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2013年09月28日20:23

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〔小説〕八大龍王伝説 【278 第四龍王和修吉(四) 〜立場〜】


 八大龍王伝説


【278 第四龍王和修吉(四) 〜立場〜】


〔本編〕
「僕がシャカラとしての記憶を取り戻し、ワシュウキツの声と会話した段階では、僕が受動であった。それでも、僕はワシュウキツが仲間になってくれるのならば、それほど心強いことはないと思い、バツナンダ――君との戦いも承諾した。
 しかし、仲間になってくれるのならば程度の認識であったのは否定できない。そして、君も僕との戦いを通じて、マナシに多少なりとの不信感を抱(いだ)いたはずだ。ウバツラ監禁の件と、バルナート帝國ロードハルト帝王の死を通じてだ。
 そして、マナシとの話し合いの必要性に迫られ、それであれば、僕とワシュウキツと人数が多い方がいいと考えた。それも多い方がいいと考えたぐらいの認識だったと思う。つまり、この段階までは、僕(シャカラ)や君(バツナンダ)が受動の立場であり、主動であるワシュウキツに協力しようといった程度の認識だったと思う。
 しかし、今は立場が違う。マナシ陣営のアナバタツタに、僕等は襲われた。僕だけならともかく君もだ。それも何の話し合いもなくいきなりだ。そして僕等は、そのアナバタツタに一矢も報いることなく、命からがら逃げ出すのが精一杯であった。
 例え、僕等が戦った直後で、もろもろの力が落ちていたことを差し引いても、自分達の身を守るのが精一杯であった。そして、今日感じたワシュウキツの迫力だ。これは本物だ。君も当然分かっているはずだ」
「ああ〜。全く異論はない!」
「しかし、ワシュウキツは上級龍王ではない。あれだけの迫力を持っていても、下級龍王だ。今まで、僕は何番目の龍王とかは、意識したことがあまり無かった。単純な順番だけと思っていた。しかし、そうではないらしい。その順番には厳然とした格差があったと認めざるを得ない。
 そうなった時、マナシに到達するためには、ワシュウキツの力は僕等にはどうしても必要不可欠ということになる。なにせ相手は第五龍王(トクシャカ)、第六龍王(アナバタツタ)、第七龍王(マナシ)なのだから。今回のこの必要不可欠の認識で僕等が主動になった。
 そして、今、ワシュウキツは僕等に失望をして、僕等の力を欲していない。仲間を選ぶ権利が僕等からワシュウキツに移ったのだ。幸い、ワシュウキツが提案した今回の『試合』は、僕たちは負けたらそれで終わりだが、ワシュウキツは無傷のまま、負かすことが可能な試合のルールだ。
 そして、この試合で僕たちは、自分達より上位の龍王について学ばなければいけないと感じた。そういうことでこの試合は、僕たちこそしておく必要のある試合だということだ。そしてどうしてもワシュウキツを僕等の陣営に加えなければいけない。ワシュウキツを加えた僕たち三人の立場が大きく百八十度変わったということだ! 君なら既に理解していると思うが……」
「……」バツナンダは無言ではあったが、それはシャカラの言い分を全面的に受け入れたことを意味していた。
「それでどうやってワシュウキツを倒す!」
「それは戦いに賛同したと考えていいのだね!」
「ああ。それしか私たちには選択肢がないのだろう?!」
「そうだな。でもワシュウキツは倒す必要はない。頭の角だけ折ればいいのだから……」
「分かった!」バツナンダも納得したようであった。
「ところでバツナンダ!」
「何だ!」
「鎧の欠片(かけら)がよく残っていたな。てっきり僕との戦いで全て失ったと思っていた。現にアナバタツタとの戦いの時は、壊れかけの破片(はへん)だけだったではないか」
「ああ〜そのことか。バルナート帝國の帝都ドメルス・ラグーン内を『千里眼スキル』で探した。そうしたら八片だけ無事な欠片が見つかった。それを『取り寄せ』を使って、手に入れたのだ」
「なるほど」シャカラは納得したようであった。

