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2017年04月01日08:40

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老いる家 崩れる街[読書日記620]

題名:老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路
著者:野澤 千絵(のざわ・ちえ)
出版:講談社現代新書
価格:760円+税(2017年1月 第5刷)
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マイミクさんが紹介されていた本です。
タイトルは2015年に読んだ『空き家問題――1000万戸の衝撃』(牧野知弘)に似ていますが、『空き家問題――』が「家」(不動産)の視点から語られていたのに対して、この本は「都市計画」視点からの問題提起が多くありました。

目次を紹介します。
 はじめに
 第1章 人口減少社会でも止まらぬ住宅の建築
 第2章 「老いる」住宅と住環境
 第3章 住宅の立地を誘導できない都市計画・住宅政策
 第4章 住宅過剰社会から脱却するための7つの方策
 おわりに 

【はじめに】では、著者は“住宅過剰社会”というキーワードで問題を明確にしています。
“住宅過剰社会とは、世帯数を大幅に超えた住宅がすでにあり、空き家が右肩上がりに増えているにもかかわらず、将来世代への深刻な影響を見過ごし、居住地を焼畑的に広げながら、住宅を大量につくり続ける社会です”(3p)

【第1章 人口減少社会でも止まらぬ住宅の建築】では、人口が減っている社会で農地をつぶして宅地化する弊害を次のように指摘しています。
“農地をつぶして、無秩序に宅地化しながら、低密にまちが広がり続け、インフラ等の維持管理コストや行政サービスを行なうべきエリア面積をますます増大させ、行政サービスの効率の悪化や行政コストの増加といった悪循環を引き起こす状況は、まさに「焼畑的都市計画」であると言えます”(78p)

そして、「焼畑的都市計画」が多い理由を次のように喝破しています。
“なぜ、このような焼畑的都市計画が横行しているのでしょうか?
 それには、他の市町村がどうなろうと、自分たちのまちの人口をとにかく増やしたいという根強い人口至上主義が影響しています。
 特に自治体の首長や議員の多くは、「市街地調整区域のせいで人口が増えない、だから都市計画の規制を緩和して新築住宅を建てられるようにすれば、人口が増加するのだ」と根強く信じ込んでおられるのです。”(80p)

【第2章 「老いる」住宅と住環境】は、住宅や住環境自体が「老いていく」ことの問題点を指摘しています。

また【第3章 住宅の立地を誘導できない都市計画・住宅政策】では、アメリカ:カリフォルニア州が活断層真上の建築を禁止している(1972年に活断層法を制定:153p)こと等を例に挙げて、都市計画の重要性を説いています。
そういった都市計画が無いために、日本では“居住地から最寄りのガソリンスタンドまでの距離が15km以上離れている地域を抱えている市町村は、257市町村にも上っている(2015年)”(161p)という事実も指摘しています。

まとめの【第4章 住宅過剰社会から脱却するための7つの方策】では、次の方策を挙げています。
 方策1 自分たちのまちへの無関心・無意識をやめる(200p)
 方策2 住宅総量と居住地面積をこれ以上増やさない(203p)
 方策3 「それなりの」暮らしが成り立つ「まちのまとまり」をつくる(205p)
 方策4 住宅の立地誘導のための実効性のある仕組みをつくる(208p)
 方策5 今ある住宅・居住地の再生や更新を重視する(210p)
 方策6 住宅の終末期への対応策を早急に構築する(213p)
 方策7 もう一歩先の将来リスクを見極める(214p) 

第4章から「今が住宅問題を解決に導く最後チャンスかもしれない」と訴える文章を引用しましょう。
“将来世代にツケを残さないために:
 団塊ジュニア世代が働き盛りで、人口や経済にまだ若干の余力があるうちに、都市計画や住宅政策の抜本的な見直しに着手しなければ、手遅れになってしまいます”(216p)

著者の危機感が伝わってくる渾身のレポートでした。

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野澤 千絵(のざわ・ちえ)
兵庫県生まれ。1996年、大阪大学大学院環境工学専攻修士課程修了後、ゼネコンにて開発計画業務に従事。
その後、東京大学大学院都市工学専攻博士課程に入学、2002年、博士号(工学)取得。
東京大学先端科学技術研究センター特任助手、同大学大学院都市工学専攻専攻非常勤講師を経て、2007年より東洋大学理工学部建築学科准教授。2015年より同教授。
共著に『白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか』(学芸出版社)、『都市計画とまちづくりがわかる本』(彰国社)がある。

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