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2012年04月09日18:41
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八大龍王伝説 【１９８ 第二龍王跋難陀（二十：�供法 粗宛�０２〜】
いつもお読みいただいている皆様、ありがとうございます。
今日は自分の誕生日にあたりますので、特別に八大龍王伝説をアップします。今日で4年目に突入いたしました。これからも末永く八大龍王伝説をよろしくお願いいたします。
【１９８ 第二龍王跋難陀（二十：�供法 粗宛�０２〜】
〔本編〕
続いて（ソ�◆砲砲弔い童譴蹐Α�
ヴェルト大陸の西海岸から海洋を経て、バルナート帝國の帝都ドメルス･ラグーンを西側から攻める予定でいるソルトルムンク聖王国地利将軍コリード率いる『西軍』一万のことである。この西軍がシャカラの霧の結界の異変に気づいたのは一〇月二〇日の夜明けであった。
この西海岸あたりは夜明けがヴェルト大陸の中で一番遅く午前六時過ぎであった。後二日程度でヴェルト大陸の西海岸に到達するという地点であった。早速、午前七時にコリード将軍は副官エアフェーベン及び三十六人の大隊長を本陣に集結させた。補給部隊千人を指揮する副官ノイヤールと四人の大隊長は今、この場にはいなかった。この場にいる大隊長以上を全員本陣に集結させたのである。将軍コリードは皆が集まったのを待って、口を開いた。
「シャカラ様の霧の結界が晴れるということは、シャカラ様かグラフ将軍率いる中央軍に何かが起こったと思われる。ここは、猶予はない。すぐさま西軍全軍はとって返し、中央軍と合流する。先陣はエアフェーベン！ 貴殿にお願いする」
「了承した。それで将軍はいかがなさいますのか？」先陣を託されたエアフェーベンが聞いた。
「二千の兵を率いてここで殿（しんがり）を務める。ここは敵のバルナート帝國領内であると同時にジュリス王国を併呑したミケルクスド國との国境線が近い。ミケルクスド國の王は四賢帝の一人であるラムシェル王だ。すぐに我らが退却する背後をつくだろう」
「将軍！ それは全滅必至の殿（しんがり）軍ではありませんか。ここはミケルクスド國に書状を認（したた）め、我らの背後を衝かぬよう申し入れるべきです」一人の大隊長が提案した。
「それは無理だな。ラムシェル王はバルナート帝國側だ。バルナート帝國からの申し入れでもない限り、バルナート帝國に敵する我々ソルトルムンク聖王国に利するような行為はしない。たとえ、我らソルトルムンク聖王国がバルナート帝國に勝ったとしてもだ。そういう御仁だ。ラムシェル王は……」そう答えたコリードは続けてこう言った。
「エアフェーベン殿。騎兵、飛兵の類は殿に残す必要はない。それら足の速い兵は先発させ、すぐさまシャカラ様やグラフ将軍と合流させるように……」
「はっ！」エアフェーベンは涙で顔を上げることができなかった。
「エアフェーベン！ 時間はない！ すぐに出立の準備をはじめ、準備が済み次第出立をせよ！」
「はっ！」こうコリードに急かされるとエアフェーベンとしても泣いてはいられなかった。
すぐに大隊長を指揮して、退却の準備をはじめた。
「将軍！」
「何だ！」
「ラムシェル王に書状をお出し下さい。場合によっては、ラムシェル王の気が変わるかもしれませんので……」エアフェーベンとして去る前にこれだけは言わずにはおれなかった。
「うむ。お主の気持ちはよく分かった。書状を認めよう」
「ありがとうございます！」これが、コリード将軍と副官エアフェーベンが最後に交わした言葉であった。
それから三時間後の同日の午前十時。西軍の先発が退却を開始した。
“ムーズ様。私コリードは王城マルシャース･グール奪回戦の折には貴方を最後まで守ることができませんでした。それをこのコリード。どんなに無念であったか……。むざむざ今まで生き恥を晒したのは、ムーズ様に褒めて頂ける役割を全うし、お側（そば）に向かうためでした。今、この場がその悲願を叶えられる地と思います。存分に働き、貴方との再会に華を添えます！”
殿（しんがり）の配置を兵に命じながら地利将軍のコリードは心の中でこう今は亡きムーズ将軍に話しかけていた。
この愚直で実直な中年将軍は、結局、ラムシェル王への書簡は認（したた）めず、ミケルクスド國軍との死闘の中で命を散らすのであった。
