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2011年05月10日07:00

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マット・ディモン、ボーンシリーズ降板。

 日、『 ジェイソン・ボーン 』三部作を観直したが、抜群に面白い。イーストウッドが『 許されざる者(Unforgiven) 』で西部劇を、スピルバーグが『 プライベート・ライアン(Saving Private Ryan) 』で戦争映画を一変させてしまったように、『 ボーン・アイデンティティ 』がスパイアクション映画を完全に新しい次元に引き上げてしまったのは間違いない。かのOO7でさえ、『 カジノロワイヤル 』以降、『 ジェイソン・ボーン 』シリーズの影響が色濃い。おかげでロジャー・ムーア以降のコミカル路線から訣別し、「 極めて面白い作品 」に仕上がっている。

 マット・ディモンはもともとアクションスターではないが、主人公ジェイソン・ボーンを好演し、もはや彼なしに『 ボーン 』シリーズが成立するとは思えない〈少なくとも、マット以外が演じるボーンなど私は認めない)。なぜ、彼は降板したのか? シリーズ第二作『 ボーン・スプレマシー 』、第三作『 ボーン・アルティメイタム 』を監督したポール・グリーングラスが降板したことがその理由である。個人的には、ダグ・リーマンが監督した第一作『 ボーン・アイデンティティ 』が最も面白いと思っているが、素早いハンディショット、見えないくらい短いカット編集でスピード感溢れる映像を生み出し、ボーンシリーズを確立させた功労者がグリーングラスであることも揺るぎない事実である。表面上、グリーングラスが制作方針をめぐって、プロデューサー達と対立したことが降板の原因とされている。しかし、私はそれだけではない、と見る。おそらく、『 ・・・アルティメイタム 』の後で、主演マット・ディモン、監督グリーングラスのボーンシリーズコンビが制作した戦争アクション映画『 グリーン・ゾーン 』の失敗が影響しているはずだ。この映画では、マットはCIAのオペレーターではなく、米陸軍の歩兵小隊長を演じたが、どうしても「 ジェイソン・ボーンにしか見えない 」のだった。これは脚本の問題もあるが、ボーンシリーズの手法をそのまま持ち込んだグリーングラス演出の失敗によるところが大きいと思われる。その証拠に、イーストウッド監督作品『 インビクタス 』『 ヒア・アフター 』に出演したマット・ディモンは「 ボーンと同じ人物とは到底思えない、別キャラ 」となっているのだ。特に、『 ヒア・アフター 』で霊界と交信する霊媒師を演じたマットは素晴らしかった。どこから見ても、普通の人である。2作品で続けてマットを使い、それぞれ別人格を引き出した監督イーストウッドの傑出した演出力を認めざるを得ない。

 さて、ポール・グリーングラス降板がなぜ、マットの降板に繋がるのかは説明が必要だろう。実は、マットとグリーングラスは『 ・・・スプレマシー 』『 ・・・アルティメイタム 』でコンビを組んだことで、ぴったり息が合ったようだ。特に、マットは彼のスピード感溢れる映像演出に心酔し、ポールグリーングラス以外にボーンシリーズを撮ることはありえないと確信した。ロバート・ラドラム原作を全て使い果たし、シリーズ最終話となった『・・・アルティメイタム 』完成直後に続編の可能性を聞かれた時に、マットは「 ポールが監督をするなら、ぜひ出演したい 」と答えている(ちなみに、当のグリーングラスは「 誰か他の人が脚本を書いてくれるなら、喜んで監督したい 」と語っている)。グリーングラス降板で、マットがボーンシリーズ第4作出演への意欲を失ったのは間違いない。いや、むしろ、彼が降板を表明することでプロデューサー達とグリーングラスの和解を狙ったと考えるべきかも知れない。マットの性格から考えると(会ったことはないけど)、グリーングラスが降板したボーンシリーズに自分だけ参加することはできなかったはずだ。

 ここでもう一人の重要人物、ダグ・リーマンのことに触れねばならない。彼は第一作を監督し、二作目以降はエグゼクティブ・プロデューサーとして制作サイドに回っているが、『 ・・・アイデンティティ 』のオーディオ・コメンタリーを聴くと、彼こそが映画『 ジェイソン・ボーン 』実現の産みの親だということがわかる。ラドラムの原作ファンで、ジェイソン・ボーンの活躍を映像化したいと長年夢見て来た彼は、原作世界を冷戦終結後の現代に移し、主演にマット・ディモンを得て、『・・・アイデンティティ 』を世に送り出した。ある意味、ダグ・リーマンこそ最も熱心なジェイソン・ボーンファンであると断言しても良いだろう。その彼が、今回のマット降板をどう捉えているかといえば、これが酷い。「 ・・・マットなしでも制作する。ジェイソン・ボーンはスターだが、マットはジェイソンほど重要な存在じゃない 」とインタビューに答えているのだ。もちろん、これは額面通り受け取ることはできない。ジェイソン・ボーンシリーズ成功の立役者であるマットが出演しないのは、制作上大きな損失であり、それを一番理解しているのはダグ自身だからだ。これは彼の苦しい心中を表していると解釈すべきだろう。マットが降板した最新作『 ボーン・レガシー 』は、『 ・・・アイデンティティ 』以前のエピソードとして、若き日のボーンを描くことになると予想される。いかなる作品になるのか、温かい目で見守りたいと思う。
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