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2018年08月27日10:05

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八大龍王伝説【550 ニーグルアーサーの遺志(二) 〜ボルボドアーサーの系譜〜】


 八大龍王伝説


【550 ニーグルアーサーの遺志(二) 〜ボルボドアーサーの系譜〜】


〔本編〕
「それで帝王は俺に何を伝えたかったのだ!」
 しばらくしてスーコルプは、部下のチャックライルに尋ねた。
「帝王が言うには、お頭にある人物に会ってほしいとのことだ! その人物はヘルテン・シュロスの郊外に住んでいるリュカオンという名の老人らしいが、お頭はご存知で?」
「ああ! 明日、リュカオンの住処(すみか)を訪れよう」
「お頭は、リュカオンを知っているのか?! ……そういえば、帝王もお頭がリュカオンを知っている口ぶりで話してはいたが……」
「ああ! リュカオンは、今は引退しているが、元々、ニーグルアーサー帝王とその二代前の帝王の三代に仕えていたご仁だ。役職は副王といって、言ってみれば聖皇国の宰相にあたる地位だ!
 ニーグルアーサー帝王には二年ほど仕えた後に、副王の職を辞して隠居したため、特に聖皇国も重要人物として、今は認識していない。しかし、地下組織としては、常にリュカオン殿の居場所は把握している。
 ゴンク帝國政府と反政府の、非公式ではあるが、橋渡しや調整も、昔は度々行っていた人物だ。俺も、小さい時に親父に連れられて、二度ほどお目にかかったことがある。チャックライル! お前も同行しろ!」

 スーコルプとチャックライルの二人は、翌日の朝方、リュカオンの屋敷を訪ねた。
「これはお待ちいたしておりました。スーコルプ様も、逞しくおなりあそばして、爺が初めてお会いした時は、まだ十歳でありましたかな」
 リュカオンはスーコルプ達に朝方の訪問にも関わらず、衣服を整え、出迎える準備は万端であった。
「久しぶりだな! リュカオン殿。こいつが俺の部下のチャックライルという者だが、昨日(さくじつ)、ツイン地方を脱出して、俺のアジトに戻ってきた。
 こいつが言うには、帝王が、俺にリュカオン殿に会うよう言付かったようだ。帝王は既に身罷(みまか)られ、ゴンク帝國もこれで完全に地上から消滅した。今さら、この俺に何か出来ることがあるとは思えぬが……」
 スーコルプも、久しぶりにリュカオンに会えて懐かしかったが、それでもニーグルアーサー帝王が、何故リュカオンに会うようチャックライルに託したかは、全く想像つかなかった。
「爺も、帝王の死については聞き及んでおります。爺は二年間という短い間しかお仕えいたしませんでしたが、決して凡庸な方ではございませんでした。帝王は、時代の波に飲まれた哀れなお方でございました。平穏の世であれば、大過なく帝王の責を全うされたものを……」
 リュカオンは、そう言うと涙ぐんだ。
 スーコルプもチャックライルも、しばらくは声もかけずそのままにしていたが、やがてリュカオンは顔を上げて、スーコルプに語りかけた。
 一つの決意が面に現れ、既に目にも涙は無かった。

