江口洋介主演の『 木枯し紋次郎 』を観た。時代劇の地盤沈下が著しい現在、なぜ、このドラマをリメイクしようとしたのか定かではないが、ひとつだけ明快に言えるとすれば、中村敦夫のオリジナル版を知る視聴者が少ないのは大いに有利だったということだ。真面目に作られた「 なかなかの力作 」だが、オリジナルを知る者からすれば、これは『 木枯し紋次郎 』とは言い難い。
紋次郎の魅力とは、何か・・・。極言すれば、寡黙で冷徹な「 孤高の渡世人 」が見せる、人間らしい温かさであろう。他人との接触を嫌い、一人で生きることを是とする紋次郎は、不幸な境遇の人々から助けを求められても「・・・あっしには関わりのねえこって」と冷たく突き放す。しかし、最後の最後に長ドスを抜いて駆け戻っては、命を張って、彼らのために戦う。自ら多くを語らず、人嫌いかと思えるほど徹底した無愛想を貫く普段の姿があるからこそ、怒りを爆発させた紋次郎の活躍に、胸のすく思いがするのだ。紋次郎は寡黙でなければならない。人々の困窮を目にしようが、すぐに心を動かしてはならない。最後の戦いで、彼らの救済に失敗しても、一瞬、後悔の色を浮かべるだけだ。すぐに心を閉ざし、何事もなかったかのように旅に戻って行く。それが紋次郎の生き方なのだ。
江口洋介の紋次郎は、能弁である。実によく喋る。それだけで紋次郎としては大きな違和感を覚えるのに、他人からの進言や依頼に容易に耳を傾けてしまう。それゆえ、彼は自らトラブルに足を踏み入れるのだ。本来の紋次郎なら、他人の進言には耳を傾けず、他人の依頼など滅多に聞き入れることはない。それが彼の行動哲学だからだ。江口紋次郎は優しいが、安易かつ無用心で、残念ながらいささか凡庸なキャラに映った。（つづく）
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