龍王暦一〇五一年一〇月二〇日午前二時十五分。西の小国ミケルクスド國の王城イーゲル・ファンタム玉座の間に数名がそろっていた。そこに間もなく、この國の王――ラムシェルが入ってきた。
「皆も存知あげていると思うが、本日の午前〇時頃。第三龍王沙伽羅（シャカラ）龍王によって敷かれた霧の結界が突然消滅した」
「それはどういうことですか？ 兄王！」茶色い髪でエメラルドグリーンの瞳をもった均整の整った顔立ちの女将軍が立ち上がった。
ラムシェル王の妹ユングフラであった。
「さすがの余も何事が起こったかは、今は分からない。この霧の結界によって八月以降、我が國の諜報機能は全く役に立たなくなった。諜報兵が自分の居場所も分からないばかりか、『天耳・天声スキル』や瞬間移動の術といったものも全くこの霧の中では無力になる。余の考えではソルトルムンク聖王国のバルナート帝國への大遠征だと思うのだが、この霧では我が國の帝國への援軍も、また聖王国の王城進攻も不可能であった。しかし、余は信じていた。恐らくは最終決戦が終わる前にこの結界は消滅するだろうと……。そしてついに待ち遠しかったその日がきた。あと二時間もすれば、大陸全土に配置している諜報兵や『草』の力で全ての勢力の動きが分かると思う。その時には軍を進軍させるぞ！」
今、この玉座の間に、ライヒター、ハリマ、ガイエル、そしてマークとホルムの父子がいた。今年の四月にこの王城で再会を果たしたマーク、ホルム、スリサであったが、それからマークは三日に一回はラムシェル王からの呼び出しがあり、その都度ラムシェル、ユングフラ兄妹と時を共にすごした。
この王から得られる情報は聖王国にいては得ることができない貴重なものばかりであった。親友のハクビが八大龍王の一人沙伽羅（シャカラ）龍王であることなど、聖王国の王城にいるより早く知ることができたぐらいである。特にユングフラ姫はマークがお気に入りで、第二の兄という意味の『ツヴァイトエルテラー』と呼ぶぐらいであった。
話を戻す。
「ライヒター！ ガイエル！」
「「はっ！」」ラムシェル王の呼びかけに二人の将軍は同時に答えた。
「それぞれ今何人の兵を動かすことが可能か？」
「すぐにということでありますと五千が精一杯かと」ガイエルが答えた。
「少ない！ 八千動員せよ！」
「はっ！」ガイエルは頭を下げて答えた。
「ライヒターは？」
「やはり七から八千程度かと……」
「よろしい。両将軍は軍を整えていくように……。敵の動きが分かり次第、こちらも兵を動かす」
「王！ 敵とはいずれですか？」ガイエルの言葉であった。
「ほぅ〜。そちには敵が誰か分からないのか？！」ラムシェル王はガイエルをジロリと見た。
「そのことについて、不肖ガイエル。意見具申ございます！」
「ほう〜。言ってみよ！」
「その前にお人払いを……」
「無用だ！ ここには側近しかいない！」
「いや。恐れ多いことですが……。マーク殿とホルム殿は我が國の客人としてのお立場。國の中枢に関わる議論はお耳に入れないほうがいいのでは……」
「ガイエル！」ラムシェル王が珍しく大声を出した。
「はっ！」
「王である余が許している者達だ。再度言う！ 人払いは無用だ！！」
「分かりました」ガイエルは苦々しい顔で頭（こうべ）を垂れたが、王に顔を向けた時にはその顔は平静な顔になっていた。
「それでは申し上げます。我が國の同盟国でありますバルナート帝國は、今や風前の灯。ここでバルナート帝國に味方をしても得るものはありません。これを期にソルトルムンク聖王国に味方すれば、我が國も安泰というもの」
「ガイエル！」
「はっ！」
「貴様は我が國を滅ぼすばかりか、遠く未来にまでこの國と余の名を逆賊の汚名として残そうというのか？」
「い・いぇ。そのような……」
「ガイエル！ 余をこれ以上怒らすな！ すぐに軍の整備をしておけ。二時間後には進軍ルートを命じる。ライヒターも準備に向かえ」その言葉にガイエルとライヒターは玉座の間を後にした。
マークは終始ニコニコしているラムシェル王が怒ったのを初めて見た。声こそ若干大声になったが、言葉遣いや顔色には一切表れない。しかし、大いに恐れを抱かせる静かな怒りであった。マークはここでラムシェル王の真の信条を知った心地であった。
この王は、謀（はかりごと）を多く用いるが、それは全て敵側に対してであって、決して自分の部下や自国の民衆並びに同盟国などにはそれを用いない。そして、ラムシェル王はバルナート帝國に『義』を感じ、同盟国になったのである。その同盟国が劣勢だからといって、それを見捨てるようなことはしない。見捨てることによってミケルクスド國という國が仮に存続できたとしても、そこには正義はなく一時（いっとき）の繁栄のみがある。それでは到底、長く國を保つことなどありえない。
