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2017年03月15日16:54

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「カルテット」第9話 嘘からあふれ出す本当

早乙女真紀は、「誰でもなかった」。存在そのものが嘘だった。カルテット・ドーナツホールのマキさんの穴はとてつもなく暗く深いものだった。

このドラマが凄いのは、本当も嘘もひっくるめて肯定しているところだ。本当の正しさだけが、正義でもないし、真実でもない。薄っぺらな正しさなんて、クソ食らえだ。本当と嘘は混じりあい、嘘から始まる本当もある。「好きはあふれ出てくるもの」というすずめちゃんの台詞は、嘘をつかざるをえない哀しみと嘘の中からあふれ出す本当があることを示している。

このドラマは、それぞれの嘘から始まった。お金をもらってマキさんに近づいたすずめちゃん、好きだという想いを隠して、偶然出会ったふりをした別府君。マキさんの夫から階段を突き落されたと聞いて、お金を強請ろうと妻であるマキさんに近づいた家森さん。夫の失踪を隠していたマキさん。嘘の出会いから始まった4人。しかし、いつしか4人は嘘から本当の関係になった。なくてはならない関係に。

家森さんが、ホッチキスはステイプラーであり、バンドエイドは絆創膏、ポストイットは付箋紙、タッパーはプラスチック製密封容器、ドラえもんは猫型ロボット…と正しく言いなおそうと提案するが、本当の名前にどこまで意味があるのかと問いかける。早乙女真紀がヤマモトアキコだったとしても、マキさんはマキさんではないか。名前とは何か、存在とは何か、本当とは何か、嘘の存在からあふれ出してくるものとは何か…。ドラマは私たちに、そんな問いを突き付ける。

唐揚げにレモンをかけたら、味は元に戻らないように、繰り返し「不可逆」と「巻戻し(やり直し)」を問い続けてきたこのドラマは、「人生のやり直しスイッチはもう押さない」と登場人物たちに宣言させる。彼らがお互いに出会えたから。

「真紀さんは奏者でしょ。音楽は戻らないよ。前に進むだけだよ。一緒。心が動いたら前に進む。好きになったとき、人って過去から前に進む。」

すずめちゃんの言葉は、「前へ進むこと」を強く宣言する。嘘で始まろうとも、ダマし合っていようとも、お互いの「心が動いたから」、過去に戻らず、前に進むしかないのだと。
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