初演に失敗した作曲家は、前回のラフマニノフだけではありません。
今日名前が残っている作曲家の多くは、多かれ少なかれ当時としては斬新で前衛的なことをやろうとしていたものですから、なかなか同時代人の理解が得られず、初演に失敗した人も少なくありません。
とくに有名なのは、イーゴリ・ストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」(Le sacre du printemps)の初演です。
「春の祭典」は今でこそ、20世紀を代表する傑作とされていますが、複雑なリズムの変化や不協和音が出てくるやや取っつきにくい作品です。
ただ、以前、こちらの日記(
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1838644681&owner_id=22841595)でご紹介した映画「ファンタジア」では、この作品が取り上げられ、こんなイメージで描写されていました。
https://www.youtube.com/watch?v=EiAFUJ4Shao
もっとも、後年、これを見た作曲者本人は、内容が自分のイメージと大きく異なっていたことに衝撃を受けたと云われてます。
ちなみにこの映画で音楽を指揮したストコフスキーは、この曲のアメリカでの初演者です。
問題の世界初演は、1913年5月29日に、パリのシャンゼリゼ劇場で、ピエール・モントゥーの指揮で行われました。客席にはサン=サーンス、ドビュッシー、ラヴェルなどの大物が揃っていたそうです。でも、曲の開始を告げる冒頭のファゴットのフレーズが奏でられると、サン=サーンスはこの段階で「楽器の使い方を知らない者の曲は聞きたくない」と言って席を立ったと伝えられています。その後も、嘲笑と野次が飛び交い、賛成派と反対派の観客達がお互いを罵り合い、殴り合い、音楽がほとんど聞こえなくなったと云われています。いや、それどころか、本当に怪我人まで出ています。出血覚悟で身体を張らなければならない惨憺たる初演だったといえるでしょう。
翌日の新聞には、原題に掛けて《Le "massacre" du Printemps》(春の"災"典)という見出しが躍ったとまで云われています。
ただ、ストラヴィンスキーの神経は、ラフマニノフのそれよりタフだったと見えて、確かに失敗を喜びはしなかったでしょうが、これだけの失敗にもへこたれず、その後も作曲活動を続けてます。「春の祭典」自体も、その後、公演が重ねられるにつれ、評価が上がっていきました。
実は、この人については、以前、こちらの日記(
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1827968271&owner_id=22841595)でも、触れたことがあります。その時には、軽い冗談で、この人がそんなことを言ったのだろうと思ってましたが、本人にとっては結構マジなところがあったようです。というのは、この人は、アメリカに亡命したロシア革命のときに全財産を失い、お金では苦労しているからです。
そのことを物語る事実としては、この人の作品には、「〇〇年版」と付く改訂版が矢鱈と多いことが挙げられます(「春の祭典」についても、ピアノ版も含めると9つもの版があります)。
大抵の作曲家は、自作をより良い物に仕上げたいと考えて改訂版を出すのですが、ストラヴィンスキーの場合は必ずしもそうではなく、版を重ねることで得られる印税収入を増やしたいという目論見が感じられます。亡命時に人から「昔発表した曲の著作権は主張できないが、 新たに編曲し直せばそれの著作権は主張できる」と入れ知恵されたとも言われています。
ところで、この人は、ヴァイオリン協奏曲も1曲作曲しているのですが、よく聴くと、安室奈美恵の“Can you celebrate?”に似ているフレーズが出てきます。
https://www.youtube.com/watch?v=ErxgHH2eeFQ
https://www.youtube.com/watch?v=YH4RnkpqAJU
上述のとおり、著作権にはうるさかったようですから、生きていたら著作権侵害を主張していたかもしれません。
また、この人は、1959年、77歳の時に1ヶ月ほど日本に滞在しています。その時に日本食が好きになり、特に刺身と納豆が大好物だったそうです。しかも、いきなり食事の際に「日本のこんな曲を知っている」と言って、それまで使っていた箸でグラスを叩きながら八木節を歌ったそうです。
どこで覚えたんでしょうね?
https://www.youtube.com/watch?v=eYzsyexE25c
さらに「日本にはチンドン屋というパフォーマンス集団がいるらしい。それを是非とも見たい」と言いだしたため、プロモーターが苦労して東京都内で新装開店するパチンコ屋を探し出し、 そこにやって来たチンドン屋を見学したということです。 その時は30分ほどそのチンドン屋の後ろについてリズムを取りながら曲を聞いていたそうです。
チンドン屋さんは、「春の祭典」の作曲者から見学されていたことを知ってたんでしょうか?
https://www.youtube.com/watch?v=tJe-m_MiIGg
今日は、ストラヴィンスキーの45回目の命日です。
ログインしてコメントを確認・投稿する