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2018年08月13日15:51

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八大龍王伝説【548 正統王国六将制度(後)】


 八大龍王伝説


【548 正統王国六将制度(後)】


〔本編〕
 グラフ将軍の説明が始まった。
「先ず、正統王国並びにヴェルトの皆々方、誤解なさらないでいただきたいのは、シェーレ殿が六将位を辞退したのは、何も二心(ふたごころ)ある故にではないということである!
 既にシェーレ殿は、ミケルクスド國のラムシェル王の提唱した偽皇国に対抗すべく結成された八カ国連合構想に、賛同されている。その証(あかし)が、滅亡したカルガス國、クルックス共和国、フルーメス王国の三國の遺児等を伴っての偽皇国への武装蜂起である。
 この三國の軍勢は、既に先月の二月二十八日に、元カルガス國の王城で、今はシェーレ殿が地方領主を務めている行政府ナゾレク・エクサーズに入城している。むろん、シェーレ殿の手引きによってである。
 そして、正統王国の王と成るべく資質を唯一お持ちのステイリーフォン聖王子様は、シェーレ殿の長年の遠謀による実績も勘案して、今回六大将軍の一人、『強和将軍』にシェーレ殿を任命した次第である。
 しかしながら今回の任命は、戦時中という非常事態時であったため、シェーレ殿本人の意向を確認することは出来ていなかった。故に、シェーレ殿は、強和将軍へ任命されたと聞いた後、自分には重すぎる職という理由で、その職を辞退されたのである。
 決して偽皇国側へ阿(おもね)る行為でも、偽皇国と八カ国連合を両天秤にかけたがゆえの行為ではない。
 偽皇国の立場からみて、彼女の反乱という行動の前では、強和将軍職の辞退も、全く意味を成さない行為であることは、誰の目にも明らかと思われる。
 それに、今回、シェーレ殿は、強和将軍職辞退と併せて、今回新たに任命された尊天将軍ハクビ様の軍師兼副官職の任を希望なされた。これについては、すぐに聖王子様の了承もあったので、ここに併せて報告する。
 これなどは、シェーレ殿が、正統王国である正統ソルトルムンク聖王国へ帰属する大いなる証であると、わしは思っている!」

 ここで一旦、グラフ将軍は言葉を切った。
 一分ほどの沈黙が続く。
 グラフ将軍の説明で、シェーレの件について、一応納得した民衆であったが、まだ一つ皆に明らかにされていない箇所があった。
 ……いや、明らかにされていない箇所は、前日である三月八日の六将任命の際からの皆の疑問でもあった。
「さて、続いて尊天将軍に任命されたハクビ様について説明しよう」
 ヴェルト大陸全ての民が一様に抱いていた疑問について、グラフ将軍が語り始めた。
「尊天将軍に任命されたハクビ様とは、一〇五〇年に聖王国がバルナート帝國によって滅亡させられた時、わしの下にいて、聖王国の復活に大いに尽力した一青年のことを指す。
 彼は、バルナート帝國四神兵団の当時の軍団長であったヴォウガー玄武兵団長、並びにナンダ朱雀騎士団長の二人を倒した。そして、ナンダ軍団長を倒したおりに、それまで失われていた記憶を取り戻された。
 つまり、彼こそが第三龍王シャカラ龍王様であり、その後の第二龍王で四神兵団のバツナンダ青龍兵団長と戦い、相打ちとなり消滅したとなっているお方である。
しかし、わしを含めて一部の者のみ、他の八大龍王様お一人からの報告で、シャカラ様が生きていらっしゃることを知ることができた。
 今は事情があり、地上界にはおられないが、それが解決されれば、このヴェルトの地に戻って来られる。聖王子様もそれが分かっておられるので、前もって、ハクビ様として尊天将軍に任命された次第である!」
 これは、ヴェルトの民にとって、かなり衝撃的な内容の話であった。
 グラフ将軍はさらに語る。
「そのシャカラ様ことハクビ様が、地上にお戻りになられるまで、ある方がその代役を務める。
 その方のお名前はハクビ様という。その代役のハクビ様とは、シャカラ龍王様のご実子であられる。
 龍王暦一〇五一年にお生まれで、今年十歳になられた。
 シャカラ様は、聖王国のコムクリ村で記憶消失の青年として発見され、その村がバルナート帝國に襲撃された際に、わしの軍に加わられた。その時、共に軍に加わった娘にレナ様という方がいらっしゃった。その方が、後にシャカラ様と結ばれ、ハクビ様を宿したのだ。
 今、十歳のハクビ様も、その生母であられるレナ様も、シェーレ殿の元におられる。
 これで、シェーレ殿が強和将軍位を辞退した後、尊天将軍ハクビ様の軍師兼副官を希望した理由が、皆にも分かってもらえたと思う。
 このような事情で、シャカラ龍王様のご実子であられるハクビ様が、父にあたるシャカラ様が地上界に戻られるまで尊天将軍職を代理で務められる。
 なお余談ではあるが、レナ様については、『聖母』という尊称で今後呼ぶことを、ステイリーフォン聖王子様たっての要望で、レナ様に打診し、レナ様もそれを快諾されたことを併せて皆に伝えておく!」

