mixiユーザー(id:15312249)

2015年11月28日02:18

103 view

〔小説〕八大龍王伝説 【398 弱小フルーメスの意地(十五) 〜差し出すモノ、手に入るモノ(終後)〜】


 八大龍王伝説


【398 弱小フルーメスの意地(十五) 〜差し出すモノ、手に入るモノ(終後)〜】


〔本編〕
「何故、ノイヤール殿は強国の将軍という地位を捨てて、弱小国の将軍になろうとされているのか?! それがわしには理解できない!」
「それは、失礼ながらシュトラテギー殿が弱小国に生まれ育ったからにございます」
 ノイヤールはニヤニヤしながら説明を始めた。
「諺(ことわざ)に『竜(ドラゴン)の尻尾より、馬(ホース)の首の方が良い』というものがあります。確かにフルーメス王国は馬(ホース)。ソルトルムンク聖皇国は竜(ドラゴン)ですが、聖皇国では将軍とはいえ、名前持ちの将軍――名前の無い将軍はそれより下位――の中では一番の末席です。
 それも戦時中のどさくさに奇跡が相まって、黄狐将軍になることができましたが、おそらくフルーメス王国攻略戦が私の最後の活躍の場でしょう。つまり、聖皇国ではトップに立つことはできません。
 しかし、フルーメス王国に席を置けば、私は全軍勢の三分の一から二分の一近くの軍勢を持つ大将軍になります。さらに、フルーメス王国の復活から始まり、ヴェルト大陸進出へと、いくらでも戦績を挙げる機会はあります。この理由でご納得いただけるでしょうか?」
 ノイヤール的には宰相或いは王の地位まで考えているようであったが、そこまで言うと警戒されるので黙っていた。

 さて、『竜(ドラゴン)の尻尾より、馬(ホース)の首の方が良い』という言葉は、今は残っていないが、現在も『鶏頭となすも牛後となるなかれ』――鶏の頭となるほうが、牛の尻よりいい――という言葉があるが、それが極めて近い意味合いの言葉といえる。
 巨大な国家や組織の末席よりも弱小な國や組織の主席の方が、やりがいがあるといった意味合いである。

「ノイヤール殿のお考えが良く分かりました。それでは最後に兵、食料、ときて肝心の武器や武具或いは馬(ホース)といった乗用動物等の軍備はいかにして整えるのですか?」
 シュトラテギーとしては、最後の疑問であった。
「お答えしましょう!」
 そういうとノイヤールは懐から三つの馬皮紙を取り出した。
「先ずは、武器や武具の材料となりうる最高の金属である金(ゴールド)ですが、これは金の産出量が大陸一のバルナート帝國から外洋を経て、フルーメス王国に送ります。それにつきましては、シェーレがバルナート帝國のネグロハルト帝王と、その宰相マクダクルスから了承を得ております。これがその証明書のようなものです」
 そう言うとノイヤールは、シュトラテギーに一枚の馬皮紙を渡した。
「そして後の二通が、ミケルクスド國のラムシェル王と、ジュリス王国のユンルグッホ王からの証明書で、それぞれの産出物である飛竜(ワイヴァーン)と馬(ホース)を、必要数送るという文面であります」
 ノイヤールは、そう言うと残りの馬皮紙もシュトラテギーに手渡した。
 ミケルクスド國はヴェルト大陸一のワイヴァーンの産出を誇り、ジュリス王国は、国家プロジェクトとして馬(ホース)の産出に力を入れ、やはりヴェルト大陸ではホースの産出量はジュリス王国の右に出る国家はない。ホースを育てるのに適した平野と、牧草を育てる土壌と穏やかな気候がその最大の要因であろう。
 シュトラテギーは、ノイヤールから受け取った三通の書状に目を通し、ヘルマン王と家臣たちの前で読み上げた。朗々と通るその声には既に何の疑問もなく、ノイヤールの提案に同意した雰囲気が感じられた。
 つまり、シュトラテギー自身の首も差し出すことに同意したということになるが……。
「それでは、最後の最後に私の方から補足いたしますことは……」
「ヘルマン王をどこに匿うかという点であろう。分かっておる」
 ネムの言葉にシュトラテギーはそう返した。
 続けて、シュトラテギーは言う。
「ネム殿とノイヤール殿、そしてシェーレ殿の真情は良く分かった。……であれば、カルガスの姫殿や林の麗姫殿を今まで無事に匿っておられるところから、充分信用できる。むろん、ヘルマン王をこのフルーメスの地からは出させようという流れではあると思うが……」
「さすがはシュトラテギー様。深いご洞察力であります。フルーメスの地はどこに隠れていようと、ザッドが本気を出せば、隠れきれるものではありません。その点、カルガスのフラル姫様や林の麗姫様が今、隠れている場所は絶対に見つかりません。なにしろ存在しない地なのでありますから……」
「それだけ分かれば充分だ。ネム殿。ノイヤール殿。フルーメスの命運とヘルマン王を託しますぞ!」
「「はい」」
 シュトラテギーの言葉にネムとノイヤールは同時に返事し、深々と頭を下げた。
 むろん、賢明な読者諸君には、ヘルマン王は幻の国家であり、九番目の國にあたるアジャール王国に匿われるということは分かってはいただけると思うが……。
「しかし、爺(シュトラテギー)!」
 へルマン王の言の葉である。
「私だけ助かって、爺が犠牲になるのが、まだ納得がいかない!」
「王よ。貴方は死んではいけぬ方。それに私は死ぬのではありません。今後は常に王の心の中に生き続けます。王さえ生きていれば、私が生きていると同義です。そして、フルーメスの民衆の心の中にも私は永遠に行き続けるでしょう」
「しかし、まだ爺には学ぶことがたくさんある。それが心残りだ」
「シュトラテギーの『戦略』は、全て王に託しましょう。今日から三日間で、その全てを語ります。おそらく、三日三晩になりますが……。覚悟しておいてください。三日三晩連続でそれも一度しか言いませんので……」
「分かった! 爺。一言一句聞き漏らすまい!!」
 へルマン王は大きく頷いた。
 フルーメスに関する総てがここに決したのである。



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 シェーレ(ナゾレク地方の地方長官)
 シュトラテギー(フルーメス王国三傑の一人。戦略の傑人。三傑の筆頭)
 ネグロハルト帝王(バルナート帝國の帝王)
 ネム(シェーレの片腕的存在。シェーレウィヒトラインの元三精女の一人)
 ノイヤール(ソルトルムンク聖皇国の黄狐将軍)
 林の麗姫(共和の四主の一人)
 フラル姫(カルガス國の姫)
 ヘルマン王(フルーメス王国の王。ヅタトロ元王の子)
 マクダクルス(バルナート帝國の宰相)
 ユンルグッホ王(ジュリス王国の王)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)
 アジャール王国(ヴェルト大陸北東の海域の海底都市国家。幻の九番目の國)

(竜名)
 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)

(その他)
 金(この時代において最も硬く、高価な金属。現在の金(ゴールド)とは別物と考えてよい)
 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)
4 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する