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2018年02月25日10:12

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八大龍王伝説【522 新体制の提言】


 八大龍王伝説


【522 新体制の提言】


〔本編〕
「しかしながら陛下。すぐにザッドから宰相の地位をはく奪するなどの強硬措置をとってはなりません! それをすれば、ザッドは、聖皇国から即、離反いたします!」
「うむ、そちの言う通りだ。確かにザッドを、今、露骨な形で除こうとすると、奴は必ず離反する。その結果として、多くの反ザッド派が我が陣営に戻ってくるのであれば、朕としても非常に好ましいが、現在、グラフ将軍はステイリーフォン聖王子を擁して、我が國を偽皇国と僭称し、朕を偽のジュルリフォンと断じておる! ……であれば、ザッドを除いたところで、大きく状況が好転するわけではない!」
「おっしゃる通りです。二月一八日のミケルクスドのラムシェル王の演説の際に、グラフ将軍は、陛下がジュルリフォン聖王子の偽者である確たる証言を致しております。グラフ将軍程の人物が、何の確証もないまま、陛下を偽者と断ずるはずがなく、まさか、ジュルリフォン聖王子様が幼少の頃の、左頬の剣による突き傷の跡がその決め手とは……。
 それで、ミケルクスドの別動隊の将である王妹のユングフラ姫が、グラフたち三人の救出の後に、聖皇国の王城マルシャース・グールを占拠した意味がようやく理解できました。少しでも戦略的な発想が出来る者ならグラフ将軍たちを救出した後は、元ゴンク帝國領でミケルクスド國の領土であるヒールテン地方に戻るか、あるいは、そのまま北西のミケルクスド國の本国に向かうか、どちらかのはずです。
 あの状況で聖皇国の王城を占拠しても、ミケルクスド國では、そこを拠点として版図を広げていく兵力も国力も無く、地理的利点も見出せません。
 案の定、ユングフラ姫のヒールテン地方軍は、聖皇国内に孤立した状態に陥り、軍は壊滅、精神的支柱である『王妹』であり、同時に戦略的に考えても貴重な将の一人である『姫将軍』のユングフラを失ったのです。確かに、ユングフラ姫の生死は不明ですが、恐らくはもうこの世にはいないでしょう。
 しかし、それを差し引いても、王城の霊廟の中で眠っているジュルリフォン聖王子の遺体から、その頬の突き傷の痕(あと)を確認し、その結果、グラフ将軍をミケルクスド國陣営に加えることに成功したのは非常に大きいことです。
 そのためザッドを除いても、グラフ将軍は反偽皇国連合の要(かなめ)の重要な一員であるため、グラフ将軍派のドンクを始めとする将軍級の者がこちらへ再び帰属することは先ず考えられません!」
 ダードムスは、こうはっきりと述べた後、さらに続けた。

「……しかしながら、それでも隊長クラスの兵以下については、我らへ帰属する可能性がございます! そして、それに向けての妙案がございます」
「ほお! それを朕に聞かせてもらえるかな?」
「むろんでございます。しかし、その前に一つ、陛下にお尋ねしたいことがございます」
「朕が答えられることであれば良いがの……」
 ジュルリフォン聖皇は、ダードムスとのこのような問いかけを心底楽しんでいるようであった。
「それは大丈夫でありましょう。現在、我が國の文官の中で宰相に次いで高い位といえば、内政全般を司(つかさど)る大臣と思われますが、いかがでございますか?」
「うむ。その通りだ!」
「陛下! 現在、その職に就かれているお方は、ヒルガムダス様と記憶しておりますが、いかがでございますか?!」
「そうだ!」
「そのヒルガムダス大臣は、陛下に忠実な方でいらっしゃいますか?」
「ヒルガムダスは、朕に対して忠誠心は厚い。しかし、前任のンドのような気骨な者ではない。朕にも忠誠を尽くすが、同じく宰相であるザッドと争うこともない! 優秀な者ではあるが、特筆するほどの能力があるわけでもない。……であるから宰相の粛清の対象にもならずンドの後釜として成り立っているのであろう」
「成程。そしてヒルガムダス様は、今も陛下の元にいらっしゃいますか? それともザッド殿と共に、ヘルテン・シュロスの方に赴いていらっしゃいますか?」
「そうか、ダードムス。そちはまだヒルガムダスと会ったことがないか? 確かにそちは、まだ有事の際にしかこのマルシャース・グールにいないから会っていないかもしれないな。あれは、第一等の大臣でありながら、内政に関わる特別な提案がある時以外は、公の会議にもほとんど出てこない。
 部下を公の会議に出席させ、そこからの報告だけを受けているようだ。まあ、そのような新しい政策などに関心のない姿勢が、ザッドからしてみれば、人畜無害の人物として、筆頭大臣に置いておくのに都合が良かったのであろう。今は、朕が王城に凱旋した折、共に随行し、今、王城において内政に従事しておる。
 それで、そのようなヒルガムダスが何かそちの妙案と関わってくるのか?」
「はい!」
 ダードムスは、そう答えると、そのまま案を語り始めた。

