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2024年05月19日09:45

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プア・ジャパン[読書日記987]

題名:プア・ジャパン
著者:野口 悠紀雄[のぐち・ゆきお]
出版:朝日新書
価格:950円+税(2023年11月 第3刷)
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経済学者:野口悠紀雄さんの本を読みました。
野口悠紀雄さんと言えば、ずいぶん前に『「超」整理法 』(1993年)を読んだことがあります。

さて、表紙裏の惹句を引用します。
“あなたは既に「貧民」かもしれない―
 “瀕死の病人”日本経済の処方箋を示す!
 かつて、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまで
 称されたこの国は大きく退潮し、購買力は先進国で
 最低レベルに落ち込んでいる。
 国民の多くが自覚のないままに、経済大国から貧困
 大国に変貌しつつある日本経済の現状と展望を、
 60年間世界をみつめたエコノミストが分析する。”

目次は次のとおりです。
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 はじめに
 第1章 気がつけば、「プア・ジャパン」
 第2章 昔はこうでなかった
 第3章 これから賃金は上がるのか?
 第4章 増大する財政需要と政治家の無責任
 第5章 デジタル化の遅れが日本の遅れの根本原因
 第6章 高度人材を日本に確保できるか?
 第7章 日本再生のエンジンは、デジタル人材

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印象に残った文章を引用します。

【第2章 昔はこうでなかった】《5 補助金依存体質になった日本の製造業》から、政府の助成金が企業の自立を阻害するという著者の考え。
“将来性の高い企業への投資は必要だが、それは市場メカニズムに基づいたものでなければならない。企業救済のための官製ファンドの設立は、一時的な救済策であるべきだ。そうでなければ、企業の自立や革新を阻害する可能性がある。
 日本の製造業は、官製ファンドや政府の一時的な救済策に依存する傾向にある。液晶事業を手がけていた日立、ソニー、東芝が設立したジャパンディスプレイへの出資もその一例だ。しかし、この試みも成功しなかった。”(75p)
 ⇒将来性の高い企業を官製ファンドで手助けすることは良いことだと思っていたのですすが、どうやら違うようです。

【第3章 これから賃金は上がるのか?】《5 日本は、もはやアジアで最も豊かな国ではない》から、先進国グループから転落しかねない日本について。
“IMFは、世界の40の国・地域を「先進国」としている。
 アベノミクス・異次元金融緩和が始まる前の2012年には、日本は先進国の中で第13位だった。いまは第27位だから、この10年間に大きく順位を落としたことになる。いま日本は、先進国グループから転落しかねない状態に陥っている。
 アベノミクス・異次元金融緩和が何をもたらしたかを、これほどはっきりと示しているものはない。”(123p)
 ⇒俗に「失われた十年」(あるいは「失われた二十年」)と言いますが、2012年以降の原因はここにあるのかもしれません。

【第4章 増大する財政需要と政治家の無責任】《4 不合理きわまりない少子化対策の財源》から、子育て政策に必要な財源の一部に健康保険料を使う案への反論。
“これはとんでもない筋違いの発想だ。児童手当拡充の財源は、その政策の性質上、税金で賄うべきだ。もし目論見通り出生率が上昇したとすれば、その恩恵は国民全体が享受するべきだからだ。(略)
 仮に、防衛費増額を健康保険料引き上げで賄うといえば、おかしなことだと誰でも思うだろう。しかし、児童手当となると、「おじいちゃんが孫のために小遣いをあげる」というイメージが浮かんできて、許容できる範囲と考える人がいるかもしれない。(略)しかし、これは単なる錯覚に過ぎない。”(157p)
 ⇒錯覚に陥らせて、筋違いであることに気づかせない姑息な手段かもしれませんね。

【第5章 デジタル化の遅れが日本の遅れの根本原因】《5 無人化と自動化が進むなかで、人間がなすべきことは何か?》から、デジタル化が進む中で人間がなすべきこと。
“決められた規則に従って組織を管理・運営することは、DAO(Decentraized Autonomous Organization:管理者のいない企業)でもできる。しかし、規則そのものを変えることは、人間の判断でなければできない。
 コンピュータがカバーできる仕事が増えるほど、人間でなければできない仕事の重要性は高まるはずである。(203p)
 ⇒この5節はタイトルを見て、期待して読んだのですが、残念ながら具体的な「人間がなすべきことは何か」は示されませんでした。もっとも、それを考えるのが人間と言いたいのかもしれませんが。

【第6章 高度人材を日本に確保できるか?】《2 学位取得者を冷遇する日本》から、著者が考える日本の経済が弱くなった理由。
“日本経済はなぜここまで弱くなったのか? それは、イノベーションの意欲が失われたからだ。なぜ失われたかといえば、高度成長期のビジネスモデルを継続したからだ。
 第2章で述べたように、1980〜90年代、情報技術分野で変革が起こり、インターネットの時代になったとき、日本は適応できなかった。多くの日本人が望んだのは、古い産業構造の維持だった。
 そこで政府が行なったのが、円安政策だ。2000年代以降の経済政策は一貫して、円安と低賃金で生産コストを下げ、安売りを推進するという手法をとった。
 それが極限まで推し進められたのが、アベノミクスにおける「異次元金融緩和」だ。(225p)
 ⇒著者の指摘どおりだとすれば、「異次元金融緩和」を推進した人たちは日本を危機に陥らせたと言えます。

【第7章 日本再生のエンジンは、デジタル人材】《6 ジョブ型雇用への転換が必要》から、終身雇用制度の歴史について。
“このような(終身)雇用体制は、日本でも昔からあったものではない。戦前の日本では、労働者は企業を渡り歩くのが一般的だった。しかし、戦時経済下において、生産性を向上させるために労働者の定着が必要と考えられ、年功序列賃金など様々な制度改革が行なわれ、終身雇用的な雇用制度が一般的になったのだ。私はこれを「1940年体制」と呼んでいる。(290p)
 ⇒終身雇用制ができてから80年しか経っていない制度だったとは知りませんでした。

第3章、第4章は経済の指標を示す専門用語がいくつか出てきて、難しい内容でした。
正直なところ読んで楽しい本ではありませんが、日本経済の現在の立ち位置について、冷静な分析がされた好著だと思いました。

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野口 悠紀雄[のぐち・ゆきお]
1940年、東京生まれ。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、エール大学でPh. D.(経済学博士号)を取得。
一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学教授などを歴任。一橋大学名誉教授。
近著に『2040年の日本』(幻冬舎新書)、『日銀の責任(PHP新書)』など多数。
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