 グラフ将軍の説明が、最後にこう締めくくって終わった。
「最後になるが、ドンク殿、エアフェーベン殿、ノイヤール殿には、天声スキル等の伝達方法で六将任命の件を伝え、皆、その任を慎んで受けられることを表明している。
 その結果、強和将軍位のみ今は空席という形ではあるが、これについては、今後の実績などを勘案し、聖王子様から近い将来任じられると思われる。
 ただ、現段階での強和将軍位の人選については、聖王子様もわしを含め白紙であるので、誰にでもその可能性があることは否定しない!」
 グラフのこの最後の言葉は、ヴェルトの民全てに、非常な魅力的な言葉として耳に残った。
 実力次第で、誰でも正統王国の六将という軍部の最高位も夢でないということである。
 聡明なシェーレは、それを見越して、自ら将軍位を辞退し、あえて六将の一席が空席になるように仕向けたのかもしれない。
 今となっては、それが真実かを知る術はないが……。



〔参考 用語集〕
(八大龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅。バルナート帝國四神兵団朱雀騎士団前軍団長)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。バルナート帝國四神兵団青龍兵団前軍団長)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。記憶喪失の時期のハクビ青年)

(神名・人名等)
 ヴォウガー(バルナート帝國四神兵団の一つ玄武兵団の軍団長。故人)
 エアフェーベン(正統ソルトルムンク聖王国の六将の一人。元ソルトルムンク聖皇国の紫鳳将軍)
 グラフ(正統ソルトルムンク聖王国の六将の一人)
 シェーレ(元ナゾレク地方領主。ヴェルト八か国連合東方戦線の指揮官の一人)
 ステイリーフォン聖王子(正統ソルトルムンク聖王国の唯一の聖王後継者)
 ドンク(正統ソルトルムンク聖王国の六将の一人。元ソルトルムンク聖皇国の銀狼将軍)
 ノイヤール(正統ソルトルムンク聖王国の六将の一人。元ソルトルムンク聖皇国の黄狐将軍)
 ハクビ(記憶を失っていた頃のシャカラ)
 ハクビ(シャカラとレナの子)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)
 レナ(シャカラの妻。ハクビの母)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 正統ソルトルムンク聖王国(ソルトルムンク聖王国のこと。龍王暦一〇六一年のヴェルトの宣言で作られた言葉。略して『正統王国』ともいう)
 正統王国(ソルトルムンク聖王国のこと)
 偽皇国(ソルトルムンク聖皇国のこと)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)

(地名)
 コムクリ村(ソルトルムンク聖王国の南西部にある小さな村)
 ナゾレク・エクサーズ(元カルガス國の首都であり王城)

(付帯能力)
 天耳・天声スキル(十六の付帯能力の一つ。離れたある一定の個人のみと会話をする能力。今でいう電話をかける感覚に近い)

(その他)
 四神兵団(バルナート帝國軍の軍団の総称。白虎騎士団、朱雀騎士団、青龍兵団、玄武兵団の四つに分かれる)
 六大将軍(龍王暦二百年頃のソルトルムンク聖王国の将軍制度。奇跡の人材集結時とも言われる時代の制度)
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