「ヒルガムダス大臣に一度お会いしてから決めたいとは考えておりましたが、陛下の話を聞き、私の案に最も相応しい人物のように感じられました。私の案とは、ヒルガムダス様に新しい地位に就いていただくということでございます」
「ほぉ」
 ジュルリフォン聖皇が悪戯(いたずら)小僧のような無邪気な笑いで呟いた。
「筆頭の大臣であるヒルガムダスに新しい地位に就いてもらうと……。彼(か)の者の性格からして武官とは思えぬ。さりとて、最高位の大臣であり、特に失態を犯した訳でもない。……となると、いまの文官の上の位ということになるが……」
「はい。陛下! その通りであります」
 ダードムスも平然とそう答えた。
「黒宰相を降格させるのか?!」
「まさか! それをしては、ザッド殿は至極当然の如く反旗を翻すでしょう。難攻不落の元ゴンク帝國の帝都であるヘルテン・シュロスを拠点として……」
「そうだな。朕がザッドであっても、そうするであろう。しかし、それではヒルガムダスをどの地位につけるというのだ。まさかとは思うが、朕の代わりに聖皇陛下にでもなっていただくつもりかな?」
「陛下! それは、お戯れが過ぎます。ザッド殿につきましては、引き続き宰相の地位に就いていただきます。そして、ヒルガムダス様にも宰相と同じ地位についていただくのでございます!」
「何!」
 さすがのジュルリフォン聖皇も目を見開き、ダードムスの目をまじまじと見た。
「宰相が二人になるのか?! 第一宰相、第二宰相のような感じか?」
「いえ! 宰相と同列の地位とは申しましたが、宰相ではございません! ヒルガムダス様を宰相の地位につければ、ザッド殿とどちらが上位かとかの問題となります。
 また、ザッド殿からしても、いずれはヒルガムダス様お一人を宰相として、自分は宰相の地位をはく奪されるのではないかという危惧から、やはり離反する可能性はぬぐえません。
 元々一つしかない地位に、二人をつけるという変則的な在り様は、その地位に就かれるお二人の同意がなければうまくいくものでありません。
 ……ですので、ヒルガムダス様が就いていただく地位は、新しく作ります」

「ふむ。それは確かに妙案だ!」
 ジュルリフォン聖皇が感心したように呟く。
「はい! 新しい地位であれば、ザッド殿からしても、宰相の地位から追われる心配もなく、この非常時の便宜的な方法と考えるでしょう。事実、聖皇陛下にはヒルガムダス様を、その新設する地位に就けていただく時に便宜上であると、そうはっきり表明していただきます」
「ダードムス! そちはその新設する地位の名も考えておるのか?」

「丞相(じょうしょう)はいかがでございましょうか?」
「ジョウショウ! 全く新しい言葉だな!」
「はい。今までにない言葉であれば、どのような位置づけの地位であるかは、分りにくいものであります。そして、この丞相には、宰相と同じ権限を持つと定めるのです。
 さらに、今後は宰相と丞相のお二方により、あらゆる案件を合議し、聖皇陛下の承認の上に実現させるものと定めます。
 これにより、今まで宰相ザッド殿独断で行われていた数々の政策が、二人の同地位の者の合議によって決定していくことになります。
 この体制を確立させれば、既に寝返った反ザッドのものたちを、再び、聖皇国の元に帰属させることも可能であります。また、帰属しないまでも中立の立場となったり、積極的に聖皇国に弓を引いたりしにくくなります。
 陛下自身が、自らジュルリフォン聖皇の偽者であると公言しない限り、聖皇陛下の偽者説について確たる証拠はございません!
 証明できるジュルリフォン聖王子様のご遺体は、ここマルシャース・グールの王の霊廟に眠っており、バルナート帝國が本物と提唱している三種の神器に関しては、聖皇国にあるものと、バルナート帝國にあるもののどちらが本物かは、絶対に判別できません!
 陛下! ヒルガムダス様を丞相の地位に就ける際に、この地位は非常時の便宜的なものであるということ、そして、既に離反している元聖皇国の兵や民も、再び聖皇国に帰属するのであれば、その罪は一切問わず、さらに働き次第では、手厚い恩賞と高い地位で報いる積りであることの二点を公言していただきます!」



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の将軍)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。正体は制多迦(セイタカ)童子)
 ジュルリフォン聖王子(龍王暦一〇四〇年の舟遊びで亡くなった聖王子)
 ジュルリフォン聖皇(ソルトルムンク聖皇国の初代聖皇。正体は八大童子の一人清浄比丘)
 ステイリーフォン聖王子(ジュルリフォン聖王子の双子の弟)
 ダードムス(ソルトルムンク聖皇国の碧牛将軍。聖皇の片腕的存在)
 ドンク(元ソルトルムンク聖皇国の銀郎将軍。既に聖皇国を離反)
 ヒルガムダス(聖皇国の筆頭大臣)
 ユングフラ(ラムシェル王の妹。聖皇国王城奪回戦に敗れ生死不明)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)
 ンド(元ソルトルムンク聖王国の老大臣。故人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國)
 偽皇国(ソルトルムンク聖皇国のこと)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)

(地名)
 ヒールテン地方(元ゴンク帝國の一地方。現在はミケルクスド國領)
 ヘルテン・シュロス(元ゴンク帝國の帝都であり王城。別名『堅き城』)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖皇国の首都であり王城)

(その他)
 宰相(ソルトルムンク聖皇国の聖皇に次ぐ地位。ザッドが就任している)
 三種の神器(ソルトルムンク聖王国の聖王の証。「聖王の冠(ケーニヒ・クローネ)」、「聖王の杖(ケーニヒ・シュトック)」、「聖王の剣(ケーニヒ・シュヴェーアト)」の三つの宝物)
 ヒールテン地方軍(ユングフラ姫の率いるミケルクスド國別動隊。元ゴンク帝國領のヒールテン地方の駐留する軍ゆえに便宜上、そう呼ばれている)
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