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2016年11月05日07:41

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てっちゃん2

人生とはどうやら幼い頃誰を尊敬するかでだいたいが決まってしまうらしい。

自分は初めて尊敬する人物ができたのは、先生でも親でもなくやくざのてっちゃんだった。

小学校三年生のとき、しばらく彼といっしょだったときがあったが、やくざのてっちゃんは6畳のアパートに住んでいるのに、人には惜しげもなく金をつぎ込んでいた。

どういう稼ぎをしているのか。財布にはいつもはちきれんばかりの札が入っていて、口癖は自分より若い人にむけていう言葉

「ワルっちゅーのはな、金もっとるからワルやねん。ワルに金がないのは、人に頭がないのといっしょや」

と言っていた。

でも自分は知っている。

実際は彼はそんなに余裕をもっている方ではなかった。

彼は1人だったら、家の奥さんに食事を作らせて、質素な食生活を送り、そんなにお金を使う人ではなかった。

一方人には金を惜しげもなく使っていた。

弟分とおぼしき人が金がなくて、

「・・かあちゃん国で病気なんです」

と言えば、何も言わずその財布の中の10万か20万をゴソっと出し

「・・・俺ら極道は、親不孝を看板にしていきてるようなもんだ。たまには孝行してやれや・・」

という。

涙を流してその人はそのお金を受け取っていた。

てっちゃんは仲間内から神様のように思われていた。

夜の町で、知り合いの年老いたこじきを見つけ乞われると、必ず小遣いをあげていた。

「・・・お父さん、夜をなめとったらあかんで、酒飲んでそのまま寝るとの、そのまま死んでまうんや」

自分は彼にときどきおもちゃ屋につれていかれて、

「・・なんでもとりや、おじちゃんがこうたるさかい」

と言われたのだけれど、とてもじゃないけれど遠慮していると

「・・ぎんちゃん、子供の時はな、大人にあまえてええねん、思いっきり遊んで、思いっきり勉強しい。じゃないとええ大人になれへん」

と言われた。

忘れもしない。このときぼくは一番大きい野球盤を買ってもらったりした。

てっちゃんは優しいばかりでは無かった。

うでっぷしもつよく、どこかのスナックから電話がかかってきたとき、すぐ飛んでいくと、てっちゃんより身体の大きいチンピラを、一撃でのした。

裏通りでチンピラをのして、おおきいポリバケツもたれかかって、よろよろした相手に追い打ちをかけて、ボッコボコにのしてしまう。

それであいてのチンピラが降参し

「・・えろうすんまへんでした・・もうここでは飲みまへんさかい、許したってください」

と素直に謝ると、てっちゃんは弟分に金を託してそのチンピラに金をやったりしていた。

「・・・極道きどるんやったら、金くらいもっとけ」

自分は物陰からそういうてっちゃんを観たのだが、いままで学校で

「友達に暴力をふるってはいけません」

と教えられてきた正反対をみて、怖がるよりも、体中にアドレナリンがまわったようで、ふるえるように

「かっこええ・・・!」

と思ってしまった。

でもてっちゃんとの別れは突然来た。

てっちゃんのアパートに一ヶ月くらいおいてもらったときのこと、小学校三年生のぼくは、いつのまにか、やくざに憧れるようになっていた。

ある日自分はてっちゃんの入れ墨を真似してなんとその身体にマジックで入れ墨を描いていた。

「・・・将来おれはやくざになるねん、よわいもん守ったんねん・・」

てっちゃんは帰ってそんな自分を観ると、はじめて怖い顔をした

そんなてっちゃんの顔をみるとははじめてだった。

てっちゃんの弟分は、そんな自分の姿をみて笑い転げていたが、てっちゃんだけは笑わなかった。

「・・ぎんちゃん、そんなこというたらあかん・・!やくざっちゅうのはな、最低や、親が死んだときもあわれへん、いつ死ぬかもわかれへん。」

自分は元の母親のもとに届けられ、また元の生活に戻ったが、母親よりもてっちゃんに会いたかった。

でもてっちゃんは電話をかけてもとってくれないし、事務所にいっても会ってくれなかった。

自分は母親や、義理の父親の周囲にいるやくざは誰もきらいだったけれど、そのてっちゃんだけは例外で、いまだに僕の思い出につよく残っている。

特にお金の使い方はてっちゃんから学んだと思う。

だからいまだにぼくはええかっこしいで、すっからぴんだ。
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