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2018年03月04日04:22

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ある挺身の兵の語る 6/8 − 吉田嘉七 「ガダルカナル戦詩集」より


ある挺身の兵の語る       吉田嘉七

行き行けど、行方もわかぬ
木の下闇のいつの日か
果つる日やある、昼ひそみ、
夜のみ歩む南冥の
ガダルカナルの森深し


負い来し米はつきはてて
名も無き草を喰らいつつ、
辿れる尾根や、断崖や
つもる朽葉にふみまよい、
幾度もまろびし、つまずきし。

靴は破れぬ、趾裂けぬ。
背嚢遂に追いきれず、
装具もすべて捨てはてぬ。
抱くはわずか短剣と
菊の御紋のつきし銃。

泥にまみれす、にじむ血に
纒くべき布もなくなりぬ。
血による蠅を追うことも
ものうくなりて、たおれ伏し
幾度自決を思いしか。

今日斃れんか、明日死すか。
重き務めのなかりせば、
つとに死にたる身なりけん。
死なん命はやすけれど、
奮いたち生きてぞ行かん。

心はいたくはやれども
飢えは激しく、道はなく、
創は痛みて刺すごとく、
ついにいつしか歯もかけて
眼は夜見えずなりにけり。



                 < つづく >


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