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2014年08月18日08:43

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🟣 🍓 愛と罪

私がマダガスカルに行ってる間、三女の妹が母の病院に顔を出してくれた。
その時母は妹に
「虹ちゃん、今日はいつもより綺麗だねえ」
と言ったとか。

転院した病院に妹を案内した長男が爆笑してそれをラインで知らせて来た。
読んだ私は憮然とした。
何しろ4ヶ月前にもこんな母に私は傷つけられたばかりなのだ。
最後の最後まで母は娘の器量のことばかり話題にする。
「バカだね、お前は」
不機嫌になった私に主人が言った。

「お前より妹のSちゃんの方が傷ついてるに決まってるだろう。考えてもごらん。自分のことが忘れられてるんだぞ。間違えられてショックだったのはSちゃんだろ」

反省した。
気づいてはいたが器量のことにこだわっていたのは、そういう母に育てられた私の方だったのだ。

帰国してまた母の見舞いにいく毎日が続いているそんなある日、母が私をじっと見つめて弱々しい声で言った。
「お前…可愛いね…」

あら、久しぶりに始まったわね。
でも、どうせ妹が顔を出したらまた「お前が一番可愛いね」なんて言うんでしょ。
苦笑しながら聞き流そうとしたら母が続けた。
「可愛くて、可愛くて…仕方が無い…」

突然涙が溢れた。

転院してからの母はベッドに縛り付けられて、認知症よりも老衰の方が進み、寝てばかりいることが多くなった。たまに起きている時も声に元気が無く、私を怒鳴ったこともあった数か月前が嘘のようだ。

やがて母は義母のように意識不明になって昏睡状態に陥っていくのだろう。
避けられない未来を想像し、やせ細った母の寝顔を見るたびに泣いている私だったが、この日は母の見る前で涙がこぼれた。
すると母は優しく言った。
「泣くな…お前が泣くと母さんまで泣きたくなるから…」

だけど、だけど、だけど!
私の意思に関係無く涙はこぼれる。

涙はこの母の一言を絶対に忘れたくなくて、こうして日記にしたためている今も、とめどなく溢れる。
何年経っても、母のこの一言を思い出すたびにおそらく私は泣くだろう。

母を恨んだ日もあった。
母を置いて旅にも出た。

涙でそんな母への罪を洗い流せるわけもないのに。


    ***  後記 ***


子供の時から私は母が漫画やドラマや映画に出てくるような母とは全く違うことが、不思議で仕方がなかった。

私が1年生になったばかりの頃、拠ない事情で母が半年家を空けていたことがあった。
残された4年生の姉と1年生の私に4歳と、よちよち歩きの弟の4人の子供を父が一人で見るのには限界があった。
私と姉は弟のおむつの洗濯からご飯の支度もした。
けれど女手のない家庭の子供たちは洗濯もままならなかったし、着た切り雀だったのだろう。

半年後、母が帰ってきたよと聞いて家を飛び出し、向こうから歩いてくる母を見た私は「お母ちゃん!」と駆け寄った。
けれど母が言った一言は
「汚い。あっちに行け」
だった。

勿論私はひどく傷ついたが幼かったから自分が悪いんだと思って恥じた。
長じてその時のことを思い出すと、母はあまりにもあんまりだったことに気づく。
でも母はデリカシーに欠けていただけで愛がないわけではなかった。

だから母の口からドラマで聞いたことがあるような、かつて私が思い描いたような、正しい母親のセリフに私は虚を衝かれた。

「可愛くて、可愛くて仕方がない」
「泣くな。お前が泣けばお母ちゃんまで泣きたくなるから」
と言う言葉が飛び出した時は、喧嘩した日々や、介護にうんざりした日々を思い出し、激しい自己嫌悪と悔恨で私はうろたえながらも涙が溢れた。

ごめんね。
ごめんね。

その日、私は心から何度もそんな言葉を心の中で叫んでいた。

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