“この王とシャカラが手を携えることができれば……”そう考えるマークなのであった。
これが一〇月二〇日の夜明け前のミケルクスド國軍の動きである。事実、二時間後の午前四時過ぎには、ガイエル、ライヒターが率いる一万五千の軍勢は、バルナート帝國とミケルクスド國の国境を越えて、ソルトルムンク聖王国コリード将軍率いる西軍に襲いかかったのである。コリード二千の殿（しんがり）軍の働きで、一旦は進軍速度が落ちたが、それでも多くの飛兵を有している國である。
殿軍崩壊後に、聖王国の西軍は後方からのミケルクスド國の攻撃に晒され、西軍はさらに三千もの死傷者を出したのである。確かに諜報機能に多く力を注いでいるミケルクスド國ではあるが、シャカラの霧の結界消滅から、わずか二時間で軍議を開き、またその二時間後には兵を進軍させているのである。
恐るべきはミケルクスド國の王――四賢帝の一人であるラムシェル王の見識と手腕であろう。
〔参考一 用語集〕
（龍王）
難陀（ナンダ）龍王（ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅）
跋難陀（バツナンダ）龍王（フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営）
沙伽羅（シャカラ）龍王（ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営）
和修吉（ワシュウキツ）龍王（クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営）
徳叉迦（トクシャカ）龍王（ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営）
阿那婆達多（アナバタツタ）龍王（カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営）
摩那斯（マナシ）龍王（バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する）
優鉢羅（ウバツラ）龍王（ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される）
（神名・人名等）
エアフェーベン（地利将軍の副官）
ガイエル（ラムシェル王の家臣）
グラフ（ソルトルムンク聖王国の天時将軍）
コリード（ソルトルムンク聖王国の地利将軍）
シャカラ（神としての記憶を取り戻したハクビ）
ノイヤール（地利将軍の副官）
ハリマ（ラムシェル王の家臣。ラムシェルの右脳と呼ばれる人物）
ホルム・スリサ（マークとレナの両親）
マーク（シャカラの親友。レナの兄）
ムーズ（ソルトルムンク聖王国の元人和将軍。故人）
ユングフラ（ラムシェル王の妹。当代三佳人の一人。姫将軍の異名をもつ）
ライヒター（ラムシェル王の家臣。ラムシェルの右腕と呼ばれる人物）
ラムシェル王（ミケルクスド國の王。四賢帝の一人）
（国名）
ヴェルト大陸（この物語の舞台となる大陸）
ソルトルムンク聖王国（大陸中央部から南西に広がる超大国 第八龍王優鉢羅（ウバツラ）の建国した國）
バルナート帝國（北の強国 第七龍王摩那斯（マナシ）の建国した國 金の産地）
ミケルクスド國（西の小国。第五龍王徳叉迦（トクシャカ）の建国した國。飛竜の産地）
ジュリス王国（北西の小国。第一龍王難陀（ナンダ）の建国した國。馬（ホース）の産地。今は滅亡している）
（地名）
イーゲル･ファンタム（ミケルクスド國の首都であり王城）
ドメルス･ラグーン（バルナート帝國の帝都であり王城）
バツナンダ大河（バツナンダによって造られた大河。バルナート帝國の最終防衛戦線）
（兵種名）
（付帯能力名）
天耳・天声スキル（十六の付帯能力の一つ。離れたある一定の個人のみと会話をする能力。今でいう電話をかける感覚に近い）
（竜名）
（その他）
草（ミケルクスド國の他国に土着しているスパイ）
四賢帝（当代の四人の優れた王の総称）
〔参考二 大陸全図〕
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