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2010年10月09日06:37

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八大龍王伝説 【098 朱雀騎士団(六) 〜炎〜】


いつもお読みいただいている皆さま、ありがとうございます

それでは、八大龍王伝説をはじめます


【098 朱雀騎士団(六) 〜炎〜】


〔本編〕
スキンムル城から一本目の狼煙があがった

「ナンダ殿!後五分ある 勇者と名が轟いているナンダ殿と戦えるのは僕にとって非常に栄誉あることである

一度でいい 握手をさせてもらえないか?」

そう言うとハクビは両斧を背中に皮の紐でくくりつけ、小型竜(ドラゴネット)に騎乗したまま、両手を出してナンダに近づいていった

「おお!いいぞ」

ナンダも気軽に槍を馬(ホース)についている皮の袋に収め、同じく騎乗したまま両手を伸ばした

ハクビの右手が左手に対し、意識的に少し遅れて差し出された

その結果、ハクビの左手をナンダの両手がつかみ、そのナンダの手の上にハクビが右手を添えるような形になった

次の瞬間、ナンダの手に添えると思われたハクビの右手は、さっとナンダの馬(ホース)の方に伸び、皮の袋からナンダの得物の槍を奪った

一瞬の出来事であった

次の瞬間、ハクビは奪った槍を勢いよく後方へ投げた

…と同時にハクビの左手がナンダの左手首を強くつかんだ

その状態でハクビはナンダに向かってこう言い放った

「申し訳ない!ナンダ殿!あの狼煙は一分前の合図だったのだ… だから今は十一時十一分!既に一騎打ちは始まっている!」

そのハクビの背中でスキンムル城からの二本目の狼煙があがっていた

そして、ハクビによって後方に投げられたナンダの槍は、レナの取り寄せの呪文によって、百メートル先のレナに向かって飛んで行き、吸い寄せられるようにレナの右手におさまった

「ふふっ!ハクビよ!貴様は噂どおり食えぬ奴だな!しかし、この後どうするのだ?」

ナンダは槍を奪われ、左手首をつかまれた状態でも余裕であった

「見栄は張らないほうがよろしいのではないか!ナンダ殿!自慢の槍は奪われ、左手はつかまれているので、得意の機動力も発揮できない

ナンダ殿!あなたが動くより先に、僕の斧があなたの左腕を切り落としているだろう…」

そう言いながらハクビはあいている右手を背中に回し、短斧(たんふ)をつかんだ

「手をつかんでいるとは…それは災難だなぁ〜 でも…災難なのは俺か?お前か?」

ナンダはにやりと笑った

次の瞬間である

ハクビの左手が炎に包まれ、一瞬のうちに全身に火がまわり、火だるまになった

ハクビは慌ててナンダの左手を離し、両手で小型竜(ドラゴネット)の首筋をつかんだ

しかし、炎程度でハクビほどの剛の者がナンダを離すだろうか?

炎という現象そのものや、熱さという激痛によって手を離したのではない

もしそうであればハクビは、左手を離す前に右手の斧で、ナンダの腕を切り離しているだろう

慌てて離すにはそれ以上の事があったのだ

耐え難い恐怖であった

ハクビは数秒間ドラゴネットの首をつかみ、突然、ハッとして我に返る

どこも炎は燃えておらず、火傷すらない

目の前をみると、あいかわらずにやけているナンダがそこにいる

次の瞬間、ナンダはハクビの横をすり抜け、一瞬にして百メートル先のレナの前にやってきた

レナは体を固くして、ナンダの槍をとっさに背中に回した

「それを返してもらおうか!出来れば力づくで奪いたくはないのでな…」

ナンダのこの言葉に、ハクビが観念したように付帯能力の『天声スキル』でレナに言った

「君を失いたくない!ナンダに槍を返してくれ」

レナは頷き、ナンダに槍を返した

レナから槍を受け取ったナンダは、悠々とハクビのところに戻り言った

「何が起こったか説明してやろうか?」

「・・・」

黙っているハクビを無視して、ナンダは説明をはじめた

「俺の槍を奪うのは良い手だったが、俺の左手をつかんで俺に接触したままだったのは拙(まず)かったな!

お前はものすごい炎の幻覚を見たと思うが、あれは幻覚であって、厳密には幻覚ではない

俺の心を具象化したものなのだ!お前ら人間が付帯能力(アドバンテージスキル)と呼んでいる『勇猛スキル』にあたる

強烈な勇猛スキルを俺の左手から、お前の体に送り込んだのだ すぐ手を離したのは正解だぞ!

