツケである――医療崩壊寸前にまで追い込まれ、オンラインでの診療・授業は機能せず、政府の給付金さえスムーズに届かない。
 新型コロナウイルスは、日本の社会システムの不備を残酷なまでに炙り出した。それは、政治、行政、マスコミの不作為がもたらした当然の結果でもあった。
 これまで多くの改革を成し遂げてきた財務省と経産省出身の二人のエキスパートが、問題の核心を徹底的に論じ合う”

目次は次の通りです。

 はじめに
 第1章 コロナで見えた統治システムの弱点
 第2章 間に合っていたはずの規制改革
 第3章 なぜ役人は行革を嫌がるのか
 第4章 モリカケ問題と前川さん、佐川さん
 第5章 毎日新聞の「スクープ」で考える報道と国会
 第6章 マスコミ報道に未来はあるのか
 第7章 産業が丸ごとなくなる時代に
 おわりに

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印象に残った文章を引用します。

【第1章 コロナで見えた統治システムの弱点】《政策決定と専門家の関係》から、コロナ対策を決定する会議に感染症モデル(予測)のスタッフがいないことについて。
高橋:よそ様の国は、結構そういう(感染症モデルを担当する)スタッフがいるん
   ですよ。
   官僚がやるというのではなくて、医学の話で機械的に結構数字で出しちゃう
   ほうなんですよね。日本ではそういう議論は全くない。8割の接触減がああ
   でもないこうでもないと議論しているけど、笑っちゃいますよ。(20p)

【第2章 間に合っていたはずの規制改革】《「対面が基本」という信念》から、。オンライン授業ができない理由の一つ。
原 :(実現が)もっと厳しいのが小・中学校で、診療が対面が基本というのと同
   じで、教育もすべて教室でやらないといけません。
   医療では見落としのリスクが理屈でしたが、教育に関しては、子どもたちと
   肌と肌を接して先生が生徒に教えてあげることが大事、特に学年の低い子ど
   もたちほど大事なんですという信念があった。
   文部科学省と議論していると、机間指導という耳慣れない言葉がよく出てき
   ます。机の間を回って指導することが大事なんだというわけです。(55p)

【第3章 なぜ役人は行革を嫌がるのか】《当局が民間に取り込まれる「規則の虜」》から、役所が行政改革を嫌がる理由について。
高橋:なぜ民営化や公務員制度改革をやったのかといえば、民間企業が役所とズブ
   ズブなってしまうというのは、経済学でいう「規則の虜」っていうやつなん
   ですよ。
   規制の虜というのは、役所のほうが取り込まれちゃうということ。
   例えば原発なんかもその典型なんですけど、規制当局が取り込まれちゃって、
   真っ当な規制ができなくなっちゃう。(82p)

【第4章 モリカケ問題と前川さん、佐川さん】《文科省と大学の特殊な関係》から、文部科学省の事務次官:前川喜平氏について。
高橋:(加計学園問題で挙がった)前川さんの事件でやっぱりまずかったのは、
   菅さん(官房長官)が国家公務員法違反と文科省でも認めておきながら自主
   退職にして退職金を払ったことだと思いますよ。
   あの事例は法律違反だし、温情ではなく、自主退職ではなく処分すべき案件
   だったと思います。(115p)

【第6章 マスコミ報道に未来はあるのか】《新聞を堕落させる3点セット》から、新聞社のオーナーが絶対に代わらない理由。
高橋:コーポレートガバナンスというのは株主が代わってそれによって経営者が追
   い出されちゃうかもしれないというのが一番のプレッシャーなんですけど、
   新聞社の場合は日刊新聞紙法で株式の譲渡があるから株主は絶対に代わらず、
   先祖代々の人しか株主にならない。
   だから新聞社の経営者というのは世界で一番お気楽な人で、株主=オーナー
   に取り入ったら絶対にクビにならないという非常に楽なパターンなんです。
   (150p)

対談形式で書かれた本ですが、お一人の発言が非常に長いなと感じつつ、【第7章 産業が丸ごとなくなる時代に】まで読み進んだところ、
“この本だってこういうオンラインでの対談の形で進めてきたわけじゃないですか”(169p)
とありました。
オンライン対談の場合、どうしても一人の発言が長くなってしまうんですね。

また、批判ばかりではなく、役所擁護の発言も多くあり、一般に言われている政権批判と相容れないと感じるところもありました。
本書をすべて盲信するわけではありませんが、政治がどのように進められるのか、大きな改革を阻害するものは何なのかが分かりました。

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高橋 洋一(たかはし・よういち)、
1955年生まれ。
東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒。
80年大蔵省入省。理財局資金企画室長などを歴任し退官。
小泉内閣・第1次安倍内閣では官邸勤務で多くの改革を手掛ける。

原 英史(はら・えいじ)
1966年生まれ。
東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。
経済産業省などを経て2009年「(株)政策工房」設立。
政府や自治体の行政改革に関わる。
著書に『岩盤規制 誰が成長を阻むのか』など。
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