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2012年04月14日20:58
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八大龍王伝説 【１９９ 第二龍王跋難陀（二十：�掘法 粗宛�０３〜】
いつもお読みいただいている皆様、ありがとうございます。
それでは早速、八大龍王伝説をはじめます。
【１９９ 第二龍王跋難陀（二十：�掘法 粗宛�０３〜】
〔本編〕
「ドンク！ 起きろ！！」少し低めの女性の声色に、ソルトルムンク聖王国人和将軍のドンクは目を覚ました。
「ん？ どうした」聞き慣れているその声は、副官のシェーレのものであった。
「とにかく、外に来い！」シェーレはぶっきらぼうにそう言うと人和将軍の本陣の外に出て、そこでドンクを待っていた。
ドンクとシェーレは事実上の夫婦であった。他の者が同席しているときは『将軍』とか『副官』とか、お互いを呼び合うが、プライベートな時などは、先程のように『ドンク』と呼び捨てになる。年齢的にも二つ以上うえであろうシェーレの尻に敷かれっぱなしのドンクであった。しかし、ドンク的にはそれで全然構わないので二人は似合いの夫婦と言えるであろう。
ところで話が若干逸れるが、『年齢的にも二つ以上うえであろう……』と言うあやふやな表現をしたのは、実はシェーレの年齢は実際にはよく分からないからである。十六年前、バルナート帝國の玄武兵団の軍団長であった故ヴォウガー将軍に戦火の中で拾われた時が五歳であったからということになっているが、戦争の恐怖でシェーレは、この時軽い記憶喪失を起こしていたのである。子供が戦争の恐怖によってそうなるのは致し方ない。さらに両親が目の前で殺されたのであるならなおさらである。
だから、実際にヴォウガーに救われた時のシェーレの年齢はよく分からない。恐らく五歳ぐらいであろうという程度の記憶でそこから換算すれば、今年が二十一歳になるということである。
「なんだシェーレ。まだ四時前じゃないか。まだ真っ暗だぞ」時を知らせる兵から、時間を聞いたドンクが寝ぼけ眼（まなこ）で、本陣の外にのろのろとけだるそうに出てきた。
「霧がない！！」外に出た途端、ドンクは一気に眠気が吹き飛んだ。
龍王暦一〇五一年一〇月二〇日の午前三時四十分頃。通称バツナンダ大河を東に下っていたソルトルムンク聖王国の『東軍』（ソ��）の本陣での出来事である。
「何故、霧が晴れているのだ？」
「それを私に聞くか？」ドンクの問いにシェーレは憮然として尋ね返した。
「シャカラ様が結界を解除されたのか？」
「それは考え難い」シェーレはボソリと一言そう言うと続けた。
「シャカラ様が解除されたとしたら、それは戦争の終結を意味する。しかし、それはこの東軍にも然るべき報告があってからの結界の解除なら頷ける。しかし、それがない。シャカラ様が解除したというより、敵の手によって解除させられたと考えるのが妥当であろう。それであればシャカラ様の身の上も心配ではあるが、それよりも我々はこの東軍をどうするかという方針を決めなければいけないであろう。それも緊急に……」
「う〜ん」シェーレの発言にドンクは腕を組んで考え込んだ。
「とにかく、このヴェルト大陸の東海岸に近い場所では、夜明けは午前四時ぐらいと考えてよい。夜が明ければ誰の目にも霧が晴れていることは一目で分かってしまう。それまで何か手を考えないと……」
「シェーレ！」ドンクの言葉がシェーレの言葉を遮った。
「どうしたドンク」
「大河の結界も解かれているみたいだな。豪雨の音が聞こえない」
「確かに……」シェーレは少し驚いて答えた。
雨音に気づかなかったのは、冷静沈着なシェーレにしては珍しいことであった。しかし、霧の結界が解けているという衝撃の事実の前で、さらに絶えず聞こえてくる大河の濁流の音にかき消され、雨音を見逃したとしても、それは人として仕方のないことであったと思う。しかし、シェーレが驚いたのはそんな自分の迂闊さではなく、シェーレすら失念して気づかなかった雨音にドンクが気づいたということであった。
「敵のバツナンダの豪雨の結界も解除されているらしい。それであれば確かに濁流逆巻く河ではあるが、ここは下流域であるし、なにより敵の結界による働きがない！ ……とすれば、渡河することも可能ではないか。なあ。シェーレ」
「……ということはドンク。この大河を渡河して進軍するというのか？」シェーレはそうドンクに尋ねながらも、それが最善とシェーレも考えていた。
“確かにシャカラ様の危機だからといって、二十日間かけてここまで進軍してきたのだ。どんな強行軍を編成してもグラフ将軍の率いる中央軍と合流するには一週間は時が必要だ。また、ここは敵領内であり、大陸の東海岸近くまで進攻してきている。バルナート帝國と国境を接するカルガス國も近い。バルナート帝國と同盟であるカルガス國が我が軍の後退する背後を突く可能性も頭に入れておかなければならない。そうであるなら、いっそ大河を渡河してバルナート帝國の帝都を背後からつく動きをしたほうが、カルガス國も訳が分からない分、うかつには行動に出られないはずだ。よし！”
「ドンク！」シェーレがドンクに話しかけた。
「ん！？」
「大河を渡河して、帝都に進軍するのは妙案だ。すぐに大隊長以上を集めて、渡河の準備にかかろう。それと……」シェーレは続けた。
「カルガス國には二通の相反する書状を送ろう。それであればあの優柔不断な『迷王』のことだ。迷いに迷って結局、兵を動かすことはないだろう」ドンクとシェーレは二人頷くと、本陣の中に戻っていった。
それから約三十分後の夜明けの午前四時八分。本陣の中でドンクとシェーレを中心に大隊長以上の軍議が開かれていた。
〔参考一 用語集〕
（龍王）
難陀（ナンダ）龍王（ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅）
跋難陀（バツナンダ）龍王（フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営）
沙伽羅（シャカラ）龍王（ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営）
和修吉（ワシュウキツ）龍王（クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営）
徳叉迦（トクシャカ）龍王（ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営）
阿那婆達多（アナバタツタ）龍王（カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営）
摩那斯（マナシ）龍王（バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する）
優鉢羅（ウバツラ）龍王（ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される）
（神名・人名等）
ヴォウガー（バルナート帝國四神兵団の一つ玄武兵団の軍団長。故人）
グラフ（ソルトルムンク聖王国の天時将軍）
シェーレ（ドンク将軍の副官）
シャカラ（神としての記憶を取り戻したハクビ）
ドンク（ソルトルムンク聖王国の人和将軍）
バツナンダ（バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長）
（国名）
ヴェルト大陸（この物語の舞台となる大陸）
ソルトルムンク聖王国（大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅（ウバツラ）の建国した國）
バルナート帝國（北の強国。第七龍王摩那斯（マナシ）の建国した國。金の産地）
カルガス國（北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多（アナバタツタ）の建国した國）
（地名）
バツナンダ大河（バツナンダによって造られた大河。バルナート帝國の最終防衛戦線）
（兵種名）
（付帯能力名）
（竜名）
（その他）
玄武兵団（バルナート帝國四神兵団の一つ。ヴォウガーが軍団長）
〔参考二 大陸全図〕
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