あと数秒握っていたら、本当に炎に包まれたようにお前の体が自然に燃え出し灰になるところだったのだからな」

ハクビはこの説明で、恐怖を感じた理由を理解できた

すぐに手を離したのは、自分が我慢できなかったのではなく、ハクビの付帯能力の『直感スキル』による反射的自己防衛行動であったのである

そして、

「お前ら人間…?」

ハクビはこの言葉に引っかかって呟(つぶや)いた

「まるで自分が人間でないような…言いぶりだな」

ハクビがナンダにさりげなく問いかけると、案の定、帰ってきた答えが

「そうだ!俺は人間ではない!俺は神だ!お前ら人間が龍王と呼んでいる神だ!八大龍王の一人、難陀龍王(なんだりゅうおう)だ!」

であった

あまりにもあっさりと自分の正体を暴露したナンダに対し、ハクビはどう言っていいか分からなかった

「驚くのも無理はないが、それが現実なのだ!せめて神の手にかかって死ねることを名誉と思うが良い」

ナンダはそう言うと三メートルに及ぶ『紅き火の槍(ロートフォイアーランツ)』を構えた

その瞬間、その場の空気全てが炎に包まれたように赤く変わり、ハクビは言いようのない恐怖を感じ、それに支配されかけた

《落ち着け!相手の言葉に呑まれてどうする!ハクビ!これは強烈ではあるが、勇猛スキルには変わりはない!勇猛スキルには勇猛スキルだ!》

ハクビは自分を奮い立たせて、精神を集中した

みるみる恐怖は薄れ、赤い炎に見えた空間は、自然の色に戻っていった

《よしまだ勝ち目がないわけではないぞ》

ハクビがホッとした瞬間、

「グゥオオ〜」

彼の乗っているドラゴネットが泡を吹き、後ろ足で棒立ちになった

慌ててドラゴネットの手綱を両手で握るハクビ

「ふっ!さすがはハクビと言いたいところだが、乗っているドラゴネットはそんなに強くなかったようだな!」

ナンダのこの言葉にハッとしたハクビ

見るとナンダの乗っている炎馬(ファイアーホース)の燃えるような瞳の視線が、ハクビの乗っているドラゴネットを射抜いているように見えた

《まさか!ナンダの乗っている馬(ホース)は動物でありながら付帯能力(アドバンテージスキル)を有しているというのか!》

言うまでもなくこれは付帯能力の勇猛スキルの影響である

「行くぞ!ハクビ!!」

ナンダはそう叫ぶと、ハクビに対して、紅き火の槍による突きを繰り出した

ハクビはドラゴネットの手綱を両手でしっかりと掴み、竜の体を左に流してその突きをかわした…と思った

ハクビはこの動作に、付帯能力の騎乗スキル、能力放出スキル、直感スキルを限界まで発出した

しかし…

「グゥォォォォ〜」

ドラゴネットの叫び声

ドラゴネットの右後ろ足から鮮血が迸(ほとばし)る

疑うことなく、ナンダの突きがドラゴネットの右後ろ足を貫いたからである

ハクビが全能力を発出して回避したと思ったナンダの突き

しかし、完全にかわしきることはできなかったのである

そしてハクビを愕然(がくぜん)とさせるある事実があった

《ナンダの突きが全く見えない!!》

ハクビの視力は今、付帯能力(アドバンテージスキル)の五感増幅スキルで普段の十倍の動体視力になっている

それでも見えなかった!ナンダの突きが…



〔参考一 用語集〕
ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年 ソルトルムンク聖王国の人和将軍)

レナ(マークの妹 ハクビ将軍の副官)

ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長)

ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国 第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)

バルナート帝國(北の強国 第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國 金の産地)

スキンムル城(ソルトルムンク聖王国の東部地域の城)

付帯能力(その人物個人の特有の能力 アドバンテージスキルという 十六種類に体系化されている)

直感スキル(十六の付帯能力の一つ 現在や近未来の状況を感覚的に読み取る能力 通常の直感と非常に近い能力である)

勇猛スキル(十六の付帯能力の一つ 自らを高揚させ、味方の士気をあげる能力 また敵の士気を挫く能力でもある)

騎乗スキル(十六の付帯能力の一つ 竜や動物に乗る能力 また乗用している竜などと心を通わす能力も含まれる)

能力放出スキル(十六の付帯能力の一つ 本来の自分の基本能力(筋力、瞬発力等)を一時、飛躍的に高める能力)

五感増幅スキル(十六の付帯能力の一つ 視・聴・嗅・味・触の五つの感覚を増幅させる能力)

天耳・天声スキル(十六の付帯能力の一つ 離れたある一定の個人のみと会話をする能力 今でいう電話をかける感覚に近い)

ドラゴネット(十六竜の一種 人が神から乗用を許された竜 小型竜とも言う)

炎馬(馬と火竜(或いは炎竜)の混血の馬 ファイアーホースとも言う)


〔参考二 大陸全図〕
フォト



〔参考三 あらすじ〕
龍王暦〇〇〇一年 八大龍王によって八つの國(くに)が建国される

龍王暦一〇四九年八月 ソルトルムンク聖王国にあるクルス山でハクビが発見される ハクビは記憶喪失

龍王暦一〇五〇年二月一五日 ソルトルムンク聖王国のコリムーニ老聖王とバルナート帝國のロードハルト帝王がバクラにて会談 その席上コリムーニ老聖王が急死する

同年三月一〜三日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國が国境の町バクラで交戦、ソルトルムンク聖王国側大敗(バクラの戦い)

同年同月一〇日 ソルトルムンク聖王国の王城陥落 聖王国滅亡 ジュルリフォン聖王子は大陸最南端のツイン城に逃げ込む

同年五月三日 コムクリ村にバルナート帝國軍が襲撃、ハクビが白虎騎士団のバルゴー隊長を倒す 以後、グラフ将軍に助けられ、残党軍の拠点であるアユルヌ渓谷に到着する 

同年八月初頭 バルナート帝國とミケルクスド國連合軍がジュリス王国を滅ぼす

同年九月四〜五日 聖王国軍と帝國軍がツイン盆地で激突(ツイン城の戦い) 帝國軍ツイン盆地より撤退

同年一〇月一〇日 マルシャース・グール奪回の戦いにおいて、聖王国軍が勝利する

同年同月一五日 バルナート帝國とカルガス國連合軍がクルックス共和国を滅ぼす

同年同月二六日 バルナート帝國がゴンク帝國を滅ぼす

同年同月三〇日 ジュルリフォン第四十九代聖王誕生 ソルトルムンク聖王国の復活

同年一一月一一日 ハクビとバルナート帝國朱雀騎士団の軍団長ナンダが対峙する
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