自分にとってふくちゃんはいつもボランティアを手伝ってくれる大切な人物である。
福ちゃんは少しハンデを持っている人だがそこぬけに明るい人だ。
アソークにある彼の夜泣きラーメンを食べにいき、バスなどの路線情報を聞いたりすると、驚くべき正確さで、停留所、時刻、行き先、乗り換えの場所などを指示してくれる。
彼の頭にはそのままタイバス公社の時刻表が頭に入っているかのようだ。
タイに住む日本人はほぼふくちゃんをしっている。
「タイでホームレスまでして住み着く男」
として日本でTV放送されたことがあるからだ。
友人になってから興味をもって本人に許可をもらい、少し調べたことがあるが、福ちゃんはふつうの人間なら絶望してしまうような過酷な環境で生きてきたようだ。
その半生には言葉にできないつらさがあったにちがいない
黒い血を生み出すような傷があり、骨を刻むような労苦があったはずだ。
好きで故郷を捨てる人間はそうそういないが、両親の死後ふくちゃんはもはや日本に帰ることなくそのままタイに住み着いた。
心ない人たちは、彼の独特なしゃべり方や、その風貌を目の敵にする人までいて、一時は日本のヤクザくずれに恐喝されるなどした。
ついに家賃が払えずホームレスになりカオサンの軒先に寝起きすることになったこともある。
相当みじめなことがこの時期におきたらしい。
本人に聞いてもその口は重いが
「・・・ビール瓶を投げられたことがアリマス」
と一言だけ言ってくれたことがある。
すべてを失ってもまだ人から逐われる状況、
「この俺はなんだ」
そう叫びたいことも1度や2度ではなかったろう。
そこまでのことがあっても彼はタイを去らずとどまった。
異国の空の下、海を越え、言葉の垣根を越え、その土に骨を埋める覚悟でいきようとする人間には覚悟がいる。
今彼はさまざまな理解者に恵まれ、とある日本食レストランの一員としてその屋台骨を支えている。
もちろん、いまでもそんな彼をからかい、目の敵のようにしてネットで罪をかぶせようとする人間がいるが、銀次郎は彼ほどやさしい人はいないと思っている。
先日、ボランティアの会場で列を乱す子供達に
「・・・メダーイナ・・・」 (だめだよ)
と少し傾いためがね越しにささやく彼を横目に見て
少し目頭が熱くなった。
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