「ワシュウキツ!」
「どうした!」シャカラの呼びかけにワシュウキツが答えた。相変わらずのとげとげしい口調であった。
「バツナンダが了承した。それで鎧を『物体転移スキル』で『取り寄せ』ていいか?!」
「構わないが……そんなもの何の役にも立たないぞ! それに鎧が天界の『隠し場所』に置いてあるのなら、おそらく取り寄せることは無理だぞ。既にマナシが結界を張っているからな!」そのワシュウキツの言の葉にシャカラが答えた。
「天界ではない。ソルトルムンク聖王国の僕の自邸に置いてある。残念ながらバサラ製ではなく、ゴールドでできている鎧だがな。自邸の武器倉庫に置いてあるので、バツナンダにも貸したいのだが……」
「好きにしろ! それから頭の角が頭の上で高すぎると思うなら、肩のこの大きな角を折っても、お前たちの勝利としよう。まあ肩の角は太すぎてお前たちには実質的には折ることができないと思うがな……」
「ワシュウキツ! あまり私たちを甘く見ると、足元をすくわれるぞ!」バツナンダがチクリと反撃をした。
「ハッハッハッ! その気概は大切だな。よし五分間作戦時間をやる。お前たちが話している間に四つの大きな松明を四方に用意した」
 見ると、全長十五メートルになる巨竜――バハムートを象った巨大な像がいつのまにかこの広場の四方に設置されていた。そしてその像は、皆、口を上に向けていた。
「燃えよ!」ワシュウキツのこの声で、その口から百メートルある天井につこうとする勢いで青い炎が燃え上がった。
「青い炎は五分間の作戦時間。赤い炎は十分間の戦闘時間だ。そして火が消えたときが、今日の終わり――つまり試合の終了だ。お前たちの一人でも生き残っていれば、お前たちの勝ちとなる。それでいいな……」ワシュウキツの説明にシャカラが答えた。
「ああ〜。一つだけ確認だが、僕の条件では作戦時間中は、ワシュウキツの攻撃は禁止されているが、僕たちは攻撃しても構わないということでいいのだよな!」
「そこまで……」バツナンダは呆れていた。
「先の言の葉では、そういう意味だったな! もちろんそれでいいぞ!」
 ワシュウキツはそこまでハンデを背負って、まだ自信満々であった。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営からウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 ロードハルト帝王(バルナート帝國の前帝王。四賢帝の一人。故人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。今は滅亡している)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 ドメルス・ラグーン(バルナート帝國の帝都であり王城)

(兵種名)

(付帯能力名)
 天眼・千里眼スキル(十六の付帯能力の一つ。超長距離にある物体、超極小の物体、超高速の動きをする物体、他の物体に遮断されて直接見ることのできない物体等を見ることができる能力)
 物体転移スキル(十六の付帯能力の一つ。物体を別の場所へ移動させる能力。一部分だけを他の場所へ瞬間移動させることも可能)

(竜名)
 バハムート(十六竜の一種。陸上で最も大きい竜。『巨竜』とも言う。また、単純に竜(ドラゴン)と言った場合、バハムートをさす場合もある)

(武器名)

(その他)
 下級龍王(八大龍王のうち、第一から第四までの龍王 具体的には難陀、跋難陀、沙伽羅、和修吉の四龍王。上級龍王に対する蔑称でもある)
 ゴールド(この時代において最も硬く、高価な金属。現在の金(ゴールド)とは別物と考えてよい)
 上級龍王(八大龍王のうち、第八から第五までの龍王 具体的には優鉢羅、摩那斯、阿那婆達多、徳叉迦の四龍王。別名『最良の四龍王』ともいう)
 バサラ(神々の世界でのみ採掘できるという金属。この時代の金よりさらに硬度が高い)


〔参考二 大陸全図〕
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