mixiユーザー(id:1795980)

2017年03月25日08:48

202 view

問題は英国ではない、EUなのだ[読書日記619]

題名:問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論
著者:エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)
訳者:堀 茂樹(ほり・しげき)
出版:文春新書
価格:830円+税(2016年9月 第1刷)
----------
昨年、『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』を読んで読者になったエマニュエル・トッド氏の著作です。

目次を紹介します。
 日本の読者へ――新たな歴史的転換をどう見るか?
 1 なぜ英国はEU離脱を選んだのか?
 2 「グローバリゼーション・ファティーグ」と英国の「目覚め」
 3 トッドの歴の方法――「予言」はいかにして可能なのか?
   歴史家トッドはいかにして可能なのか?
   国家を再評価せよ
   国家の崩壊としての中東危機
 4 人口学から見た2030年の世界――安定化する米・露と不安定化する欧・中
 5 中国の未来を「予言」する――幻想の大国を恐れるな
 6 パリ同時多発テロについて――世界の敵はイスラム恐怖症だ
 7 宗教的危機とヨーロッパの近代史――自己解説『シャルリとは誰か?』

トッド氏は今までに「ソ連崩壊」「米国発の金融危機」「アラブの春」などを著書で“予言”してきた方で、その予言の方法は国家や地域の家族や人口に注目するというユニークな視点です。

本書でも、「家族」や「人口」に何回か言及しています。
4つ引用します。

1.現在の歴史的転換に関する見解:
“現下の歴史的転換は、経済に関する転換である前に、その基盤において家族、人口、宗教、教育に関する転換です”(10p)

2.権威主義的な直系家族の方が、概して教育水準が高いという事実:
“実は、気持ちの上では、自分にとって嬉しい発見もあれば、嬉しくない発見もあります。たとえば、ドイツ、スウェーデン、日本などの権威主義的な直系家族の方が、イギリスの絶対核家族やパリ盆地の平等主義核家族よりも概して教育水準が高く、経済パフォーマンスも良いということなどは、私にとって愉快ならざる発見でした。
 しかし、真実は真実です”(111p)

3.権威主義が強い日本では女性が仕事と子育てを両立させることが難しいという見解:
“グローバリゼーションが進んでも、文化の差異は残ります。たとえば、出生率を見ますと、アメリカとフランスは約2.0であるのに対し、ドイツと日本は約1.4です。
 これには家族システムの違いが影響しています。父系的な権威主義が強いドイツと日本では、女性が仕事と子育てを両立させるのが難しく、出生率が低下し、それが問題視されても、なかなか突破口を見出せないのです”(116p)

4.ドイツが「人口」面で大きな問題を抱えているという数値:
“不安定なドイツ社会:
 しかし「経済」だけを見ていてはいけません。「人口」面で大きな問題を抱えているのですから。
 男子の高等教育の進学率は、停滞どころか低下しています。出生率は1.4で、少子高齢化が急速に進んでいます。
 このように人口学的指標、社会的指標をよく見れば、ドイツのことを均衡状態にある安定した社会であるとは決して言えないのです”(177p)

家族や人口に関係していない著者の指摘も2点引用します。

1.識字率と革命の関連に関する法則:
“イギリスでは、歴史家のローレンス・ストーン(1919〜1999)が、識字率と革命との関連を研究し、イギリス革命、フランス革命、ロシア革命を取り上げて、革命の前には必ず識字率が上昇していたことを示唆しました。
 私はこれを「ストーンの法則」と呼び、今でも大いに活用してします”(106p)

2.アメリカが中東の原油をコントロールする真の理由:
“これまでアメリカはサウジアラビアと特別な関係を築いてきました。それはなぜなのか?
 中東の原油を押さえるためだという説明がよくなされます。しかし、実はもともとアメリカは中東の原油にまったく依存していません!
 それも、近年、米国内のシェールガスの開発でエネルギー自給率を高めたからではなく、以前からそうだったのです。アメリカが中東の原油をコントロールするのはむしろ、ヨーロッパと日本をコントロールするためなのですよ”(148p)

最後に著者が触れている「日本の問題」について引用します。
“日本の唯一の問題は人口問題:
 そんな日本にも、一つだけ問題があります。人口問題です。日本の最高の長所は日本の唯一の問題にもなりえます。
 それは完璧さに固執しすぎることです。少子化を放置し、移民も受け入れないとすれば、日本社会そのものが存続できません”(184p)

“預言者”トッド氏の予想を裏切って、日本が存続することを願ってやみません。

---------- ----------
エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)
1951年生まれ。フランスの歴史人口学者・家族人類学者。
国・地域ごとの家族システムの違いや人口動態に着目する方法論により、『最後の転落』(76年)で「ソ連崩壊」を、『帝国以後』(2002年)で「米国発の金融危機」を、『文明の接近』(07年、共著)で「アラブの春」を次々に "予言" 。
『シャルリとは誰か?』は4万部、『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』は14万部を超えるベストセラーに(いずれも文春新書)。

堀 茂樹(ほり・しげき)
1952年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部教授(フランス文学・思想)。翻訳家。
アゴタ・クリストフの『悪童日記』をはじめ、フランス文学の名訳者として知られる。
訳書に『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』『シャルリとは誰か?』(いずれもトッド著)『カンディード』(ヴォルテール著)など多数あり。

0 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年03月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031