「ニーグルアーサー帝王陛下は、ご無念のうち亡くなられましたが、これでゴンク帝國が地上から完全に消滅したわけではございません! 再び、ゴンク帝國が復興できるよう、帝國の民と兵が一丸となって取り組まなければならない時でございます!」
「リュカオン殿!」
 スーコルプは困惑気味に、リュカオンに尋ねていた。
「リュカオン殿のお気持ちも分からなくはないが、帝國復興に当たり、中心となるべく王族はもういない。帝王の血を継ぐ者がいなければ、いくら民や兵がゴンク帝國復興を望んでも、立つべく術はない!」
「いえ! スーコルプ様! 王族の方はまだお一人、残っておられます!!」
「馬鹿な! ニーグルアーサー帝王に連なる者は、ほとんど王弟バルディアーサー殿が亡くなった際に粛清された。そして、今回のニーグルアーサー帝王の死によって、共にいた数少ない王族も全員粛清された! これは厳然たる事実であり、誰かを適当に仕立て上げても、すぐ露呈するので、帝國復興はまず不可能だ!」
「確かに、ニーグルアーサー帝王に連なる王族に生き残りはございません。それは爺も分かっております。しかし、ニーグルアーサー帝王から数えて五代前のクイディトールアーサー帝王の治世に、帝國のやり方に反発して、下野(げや)された王族がいらっしゃいました。
 クイディトールアーサー帝王の兄に当たるお方で、ボルボドアーサー様であられます。元々は賢兄であられたボルボドアーサー様が帝位を継ぐべきところ、ボルボドアーサー様のお父上に当たられますミルクリストアーサー帝王は、ボルボドアーサー様を嫌い、愚弟のクイディトールアーサー様に後を継がせました。
 ボルボドアーサー様は、それに反発されるように帝都を離れ下野したのでございます。そのボルボドアーサー様の末裔の方がまだ生き残っておられます! そしてそれが、スーコルプ様、貴方なのです!」
 リュカオンのこの言葉には、スーコルプよりチャックライルの方が、その場でのけ反るぐらい驚いたのであった。
 リュカオンが続ける。
「下野されましたボルボドアーサー様ご自身は、ゴンク帝國から離れましたが、その時に付き従ったご子息がそのまま帝國領内に残られ、今ある地下組織を立ち上げました。
 そのお方が、ゴンク帝國地下組織の創始者であり、初代の頭であられるザマフジアーサー様で、帝國王族の象徴であられる『アーサー』の称号を捨てられ、ザマフジ様と名乗られました。
 その、ザマフジ様より五代目に当たりますスーコルプ様は、れっきとしたゴンク帝國王族の血を引く者。
 ニーグルアーサー帝王の系譜が途絶えた今、ボルボドアーサー様の系譜の王族の方が、ニーグルアーサー帝王陛下の血筋と無念を引き継ぐのは、王族としての責務であられます。
 何を隠そう我が一族の分家も、ボルボドアーサー様が下野した時に共に付き従い、今の今まで一族間の連携を密にして、ボルボドアーサー様並びにザマフジ様の系譜の行く末をずっと見守っておりました。
 ここに、その正式な記録を記した系図もございます。
 そして、ニーグルアーサー帝王陛下より、ツイン地方に下る際、もしもの時に備えて、『帝王の冠』を爺がお預かりいたしました。
 ソルトルムンク聖王国における三種の神器ではございませんが、この『帝王の冠』は、ゴンク帝國帝王の象徴。
 ニーグルアーサー帝王陛下は、この本物の帝王の冠を、この爺に託し、自らはレプリカの帝王の冠を身につけられておりました。
 どうか、スーコルプ様! ここで王族に戻っていただき、ゴンク帝國の復興にために立ち上がって下さい! そうでなければ、爺が、死後の世界で帝王陛下に会わせる顔がございません!」

「……」
 それに対して、スーコルプは無言であった。
「お頭! すげえ! お頭、王様だったのか!! 道理で、普通のやつらとはオーラが違うわけだ! すげえ! すげえ!!」
「チャックライル! 少し静かにしろ!」
 スーコルプが、チャックライルをたしなめた。
「チャックライル! 外で待っていろ! 俺は、少しリュカオン殿と話をする。お前は外で、誰も入ってこないように見張っていろ!」



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 クイディトールアーサ(ニーグルアーサーより五代前のゴンク帝國帝王)
 ザマフジ(ゴンク帝國地下組織の始祖)
 ザマフジアーサー(ボルボドアーサーの息子。後にザマフジと改名)
 スーコルプ(ゴンク帝國の地下組織の頭)
 チャックライル(スーコルプの部下)
 ニーグルアーサー帝王(ゴンク帝國の帝王)
 バルディアーサー(ゴンク帝國の王弟であり将軍。故人)
 ボルボドアーサー(クイディトールアーサ帝王の兄)
 ミルクリストアーサー(クイディトールアーサとボルボドアーサーの父)
 リュカオン(元ゴンク帝國の副王)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。滅亡)

(地名)
 ツイン地方(ヴェルト大陸最南端の地方)
 ヘルテン・シュロス(元ゴンク帝國の帝都であり王城)
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