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2015年07月10日01:53

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猫の死

なぜ君はそこにいたんだ。

つい先日、雨の降る肌寒い朝、仕事のために車をだそうとすると、となりの住人が何かを叫んだ。

何事かと思い外に出ると、車の横に猫が血まみれで横たわっていた。

猫は眼球がとびだし、血を吐いている。もうだめだ。

猫は自分の車の下、どこかに隠れていたのだ。

その猫はそれでもあがいている。前足で必死に宙をかいている。

目の前がまっくらになったような気がした。

「・・・おれはなんということをしてしまったんだ。」

後悔してももう遅い。

銀次郎だけは知っている。猫ほどやさしい生き物はいない。

銀次郎がまだ若かった頃、飼っている猫のせいでどれだけ救われたろうか。

若い頃飼っていたその猫はナンシーという。

「腹がへったな、ナンシー」

とか声をかけると必ずちかよってくる。

自分が病をえて朦朧としていると、夜を徹して自分の顔を舐めていたあの猫。

何日も食わず、体力が尽きたところに肺炎をだして、死をも覚悟したあの夜。

彼女は自分のそばから離れようとはしなかった。

猫を飼い、世話をしてみるとわかる。

動物とはいえ彼らは恩をしっかりと感じ、このうえない愛情を主人にそそぐのだ。

そんな猫を愛した自分にとって、野良猫といえど、近くで断末魔の息で途絶えようとする猫を、どうやって見守ればいいんだろう。

思わず自分の家の壁を思い切り殴る。

5分ほどしてその血まみれの猫は、やっとこときれた。

つらかったろう、しんどかったろう、いっそのこととどめをさしてやればよかったのか。

ダンボール箱にその猫の体をいれてやった。

がっくりしている自分をみて隣人がいった。

「・・どうしようもないよ、このへんは捨て猫多いから・・そういうことはたまにある・・そうやって手厚く葬っているんだから、猫はたぶん恨まないよ」

そうかな?たぶん違うだろう。自分は隣人の言葉を背中で受けながら思った。

猫は見たところ1−2ヶ月のまだおさない猫だった。

自分が猫だったらこう思う。

「・・どうして自分を捨てたんだ?しかもこんな都会に?こんな雨の降る中、どこで雨をしのげというんだ?腹がへって、ぬれて、寒い気持ちがお前らにわかるか?俺はそれでも耐えていたのに、お前達が作った鉄の乗り物で最後まで苦しみながら死んだんだ」

自分はたぶん一生この猫のことで苦しむだろう。

しかし、この猫を捨てた人物も、どこかにいる。

その人物は今どうしているだろうか。

猫を捨てた当日は罪悪感に苛まれているかもしれないが

2−3日たって、ジュースを飲みながら、映画を観ているころには、この猫のことなど頭から離れているに違いない。

自分はその人物にいいたい。

「お前の代わりに俺はこの猫を殺したんだ」

捨て猫で幸せに寿命をまっとうする猫などほとんどいない。

このへんでいえば、車にひかれるか、カラスの餌になるかが関の山だ

捨てた奴、きけ、俺はお前の代わりに猫を殺してやったんだ

猫を殺した俺はとうぜん幸せな死に方はしないだろうが、お前もまた幸せな死に方はすまい。

来世こそお前は猫になり、車にひかれてみるがいい。

自分は猫を近くの土手で埋め葬ると、猫が死んだ場所に花をそえた。

こんなことぐらいで天国へあの猫が行けるわけはないが、恨むなら恨んでよい。

せめて自分が言えることは、次の世で猫に生まれ、飢え、震え、そして車にひかれても、決して恨むまい。

雨の降りしきる中、自分は花に向かってそう念じた。
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