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2018年09月01日12:24

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八大龍王伝説 【551 ニーグルアーサーの遺志(三) 〜遺志を継ぐ〜】


 八大龍王伝説


【551 ニーグルアーサーの遺志(三) 〜遺志を継ぐ〜】


〔本編〕
「さて、それでリュカオン殿!」
 チャックライルが退出した後、スーコルプはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「どこから突っ込んでいいのか迷っていたが……、とにかく、俺が王族の末裔であるという大嘘は、どこから湧いて出て妄想か? もしや、リュカオン殿は、既に正気ではないとか!」
 スーコルプのこの問いに、リュカオン老はしばし黙っていたが、やがて大きな声で笑い出した。
「スーコルプ殿! 確かに、貴殿がゴンク帝國の王族の繋がりというのは大噓じゃ! しかし……」
 ここでリュカオンは真剣な面持ち戻った。
「……しかし、大嘘ではありますが、悪ふざけの類ではございません! むろん、わしがぼけたわけでもありません!いたって真面目な話でございます。スーコルプ殿が、爺のこの大嘘に付き合って下さらなければ、爺はこの場で自害して果てる覚悟であります!
 なぜなら、この『帝王の冠』は本物であり、ニーグルアーサー帝王陛下から、爺が直接、託されたからであります。ニーグルアーサー帝王陛下は、ツイン地方へ移封される前に、この爺を尋ねられ、自分の身に何かあったときは、スーコルプ殿……! 貴方に後を託すよう託されたのです!」
「……」
「確かに、先ほど爺が語りました話は、全てが伝説であり、信ぴょう性に乏しいものです。ボルボドアーサー様が本当に帝都から出奔したのかも伝説の域を出ませんし、ましてや帝國地下組織の長であったザマフジ様が、実はボルボドアーサー様のご子息であるなどは、語った爺自身も、民衆の間に流行るおとぎ話の類であろうと思っております。
 そもそもボルボドアーサー様にご子息がいらっしゃったのかも、本当のところは分かりません!」

「そこは地下組織の歴代の長にしても同じことが言える」
 スーコルプも語る。
「帝國地下組織の創始者と言われているザマフジの後を継いだ二代目は、確かにザマフジの血族であったが、その後は全部、赤の他人同士が最終的に養子縁組を結んで後を継いでいる。
 俺も前の頭である親父とは血が繋がっていない。俺は、幼き時に両親に捨てられたか、あるいは両親が殺されたか分からないが、とにかく、五歳まで一人で生きてきた。
 そんな俺を、地下組織の長である親父が引き取って養子とした。俺は、自分の本当の親の顔すら知らない!」

「まあ、あまりそこは深く考えなくてもよいですぞ……」
 リュカオン老は、急に相好を崩して、軽い口調で話し始めた。
「そもそもゴンク帝國帝王の一族にいたしても、純粋なヴェルトの民ではないわけですし……」
「?! リュカオン殿。それはどういうことですか?」
「……スーコルプ殿は、あまりヴェルト史にはご精通されていないご様子ですな。爺が、今からお話いたしましょう。
 ゴンク帝國は今から千年前に、その当時の第三龍王である沙伽羅(シャカラ)龍王様によって建国された國でありますが、その初代帝王は、シャカラ様と共にヴェルト大陸平定に尽力した天界の民の血統です」
「成程! 天界に住む民であれば、ヴェルトの民でもなく、地上界の民ですらないということですか?」
「うむ。さらにその天界の民は、ヴェルト平定の戦いの中で命を落とす。初代のゴンク帝國の帝王は、その民が地上で交わった娘の子供であった。
 これは、亡くなった天界の民とその娘の証言によるものであるが、それすら、その当時から本当に亡き天界の民の子供であるかどうかは、本当の意味で確認はとれていない。
 帝國初代帝王ですら、そのようなあやふやな経緯であったわけでありますから、ここでスーコルプ殿が王族の末裔と宣言しても、それほど重要な問題ではないでしょう」
 さすがにスーコルプも、リュカオン老の言葉に、毒気を抜かれたような顔になった。
「いや、俺もかなり性格的にいい加減な方(ほう)だが、リュカオン殿の発想には、さすがに呆れを通り越して何と表現してよいのやら……。
 リュカオン殿の発想で考えれば、ゴンク帝國の帝王は誰でもいいということになるのでは……」
「いやいや。さすがに誰でも良いとは思っておりませんが、ここでゴンク帝國が滅び、帝國の民が亡国の憂き目に遭うことを考慮すれば、血筋云々にこだわり立ち上がれないのは、小人(しょうにん)の小事へのこだわり以外の何物でもないと、爺は思っております!」

「……」
 スーコルプは、しばらく目を閉じ沈黙した。
 リュカオンもそれに、一切口を差し挟まなかった。
「分かった!」
 しばらくして、スーコルプは目を開け、つぶやく。
「その話に乗ろう! リュカオン殿、俺を導いてくれ!」
「よくぞご決心されました! 爺が全面的にバックアップいたします! 手始めに、帝王戴冠の儀式を行いましょう。名も王族の『アーサー』を加え、スーコルプアーサー帝王といたします。
 ここに、『帝王の冠』と詳しい系図がございますので、何ら問題はございません!」
「その系図はリュカオン殿が作成されたのか?」
「はい! 我が家は代々帝王の側近としてお傍につかえる一族。我が一族がその都度、系図を書き足して参りました。今回、それにスーコルプアーサー様を、ボルボドアーサー様以降のうやむやになっている系譜に継ぎ足しましたので、これで晴れてスーコルプアーサー様は、ゴンク帝國帝王の正統な血筋のお一人ということになります」
「その手回しも見事だ! それでもここで、戴冠の儀という物騒な儀式を行えば、その数分後には、ザッドの手の者によって捕らえられ、殺害されるのが落ちだが……。
 ひとまずは、ここ元ゴンク帝國領から脱出し、シェーレ殿やカルガス國、クルックス共和国、フルーメス王国の三か国の連合軍と合流する方が現実的ではないのか?」
「それも一つの手ではありますが、今回はその必要はなく、この地――元ゴンク帝國領で、戴冠の儀を行い、挙兵すれば良いと考えております。
 そのほうが、ゴンクの民も喜び、皆がスーコルプアーサー帝王の元に馳せ参じましょう。そこは爺にお任せください。
 既に、ゴンクでの挙兵が可能なある方と連絡をつけてあります。今日の夜にでも、そのある方とお会いすべく、爺が段取りましょう!」



〔参考 用語集〕
(八大龍王名)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)

(神名・人名等)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。黒宰相)
 ザマフジ(ゴンク帝國地下組織の始祖)
 シェーレ(元ナゾレク地方領主。ヴェルト八か国連合東方戦線の指揮官の一人)
 スーコルプ(ゴンク帝國の地下組織の頭)
 チャックライル(スーコルプの部下)
 ニーグルアーサー帝王(ゴンク帝國の帝王。故人)
 ボルボドアーサー(クイディトールアーサ帝王の兄)
 リュカオン(元ゴンク帝國の副王)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。滅亡)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)

(地名)
 ツイン地方(ヴェルト大陸最南端の地方)
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